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「日和やのだいどころ」が緩やかに提案する、高加水パンと発酵の食。

長岡市が拠点の「日和やのだいどころ」。「高加水パン」と「発酵を活かした食」の魅力を多くの人に知ってほしいとはじめた庭野さんが、週末は「秋山孝ポスター美術館 長岡(APM)」内でカフェを、平日は自宅の一角で食のレッスンを開催しています。今回は普段レッスンを行っている素敵な台所へお邪魔して、「日和やのだいどころ」をはじめたきっかけや、レッスンで大切にしていることについて聞いてきました。

 

 

日和やのだいどころ

庭野 睛ゐ Harui Niwano

1961年三条市生まれ。東京で出版やリサーチの仕事を経験、1995年に十日町へ移住し、染色や越後上布について学ぶ。主婦のかたわら柿渋染めの作品を制作しクラフト展などに出店。2018年に自宅を改装した「高加水パンと発酵スイーツの店 日和やのだいどころ」をはじめ、2020年に閉店。現在は土日に「秋山孝ポスター美術館 長岡(APM)」内でカフェ営業をしながら、長岡の自宅で発酵の食教室を開いている。

 

高加水パンと発酵食に出会い、自宅を改装したカフェをスタート。

――以前は十日町にご自宅があって、そちらでカフェを開かれていたそうですね。

庭野さん:もともと料理が好きで、十日町にいた頃によくパンを作るようになったんですよ。夫の知り合いに天然酵母でパンを作っている人がいると聞いて、その人のところで教わったり、図書館で本を借りて試してみたりしながら、いろんなパンを作って家族で食べていました。

 

――カフェをはじめることになったのは?

庭野さん:台所が傷んでしまったので改装することにしたんです。でもただ改装するのもなって思って。もともと食には興味があったので、自宅を改装してカフェにすればそんなにリスクもなくできるかなと思ったんです。自治体がやっている起業セミナーに出て、「できるかも」って。

 

――どんなものが食べられるカフェにしようと考えていたんでしょうか。

庭野さん:その頃十日町にはあんまりパン屋さんがなかったのと、できれば他の人がやっていないようなパンがいいなと思いまして。ちょうどその頃、私が今作っている「高加水パン」っていうパンがあることを知ったんです。水分が多くて口溶けのいいパンで、それまでもいろんなパンを作ってきたんですけど、そのパンは衝撃でして。こんなパンがあるんだと思いましたね。

 

 

――何をきっかけに高加水パンと出会ったんですか?

庭野さん:志賀勝栄さんという方が書かれた「パンの世界」っていう本です。その頃は世田谷にお店があったので、夫が東京に行くときに買ってきてもらって食べたら「何この美味しさ!」と思って。レシピを見て、いろいろ工夫しながら1年ぐらい作ってみて。そしたらわりと形になるものができてきたので、「このパンをメインにカフェをしたいな」と思うようになったんです。

 

――ちなみに高加水パンって、水分をたくさん含んでいるパンっていうことですか?

庭野さん:そうなんです。私は粉の量に対して85%以上の水を加えています。口溶けと歯切れのよさが特徴です。パンって口の中にまとわりつく感じがあるなと思っていたんですけど、それがないんですよね。それで「このパンの美味しさを他の人にも知ってほしい」と思ったんです。レッスンでは発酵を促す甘麹を少し使いますが、基本的には粉と塩と酵母で作っています。

 

 

――発酵食との出会いについても教えてください。

庭野さん:5、6年前ですかね。発酵機でヨーグルトや甘酒を作って常食するようになったんです。そしたら体調がすごく変わったんですよ。個人差があるので人それぞれだと思うんですけど、私には合っていたんです。それで、他にも合う人がいるんじゃないかと思って、パンの他にもヨーグルトや甘酒を使ったメニューを出すことにしました。「高加水パンと発酵スイーツの店 日和やのだいどころ」という名前でカフェをはじめて、それが2018年で、2020年までやっていました。

 

――お料理の知識はどこで学んだんでしょう?

庭野さん:本好きというのもあって、図書館で毎月25冊ぐらい本を借り続けていたんです。そうすると年間で250〜300冊。それを20年ぐらい続けていたので、5000〜6000冊は読んでいたということになります。そのうちの半分くらいは毎回料理の本なんです。気になったものを片っ端から借りて、気に入ったら買って。だから特に修業をしたとかではないんですけど、それが私の料理に対するスタンスですかね(笑)

 

できる範囲で食卓に発酵を取り入れてもらえるような提案を。

――今は「秋山孝ポスター美術館 長岡(APM)」でカフェを運営されていますが、そちらではどんなものを提供されているんでしょうか。

庭野さん:パンを主体としたランチがメインで、パンとスープ、パンとドリンクという2本立てです。スープは麹調味料を使ったものを出していて、季節のポタージュが多いです。飲んだ方は「麹調味料だけの味付けなんですか?」って驚かれますよ。

 

――へ〜、麹調味料だけでも奥行きのある味になるんですね。

庭野さん:ドリンクには自家製のフルーツビネガーや甘麹を使っています。甘麹は甘酒をちょっと濃縮して甘くしたもので、甘酒よりももったりしているんです。

 

――スープにもドリンクにも麹が使われているんですね。

庭野さん:最近だとミートローフサンドをはじめて、玉ねぎ麹とかトマト麹をソースにして、麹調味料をふんだんに使ったメニューを提供しています。あとは「パンペルデュ」といって、フレンチトーストですね。本来は甘くするものですけど、塩麹を入れて卵液を作ると食事系にもなるので、ベーコンとかと一緒に食べていただいています。

 

 

――十日町にいた頃からカフェと一緒にレッスンもされていたんですか?

庭野さん:十日町では希望者だけにちょっとだけ教えていて。自分で焼けば焼きたてが食べられますし、レッスンなら高加水パンの魅力と作る楽しさを直接詳しくお伝えできるなというのでやるようになりました。

 

――麹を扱うレッスンを受けられる方は、どんな思いで来る方が多いんでしょうか。

庭野さん:パンもそうですけど「発酵食品は腸にいい」とか情報がいろいろあるので、「自分も取り入れてみたいな」という人が多いのかなと思います。塩麹とかはポピュラーになってきていますし、そこを入り口として、できる範囲で食卓に取り入れてもらえるようなご提案ができればいいなと思っています。

 

 

――教えたことの全部を生活に取り入れてほしいとは思っていないんですね。

庭野さん:玉ねぎ麹を使ったハンバーグのときは「本当に簡単だった」「頻繁に登場します」という方とか、甘麹のアイスがお気に入りの人は「今年の夏はこればっかりで、アイスを買わなかった」という方がいらっしゃって。子育てとかで忙しい方は麹調味料から作っていられないかもしれないんですけど、その中でも取り入れられることをやっていただけているみたいです。「忙しい方が多いので、もうちょっとやりやすい方法はないかな」とは常に意識するようになりましたね。

 

――レッスンを受ける生徒さんの生活のことも意識されているんですね。

庭野さん:必ず麹を使わなくてもいいと思うんですよ。「これがダメあれがダメ」じゃなくて、「これでもいいあれでもいい」っていう提案の仕方ですね。塩麹なら塩で代用できますし、「塩麹というものがあるんだ」ということが分かっていれば、やりたくなったときにシフトできるじゃないですか。そういうきっかけのひとつになればいいですね。

 

来た人にホッとしてもらえるような場になればいい。

――庭野さんはここに来る方にどんなふうに時間を過ごしてほしいと考えているんでしょう。

庭野さん:ここは景色もいいし「気分転換になる」という方。またゆっくりとランチのコースを召し上がっていただいていますが、それを「楽しい」と言ってくださる方がいらっしゃるんですよ。来た人が「ああ良かったな」と言って、ホッとしてもらえるような場になればいいなって常に思っています。

 

――これからも「日和やのだいどころ」を続ける中で、伝えていきたいことってありますか?

庭野さん:私は子育てをほぼ終えてからお店をはじめたんです。そしたら「私もちょっと何かやってみたいんです」って言われることがすごく多くて。何かはじめるのに遅いっていうことはないので、そういう方たちの助けにもなりたいですね。

 

 

 

パンとおやつ 発酵の食 日和やのだいどころ

 

教室

長岡市高町4丁目858-365

 

カフェ

長岡市宮内2-10-8 秋山孝ポスター美術館 長岡(APM)内

土日のみ営業

11:00-16:00(L.O. 15:45)

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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