赤と青の起き上がり小法師のような「三角だるま」を作っている「今井人形店」。三角だるまは阿賀野市の工芸品と思われがちですが、その昔は中越を中心に、県内の各地でも作られていたそうです。作り手が減っている中で、代々三角だるまを製造している「今井人形店」9代目の今井さんに、いろいろとお話を聞いてきました。
今井人形店
今井 和博 Kazuhiro Imai
1968年阿賀野市生まれ。デザイン系の専門学校を卒業後、印刷会社に6年間勤務。その後、「今井人形店」に入るも一旦人形づくりから離れ、介護職に就く。現在は、「今井人形店」の代表職と介護福祉士を両立している。鉄道と動物が好き。
――「今井人形店」さんでは、代々三角だるまを作っていらっしゃるんですか?
今井さん:私は「今井人形店」の8代目で、おそらく5代目から三角だるまを作っていたようですね。それ以前は、「土人形」を作っていたんですよ。私も土人形を作ってみたいところなんですが、介護の仕事もしているので、なかなかその時間が取れなくて。
――納期が迫ってくるとスケジュールが詰まってくるわけですね。
今井さん:そう、そう、そう(笑)。作業部屋で仕事をして、パートに行って、また戻って作業してと、慌ただしい日々が続くときもあります。
――今井さんが三角だるまの唯一の作り手だと、聞いたことがあります。
今井さん:どうでしょうかね。間違いなく私だけなのかは、はっきりわかりませんけれども。ただ作り手さんの数は、かなり少なくなっていると思います。もしかしたら、ほんとうに今は私しか作っていないのかもしれません。祖父、叔父、母、私と代々三角だるまを作ってきました。じいちゃんが三角だるまを作っている姿をよく覚えてます。ばあちゃんと手伝いに来てくれる近所の人と一緒に、黙々と三角だるまを作っていました。
――家業に入ろうとは決めていたんですか?
今井さん:じいちゃんの姿を見て、子どもの頃から「三角だるまを作りたい」と思っていました。ゲームには一切興味はなく、プラモデルだとか何かを作ることを楽しいと思うタイプだったもので。私が本格的に三角だるまを作るようになったのは、3年くらい前からです。まだまだ、完璧な作り手じゃないですよ。
――作業部屋には、作り途中の三角だるまがたくさん並んでいますね。
今井さん:ここにあるのは、地元の学校から頼まれたものです。生徒さんがだるまに色と顔を入れられるように、白い下地を塗って完成です。地元の皆さんに愛着を持ってもらえているのだから、嬉しいですよね。
――そもそも三角だるまは、何のために作られたお人形なんでしょう?
今井さん:家内安全、無病息災の願いが込められています。赤いだるまはお母さん、青はお父さん。赤い方が大きく、女性が強いと家庭が円満になるという意味があるのだそうです。緑と紫のだるまは、春限定の商品です。ちなみに三角の形は何をモチーフにしているか、ご存知ですか?
――う~ん。三角といえば、米どころらしくおにぎりですか?
今井さん:蓑笠(みのかさ)なんですよ。雪ん子が、頭に被っているような。
――ほぉ~。イメージが湧きます。サイズもいろいろあるみたいですね。
今井さん:7、8種類くらいはあるかな。通常、土台部分は安田の土を固めたものを使うんですけど、大きいサイズの場合はコンクリートで作るんですよ。それがものすごく大変なので、今は土の型で作れるものだけにしています。
――「今井人形店」の三角だるまは、口がへの字になっているところに特徴があるそうですね。
今井さん:あれは、じいちゃんが考案したみたいですね。どういう意味を込めたかは分かりませんが(笑)
――作る上で難しさを感じるところはどこでしょう?
今井さん:表情を描く工程が、いちばん難しいですね。特にヒゲが。先代は迷いなく髭を描いているんですよ。一気に、勢いよく。私は「かわいい表情に仕上げたい」って思いが強くて、少しずつ慎重に描き進めちゃうんです。
――ひとつひとつ手作業でしょうから、作る人の癖みたいなものが人形に出るのでは?
今井さん:そう言われることはありますよ、「性格が出ている」って。もしかしたら、母が作った人形と私が作った人形の違いに気づいた方もいるかもしれません。
――代々受け継いできた人形作りを任されているプレッシャーみたいなものはありませんか?
今井さん:それは、ありますね。「自分がやめたらどうなっちゃうんだろう」という心配も。これまでは今井家が代々人形作りを継承してきました。これからはどうなるのかわかりませんけど、もし「三角だるまの作り方を教えてほしい」という方がいらっしゃれば、お伝えしたいと思っています。
今井人形店
阿賀野市山口町2-7-24
0250-4065-1192