新潟空港の近くにある「jet stream」。うっかり見過ごしてしまいそうなその場所で、週に数回カフェを営んでいるのが、今回ご紹介する村山さんご夫婦。じっくり丁寧にハンドドリップで淹れられるコーヒーと手作りスイーツが人気なのだとか。もとはバイクなどの修理・販売をするお店だったそうですが、いろいろなきっかけでカフェに変わったそう。お店のこれまでについてお話を聞いてきました。
jet stream
村山 昇二 Shoji Murayama
1956年新潟市生まれ。自動車ディラーの整備士、電気工事士、紙加工メーカーの機械オペレーター、自動車整備の専門学校講師を経て、2009年に独立。自宅の蔵を改装し「jet stream」をオープン。2012年に「自転車技士」を取得したときは苦労が多く、合格の喜びが大きかったそう。
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村山 みどり Midori Murayama
1972年東京都生まれ。旅行会社で働いた後、2003年に結婚し新潟市に移り住む。
——先ほどいただいたお名刺に「バイク・自動車の販売と修理/珈琲とギャラリー」と書いてありますが、「jet stream」さんはいったいどんなお店なんでしょう?
昇二さん:「何をやっている店か」と不思議に思われますよね(笑)。最初は「エンジン搭載の乗り物」、例えばバイク、車、スノーモービル、水上バイクの修理と販売をする店としてはじめたんです。そこで来てくださるお客さまに美味しいコーヒーをお出ししたくて、講習会に行ったり本を借りたりしてコーヒーを学びました。
みどりさん:「商談しているとき、お茶が美味しいと嬉しいよね」という主人の意向で、最初はコーヒーをサービスでお出ししていました。それが評判で、なんやかんやたくさんの方に来ていただけるようになって。ご近所さんから「バイクなんか置かないで、もっと席を増やしたらどう」とアドバイスされて、こんな感じのカフェとなりました。
——じゃあ最初は「コーヒーが美味しい」バイク屋さんだったわけですね。
昇二さん:そうそう。それがいつの間にかバイクも自転車も隅に追いやられちゃった(笑)。でも今思うと、それでよかったのかもしれません。カフェを目的に来られるお客さまと信頼関係ができて「自転車を売っているならカタログ見せてくれない?」だとか「修理をお願いしたい」「車検はできるかな」と依頼をいただくことがありましたから。
——先ほど昇二さんにコーヒーを淹れていただきました。時間をかけて丁寧に淹れてくださるんですね。
昇二さん:豆を仕入れている「LUXUOSO」さんから教えてもらった方法でコーヒーを淹れています。粉を蒸らす時間も含めて、じっくりと淹れるので「そんなに時間がかかるの?!」と驚かれたことがあります(笑)。いろいろ試した中で、これがベストの淹れ方なんですよ。
みどりさん:おかわりが要らないくらい、大きめのカップにたっぷりコーヒーを注ぐところにも、うちらしさがあるんですよ。
——今ではコーヒー以外のドリンクも充実しているようですね。
みどりさん:コーヒーが苦手な方がいらっしゃるので、紅茶やオリジナルブレンドのハーブティーとハーブコーディアル、ソーダドリンクもメニューに加えました。最近はフルーツが盛り盛りのフルーティーソーダを目的に来てくださる方が多いです。
——「スイーツも美味しい」と評判を聞きました。
昇二さん:最初はコーヒーだけだったんだけど、妻がお菓子を作ってくれるようになってね。
みどりさん:美味しいコーヒーにお茶菓子の組み合わせ、最高かなと思って。当初はどこかから仕入れたスイーツを出そうとも考えたんですけど、自分で作れるようなりたくて、調理師専門学校のレッスンに何度も通いました。ビスコッティ、プリン、チーズケーキにマフィンなどから毎回3種類ほどを用意しています。
——営業日が限られている人気のカフェに、今日は私ひとりで貸切状態。とても贅沢なことです……。
みどりさん:オープン日が多くないので、皆さんには申し訳なく思っているんですけど、「空いていたらラッキー」と宝くじのような感じで楽しんでもらえたらありがたいです。もっとマメに営業した方がいいとは感じていますが、主人が体調を崩してから私ひとりで切り盛りしているので、変なものは出したくないっていうか「この季節なので今日はこれを用意しました」ってちゃんと説明ができるようにしていたいんです。
——お店をギャラリーとしても活用されているそうですね。
みどりさん:布や革製品の作家さんなど、手仕事作家さんがたくさんお店に来てくださるので、その方たちの作品を展示できるようにカフェスペースの隣をギャラリーにしました。どんな企画をしているかInstagramやブログでお伝えしています。
——猫に関する活動もされているんですか?
みどりさん:赤ちゃん猫にミルクを与えるミルクボランティアと、大きくなった猫の預かりボランティアをしています。これをはじめたら毎日がますます忙しくなってしまって。多いときにはいっぺんに7匹を預かっていましたから、家族には迷惑かけちゃったかな。でもカフェ営業と並行してボランティアに取り組んでいて良かったと何度も思いましたよ。お客さまが里親になってくれたり、こういった活動を知ってもらうきっかけになったりして。
——今年からスタートした企画があるそうですね。
みどりさん:スペースのあり方に選択肢があってもいいのかなと思って、通常営業の他に、おひとりさま専用の「solo cafe」をはじめました。普段はにぎやかですけど、「solo cafe」の日はひとりで読書や勉強、仕事に集中できる静けさと空間を提供したくて。
——昇二さん、そもそもどうしてお勤め先を辞めて、自営業をはじめよう思われたんですか?
昇二さん:非常勤講師だった頃を含めて、専門学校の講師を15年間務めました。教務部長まで任されたんですが、そこまでの役職になると勤め先で板挟みになることもありまして。両親が残してくれた蔵が使えるし、そこで自分の資格を生かして何かできるかもしれないと思ったんです。
みどりさん:主人からその話を聞いたときは、「子どもがいるのに会社辞めちゃうの?!」ってびっくりしました(笑)。自分たちがお店を持つなんて思いもよりませんでしたけど、今となれば楽しみながら好きなようにカフェができていることを幸せに思います。
——ちょっと話題が変わりますが、聞いてみたいことがあります。もとはご夫婦で別々の仕事をされていて、それから同じことを生業にするって、おふたりの関係に変化はありませんでしたか?
昇二さん:夫婦の関係が変わっていくって当たり前だと思いますよ。出会って、家庭を持って、子どもができてってどんどん忙しくなっていくわけです。僕は家事でも何でも気がついたら自分がやるかな。ふたりで生活しているんですからね。
みどりさん:主人はこの年代にしては珍しいくらい、家庭のこともいろいろしてくれますよ。きっと、同世代にはもっと亭主関白なタイプの人が多いんじゃないかしら。
昇二さん:僕の祖父も父も台所に立つ人でしたよ。じいちゃんは毎日おかず1品とおつゆを作っていたなぁ。僕の料理のレパートリーはそれほど多くないけど、たまに料理を作ります。でも妻にはずいぶん苦労をかけてきましたね。
みどりさん:村山家の男性は魚を捌くんですよ(笑)。料理もそうだし、家庭のことへのちょっとしたアシストがすごく助かります。
——お店のはじまりからご家庭でのこと、今の取り組みまで、いろいろと話が聞けて楽しかったです。
昇二さん:改めてこれまでを振り返ると「お店が変わってきたんだな」って実感しますね。意図したわけではなくて、お客さまが変えていってくださったのかもしれません。「自転車はいいから、代わりにテーブルを置いてよ」とかね。
——自然の流れでカフェになったお店なんだなって思いました。
昇二さん:病気をしてここに立つことが難しくなり「もう廃業しよう」と妻に伝えたことがあるんです。そしたら妻が「いや、ダメよ。私がやるわ」と言ってくれて。それから週に数回営業するかたちにしました。私は月に1回店に顔を出しますけど、お客さまの顔ぶれはずいぶん変わりましたね。最近は若い方にも来ていただいています。
——一度はお店をたたもうとお考えだったんですね。でもみどりさんは「それは嫌だと」おっしゃったと。
みどりさん:でも、自分で美味しいコーヒーを淹れる自信はなかったんです。コーヒーを淹れるのはずっと主人の役目だったので。最初はあまり美味しくないコーヒーを出していたと思います。それでも常連さんをはじめ、ずっと応援してもらってありがたいですね。この場所を好きでいてくださる方は、これまでも今も変わらず、ずっと「jet stream」に来てくださいます。自分で言うのはおかしいかもしれませんけど、ここはパワースポットなんです。お客さまがパワーを持って来てくださるんですね。カウンターでコーヒーを淹れながら「いい雰囲気のお店だよな」って、私自身しみじみ感じています。
jet stream
新潟市東区根室新町8-2
025-250-5779
営業予定はInstagramもしくはブログにて確認