新潟市北区に「アイアン&サンドnuku森」という、アイアン家具の工房でありながらサンドイッチやコーヒーも楽しめるお店がオープンしました。木のあたたかみを感じられる店内で、オーナーの光夫さん、店長の香奈絵さんご夫婦にお会いして、製品やお店のこだわりについてお話を聞いてきました。
アイアン&サンドnuku森
加藤 光夫 Mitsuo Kato
1978年東京都生まれ。中学生のときに岡山県へ移住。居酒屋のアルバイトをきっかけにホテルの割烹、韓国料理店で調理師として経験を積む。その後は鉄工の仕事に進み、独立や再就職を経験。2012年に新潟へ移住しアイアン家具の工房で働き、2024年に独立して「アイアン&サンド nuku森」をオープンする。海釣りが趣味。
アイアン&サンドnuku森
田村 香奈絵 Kanae Tamura
1994年小千谷市生まれ。新潟デザイン専門学校卒業後、ジュエリー工房や木型製造工場で経験を積む。ダイニングバーを経て働きはじめたアイアン家具の工房で光夫さんと出会い、2024年に「アイアン&サンド nuku森」をオープンする。アクセサリー小物も製作している。
——店内のテーブルや椅子もこちらの製品なんですね。光夫さんは最初から家具職人をやってこられたんでしょうか?
光夫さん:最初は調理師として、ホテルの割烹や韓国料理店で働いていたんですよ。その後、鉄工所で働いていた友人から誘われたのがきっかけで、鉄工の仕事にのめり込んでいきました。鉄の棒や板が自分の思い通りの形に変わっていくのが面白かったんですよね。
——それ以来、ずっと鉄工の仕事を?
光夫さん:そうですね。独立して自分で鉄工所をやっていた時期もありましたが、リーマンショックで得意先が倒産してしまい、多額の未払いを経験したことで心が折れてしまったんです。そこで再就職した会社の転勤で新潟に来て、定住することに決めたんですよ。
——アイアン家具をつくりはじめたのは、いつからなんですか?
光夫さん:鉄工所を自営しているときにアイアン家具と出会い、あまりのかっこよさに惹かれて自分でもつくってみたいと思うようになりました。そこで神戸に住むアイアン家具の職人にお願いして、本業のかたわら4〜5年かけてつくり方を教えてもらったんです。
——それまでやってきた鉄工とは違ったんでしょうか?
光夫さん:鉄の扱いには慣れていましたけど、木材は扱ったことがなかったんですよ。鉄とは真逆の材料ですから、材質や強度などを一から勉強しました。
——新潟に来てからはどんなお仕事を?
光夫さん:アイアン家具の製造をしてきました。その職場で妻と出会ったんです。
——香奈絵さんもアイアン家具の製造に携わっているんですか?
香奈絵さん:はい、昔からものづくりが好きだったんです。小学校のとき手芸クラブに入ったことをきっかけに、いろんな手芸を楽しむようになっていきました。なかでもビーズアクセサリーにハマって、アクセサリーづくりが大好きになったんですよ。
——アクセサリーづくりを仕事にしたんでしょうか?
香奈絵さん:新潟デザイン専門学校の雑貨・ジュエリーデザイン科で勉強した後、ジュエリー工房で指輪をつくる仕事に就きました。その後は木型をつくる仕事を経てアイアン家具の製造をすることになったんです。
——「nuku森」という店名には、どんな思いが込められているんでしょう?
香奈絵さん:あたたかみのある店を目指したかったので、「ぬくもり」という言葉を店名に使いました。アイアン家具の材料に木材を使っているので「もり」は漢字の「森」を使うことにしたんです。「ぬく」はひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットをすべて試して、アルファベットの「nuku」にしました。
——なるほど。この建物には元々何があったんでしょうか?
光夫さん:ここは自動車整備工場だった建物なんです。妻とふたりでリノベーションしたので、とても時間がかかりましたね。
香奈絵さん:店名通り「ぬくもり」のある店舗にしたかったので、木をたくさん使いました。暖色系の色を使うようにして、色調の違った板をモザイク柄のように並べたんです。ただ、縦に並べるか横に並べるかで夫とはバトルになりましたね(笑)
——横に並べる派が勝ったんですね(笑)
香奈絵さん:縦に並べたデザインと横に並べたデザインを図面でつくって、それを比較しながら夫にプレゼンをしたんです。それで私の主張していた、横に並べる案が勝ちました(笑)
——そんなふうにご夫婦で意見が分かれることも多いんでしょうか?
香奈絵さん:アイアン家具に対するこだわりや考え方は、お互いにまったく違うんです。私は曲線を使ったデザインが好きで、使いやすさを重視しています。とくに女性にとって使いやすいかどうかが大事だと思っているんです。家事の中心になることの多い女性が使いづらい家具だと、使わなくなってしまいますからね。
——光夫さんは香奈絵さんと違ったこだわりがあるんですね。
光夫さん:僕はインダストリアルなイメージのブルックリンスタイルが好きなんです。だからアイアン素材も色を塗らずにそのまま使いたいし、木材も節や目地をそのまま生かして、職人の手づくり感を大切にしたいと思っています。
——お店にもいろいろなアイアン家具が並べられていますね。
光夫さん:イートスペースのテーブルや椅子も、サンプルとして実際に使い心地を試していただけるんです。こちらにあるサンプルを元にオーダーいただくこともありますし、お客様が持ち込まれた参考写真やデザイン画を元に製作することもあります。
香奈絵さん:販売されている製品を買うのもいいんですけど、サイズや仕様が合わないことも多いじゃないですか。オーダーメイドだったらピッタリなサイズでつくったり、使いやすい機能を盛り込んだりすることができるんです。
——確かにその通りですね。でも、オーダーメイドってお金がかかりそうでハードルが高いんですよね……。
香奈絵さん:私たちは夫婦ふたりでこじんまりとやっているので、そんなにお金はかからないと思います(笑)
光夫さん:僕は長い間鉄工業に携わって様々な仕事を手掛けてきましたので、ちょっとやそっとの仕事では大変さを感じないんです(笑)。その分、料金設定は低めだと思っています。もちろん、ご予算に合わせることもできますよ。
——アイアン家具の工房で、サンドイッチを売ることにしたのはどうしてなんですか?
光夫さん:店の認知度が低くて敷居が高いみたいなので、それを解決するために飲食業もやることにしたんです。そうすることで誰にでも興味を持ってもらえるし、店にも立ち寄りやすくなると思ったんですよね。サンドイッチとコーヒーを楽しみながら、アイアン家具を見ていってほしいですね。
——いろいろな料理があるなかで、サンドイッチを選んだのはどうしてなんですか?
香奈絵さん:アイアン家具との相性がいいと思ったんです。最初はテイクアウトだけの予定だったんですけど、店の雰囲気を気に入ってくれて店内で食べていきたいという声が多かったんですよ。最近ではゆっくり過ごしていく方や、子ども連れのお客様も多いですね。
——サンドイッチはどんなことにこだわって、つくっているんでしょう?
光夫さん:何種類もの食パンを食べたなかから厳選した、老舗ベーカリーのパンを使っています。甘みがあって耳まで柔らかいので、耳を落とすことなくそのまま使っているんです。野菜もたっぷり使うよう心がけています。野菜の値上がりが続いていて厳しいですけど、お客様に満足していただくためには仕方ないですね(笑)
香奈絵さん:フルーツサンドはジャムを手づくりしています。新しくはじめたコーヒーゼリーは、コーヒーの苦味や香りをしっかりと感じてもらえるようにしています。ゼラチンやコーヒーの配合バランスに気をつけて、プルプルと柔らかい食感に仕上げていますので、口溶けがよくて食べやすいんですよ。
——まだオープンして間もないですけど、ゆくゆくはどんなことをやっていきたいですか?
香奈絵さん:アイアン家具だけではなく、ジュエリーやアクセサリーをつくって販売したいです。あとフリースペースとして活用していただいたり、いろいろな作家さんとコラボしたり、溶接教室みたいなワークショップを開いたりしてみたいです。
アイアン&サンドnuku森
新潟市北区太夫浜1780-3
025-278-3790
7:30-17:00(土日曜祝日は10:00-)
水曜他不定休