弥彦山、彌彦神社、弥彦温泉などを目当てに多くの観光客が訪れる弥彦村。そんな弥彦村で「伊彌彦醤油(いやひこしょうゆ)」というオリジナルブランドの醤油が生まれました。いったいどんな醤油なのでしょうか。生みの親である「株式会社 伊彌彦(いやひこ)」の竹野さんに会うため、春を待つ雪どけの弥彦へ行ってきました。
株式会社 伊彌彦
竹野 勝行 Katsuyuki Takeno
1969年西蒲原郡弥彦村生まれ。東京農業大学卒業後に弥彦村へ戻って就農。2019年に3つの農業法人が出資して設立した「株式会社 伊彌彦」の代表を務めている。趣味は高校時代から続けているバドミントン。
——「伊彌彦醤油」を販売しているのは「株式会社伊彌彦」という会社なんですよね。
竹野さん:そうです。私が代表を務める「第四生産組合」の他に「サンファーム大戸」「アグリさくら」という3つの農事組合法人が出資してつくった会社なんですよ。
——いったいどういう事業をされているのでしょうか?
竹野さん:各農業法人で収穫したお米を集めて売ったり、地元の農産物を利用した商品開発をしたり、そういったことを主な業務にしています。
——それで開発されたのが「伊彌彦醤油」なんですね。
竹野さん:はい、弥彦村では「伊彌彦米」の生産を主力にしていますが、大豆や小麦の栽培も盛んなんです。その他にやひこ太郎」という原木椎茸も栽培しております。
——どちらも今や有名なブランドじゃないですか。
竹野さん:ありがとうございます。「やひこ太郎」は冬の農閑期でも栽培できることからはじめたんです。管理しやすい菌床栽培ではなく手間のかかる原木栽培なので、原木の養分を吸収したうま味が詰まっているんです。大きくて肉厚なことでも人気がありますね。
——「伊彌彦米」はどういったいきさつで生産をはじめたものなんですか?
竹野さん:弥彦村のふるさと納税取り組みへのきっかけに開発したお米で、私も最初から関わらせていただきました。農薬や化学肥料の使用量を通常の半分以下に抑えて新潟県の特別栽培米認証を受けたコシヒカリで、弥彦の地形や土壌に育まれた、まさに「弥彦の恵み」が詰まったお米です。初年度は参加してくれる農家も少なかったのですが、今では栽培する農家も増えて弥彦村のブランド米へと成長しました。
——「伊彌彦醤油」を開発することになったのは、どうしてなんですか?
竹野さん:弥彦村は観光地なのに地元原料を使った商品がほとんどなかったので、弥彦で栽培された大豆と小麦を使ったオリジナルブランドの醤油を開発しました。
——大豆はともかく、小麦も栽培しているんですね。
竹野さん:平成12年に転作政策があって、稲の一部を大豆の生産に替えることになったんです。小麦は平成28年から生産に取り組むようになりました。昭和初期から小麦の生産はおこなわれていたものの、収穫時期が梅雨と重なることから平成9年になった頃には県内での収穫がゼロになっていたんです。
——その小麦をまた生産しはじめたんですか?
竹野さん:稲作だけだと忙しい時期が重なってしまって、社員の休みを取ることができないんです。小麦はお米と忙しい時期がかぶらないので、バランス良く生産することができるんですよ。
——でも、新潟の気候には向かない農産物なんですよね。
竹野さん:父をはじめ、以前小麦をつくっていた方々からは大反対されましたね。でも小麦の品種も改良され、梅雨の時期も以前とは変わってきていることから、安定した収穫が望めるようになったんです。
——へぇ〜、それはよかったです。醤油を開発するにあたって苦労した点はありますか?
竹野さん:そもそも私達には醸造の知識がまったくなかったんです。そんなときに「新潟小麦の会」で「醤油協業組合」の理事を務める方と知り合って、いろいろなアドバイスをいただくことができました。また「山崎醸造株式会社」から監修していただけたことで、美味しい醤油をつくることができたんです。本当に感謝しています。
——では「伊彌彦醤油」の特長を教えてください。
竹野さん:いちばん大きな特長は、弥彦産の原材料を主体につくられているということですね。弥彦の風土をそのまま味わっていただける醤油というか。そのなかでも丸大豆を100%使っているのは珍しいんじゃないでしょうか。大豆の脂がそのまま残っているので、まろやかで口当たりの柔らかな醤油になっているんですよ。
——「伊彌彦醤油」はどこで手に入れることができるんですか?
竹野さん:「ぽんしゅ館」「道の駅 SORAIRO国上」「そらのテラス」「農家持ち寄り市場 採彩」といった、道の駅や弥彦村内外の農産物直売所などで販売していただいています。どこででも手に入る商品にはしたくないので、「地場産商品」として販売していきたいと思っているんです。
——なるほど。だから道の駅や農産物直売所で販売しているんですね。
竹野さん:他にも弥彦温泉の旅館や飲食店でも使っていただいています。あるラーメン店では、サイドメニューの卵かけ御飯に使ってくれているんです。今後はスーパーの地場産コーナーに置いてもらったり、地元の学校給食にも使っていただきたいですね。
——今後はどんなふうに展開していきたいと考えていますか?
竹野さん:いつか弥彦村だけじゃなくて、新潟県を代表するブランドになってくれたら嬉しいですね。4月上旬には「やひこ太郎」を使った出し醤油を販売する予定ですし、今後も弥彦の生産物を使った商品を手掛けていけたらと思っています。
——そこには、どんな思いが込められているんでしょうか?
竹野さん:高齢化の上、跡取りもいなくて離農する農家が増えているので、耕作放棄地が増えているんです。田園風景は弥彦の観光ポイントでもあるので、小麦を生産することでその景観を守りたいと思っているんですよ。それから私達が弥彦の農産物で商品開発していることが楽しそうに映って、農業の道に進んでくれる若者が増えてくれたら嬉しいですね。
株式会社伊彌彦
西蒲原郡弥彦村弥彦2487-1 弥彦の丘サテライトオフィス
090-1876-1815