新潟市中央区に、世界最高峰のコーヒー豆といわれる「スペシャルティコーヒー」を提供しているコーヒー豆の専門店があります。「LUXUOSO(ルシュオーゾ)」。スペシャルティコーヒーに出会って、コーヒーに対する考え方が180°変わったというオーナーの稲月さんに、お店をはじめたキッカケやコーヒーに対する思い、スペシャルティコーヒーとは何か、を聞いてきました。
LUXUOSO
稲月 洋介 Yosuke Inatsuki
1978年新潟市生まれ。近畿大学卒業。2007年「LUXUOSO」を立ち上げ、2018年に現在の場所へ移転リニューアルオープン。趣味はサッカーや漫画、アイドルなど多岐に渡る。
――今日はよろしくお願いします。稲月さんは昔からコーヒーが好きだったんですか?
稲月さん:はい。小学生のときから調子に乗って飲んでいましたね。父が飲んでいた影響もあって、コーヒーを飲むことが単純にカッコイイと思っていたから。しかもブラックで。でも当時は、ただただ苦いだけで美味しいなんて思っていませんでしたね(笑)
――小学生がブラック…調子に乗っていましたね(笑)。コーヒーに興味が湧いたキッカケは?
稲月さん:大学を卒業してから就職した会社が、めちゃくちゃブラック企業で早々にドロップアウトしたんです。それで父の仕事を手伝っていたときに、「チルチンびと」という雑誌で「二三味珈琲(にざみこーひー)」という、26歳くらいの若い女性がひとりでコーヒー豆の焙煎をしているロースターに出会いました。このロースターは能登半島の先端にある船小屋みたいな場所で、前は海、後ろは山というお客さんが来るとは思えないロケーションだったんです。でも、めちゃくちゃ気になって、何も考えずに車で向かったのがキッカケです。
――能登半島の先端って、めちゃくちゃ田舎というか、何もない場所ですよね。
稲月さん:そう、だから金沢まで高速道路で行って、そこからは車幅くらいしかない崖みたいな細道をクネクネと進んで、8時間くらいかけてようやく到着したんです。確か朝5時に。それでちょっとだけ仮眠しようと思っていたら6時ちょっと前に女性が歩いて来たんです。会釈をしたら、「またいた…」みたいなことを言っていました。きっと同じように急に訪ねて来る人がいたんでしょうね(笑)
――急に思い立って早朝からやってくる人のひとりだったんですね(笑)
稲月さん:でもその方は「ちょっと待って」と言って、親切に建物の中に入れてくれたんですよ。で、中に入ってみたら衝撃。ネットが当たり前じゃない時代だったから、注文は電話かFAXなんですけど、朝の6時だというのに、ここは東京のオフィスかというように鳴りやまない。全国から注文が殺到している様子を目の当たりにしました。
――ギャップがすごいですね。実際に「二三味珈琲」のコーヒーは飲んでみたんですか?
稲月さん:本当は来店を受け入れていないけど、特別に一杯飲ませてもらいました。それがまたまた衝撃で。今まで飲んでいたコーヒーは、コーヒーじゃなかったんじゃないかと思うほど。コーヒーに対する考え方が180°変わった瞬間でした。それで「こんなに表現豊かなコーヒーがあるなら新潟にも伝えたい」と思って焙煎の道を歩みはじめたんです。
――焙煎の修行はどうされたんですか?
稲月さん:「二三味珈琲」の方にコーヒー豆の仕入れ先である「堀口珈琲」を紹介してもらえて、自分でお店をやることを前提に修行させてもらいました。ここでの学びが「LUXUOSO」の根底を作ってくれましたね。
――具体的には?
稲月さん:あくまで個人の見解だけど、コーヒーの味はコーヒー豆の質で70%が決まって、焙煎は20%、抽出は10%。つまりどれだけ上質なコーヒー豆を使うかで、コーヒーの味は決まるんです。タンザニアにはたくさんのコーヒー農園があるけど、そこに行ったときに的確に判断できないと、上質なコーヒー豆は手に入りません。それができるのは日本だと「堀口珈琲」と「丸山珈琲」ぐらい。だから「LUXUOSO」では絶大なる信頼の「堀口珈琲」にお願いしています。
――焙煎する前に味がわかるなんてすごいですね。でも、キリマンジャロとか有名なコーヒー豆はなんでも美味しいんじゃ?
稲月さん:それ、落とし穴があるんです。キリマンジャロというコーヒー豆は、タンザニアのキリマンジャロ山脈で収穫されたものの総称なんです。つまりあの広大な面積の、どの農園で収穫されても、キリマンジャロなんですよ。その中でもトップからゲッポまであって、上と下では10倍も値段が変わってきます。だから、そのトップのコーヒー農園を掘り出すことが重要なんですよ。
――それでは「LUXUOSO」についても教えてください。店内ではコーヒーの提供もしているんですか?
稲月さん:はじめはカフェスペースを設けたり、テイクアウトをしたりもしていたけど、性に合わなくてやめました。だから、今はコーヒー豆の販売のみ。でも、そのほうが買う人が安く楽しめるんですよ。例えばお店でコーヒーを500円で飲みます。コーヒー豆を買って自宅で飲んだら、世界最高峰のコーヒーは一杯50円。それなら自宅で安価に楽しんでもらった方がいいかなって。
――なるほど。コーヒー豆で70%が決まるなら、自宅でも安くて美味しいコーヒーが飲めますもんね。コーヒー豆を購入するときのポイントはありますか?
稲月さん:なるべくコーヒー豆のまま購入して、飲む分だけ自宅で挽いてください。粉にしてしまうと、1粒の豆が250~300の小さな粒になります。つまり約300倍も空気に触れることになって、酸化のスピードを早めてしまうことになるんですね。コーヒーは鮮度が重要だから、ちょっとした手間が大切なんです。
――なるほど、粉にしちゃうと300倍も酸化が進むってことですね。驚きです。最後に、これから先のビジョンを教えてください。
稲月さん:「LUXUOSO」のお客さんは、喫茶店ブームを過ごしてきた60代の方が多いです。20~30代の方はテイクアウトが基本だったり、自宅に抽出器具がなかったり、コーヒー豆を買うという文化がありません。だからこそ、この若い世代に自宅でも美味しいコーヒーが飲めることを伝えていきたいと思っています。
コーヒー豆は挽いて粉にすることで、酸化スピードを早めてしまうと教えてくれた稲月さん。インタビューの最後に、自身が実験した保存に関する話をしてくれました。コーヒー豆を保存する最適な環境は、空気に触れさせないで冷凍すること。この理論を基に、なんとコーヒー豆を2年間も冷凍保存してみたそうです。その結果は…。気になる方は、ぜひお店に足を運んで聞いてみてくださいね。
LUXUOSO
新潟県新潟市中央区東堀通1754
050-5217-1539