Things

小物から装丁まで幅広く活躍する刺繍作家「近藤実可子」。

針と糸で布に絵を描く刺繍作家。

ペンや筆を使って絵の具で紙やキャンバスに絵を描くように、針を使って糸で布に絵を描く刺繍。刺繍作品からはプリントで表すことのできない独特の立体感を感じることができます。今回は、刺繍を使った作品やイラストで活躍をしている刺繍作家の近藤実可子さんから、作品についてのお話を聞いてきました。取材は苦手…という近藤さんでしたが、がんばって色々話してくれました。

 

 

近藤 実可子 Mikako Kondo

1988年燕市(旧吉田町)生まれ。長岡造形大学テキスタイルデザインコースで織物の勉強をし、卒業後はヒッコリースリートラベラーズで主にTシャツのプリントを担当。その頃から刺繍を始め作品展に出品していた。2016年に退社し刺繍作家としての活動を始める。作品展出品のほか、刺繍小物の製作販売、刺繍イラストでの挿絵や装丁など幅広く活動している。映画やドラマを流しながら刺繍をすることが多い。

 

機織、Tシャツのプリントを経て刺繍作家に。

——いろんな作品がありますね。刺繍は大学とか専門学校とかで学んだんですか?

近藤さん:刺繍は独学です。私は長岡造形大学のテキスタイルデザインコースに通っていて、糸を染めるところから機織して布を作り上げる織の勉強をしていました。大学を卒業してからも織を続けたかったんですが、織り機もないのであきらめたんです。その頃、Tシャツとか雑貨とかのデザイングッズを製作販売しているクリエイト集団「ヒッコリースリートラベラーズ」でスタッフを募集していたので応募して働くことになりました。メインの仕事はシルクスクリーンを使ったプリント作業だったんですけど、そのほかにデザインやお店番なんかもやってました。

 

——機織やTシャツのプリントっていう、布にまつわる勉強や仕事をやってきてるんですね。ところで刺繍はいつ頃から始めたんですか?

近藤さん:ヒッコリースリートラベラーズで年に一度「春山登山展」っていう作品展を開催してたんです。古町数カ所の会場で参加作家の作品を展示するイベントです。私も作品を出品することになって、2012 年の展示から刺繍で作品を作ることにしたんです。それが刺繍を選んだきっかけですね。その後、ヒッコリースリートラベラーズで私の作った刺繍ブローチを販売してもらったことで、商品としての刺繍小物も作り始めました。2015年の5月には新潟市東区のギャラリーカフェで初めて個展をやらせてもらったんです。

 

——刺繍を始めて3年後に個展開催ってすごくないですか?個展開催の反響はありました?

近藤さん:個展で作品を見た人からイベントとかのお誘いが来るようになりましたね。そういうお話が増えてきたので2016年に退職して刺繍作家として活動を始めることにしたんです。ヒッコリースリートラベラーズのスタッフなのに、いろんなイベントに参加したり、グッズを売ったりするわけにもいかないので、自分なりにけじめをつけたんです。

 

コラムの挿絵から手帳の表紙まで幅広く活躍。

——刺繍作家として今までの仕事で印象に残っているものってありますか?

近藤さん:2016年4月からやっている、新潟日報のフリーペーパー「assh(アッシュ)」に月1回掲載されているコラム「にいがたマクロビライフ」の刺繍イラストですね。毎回コラムの内容が送られてきて、それに合わせたイラストを考えて刺繍で作るんです。好きな作品を作るときは得意な図柄を選びがちなんですが、この仕事は得意不得意に関わらず内容に合わせなければならなかったので、作品の幅が広がりましたね。来月で連載が終わるので、ちょうど4年間続けたことになりますね。

 

——4年間って長いですね。それ以外では、最近はどんなお仕事を?

近藤さん:2018年版から2020年版まで「新潟手帳」の表紙に使う刺繍イラストをやらせていただきました。新潟県の四季や特産を盛り込んでカラフルに作るというのがテーマになってるんです。自分の技術も年々上がっているので、毎年違った作品になりますね。今見ると3年前のものが恥ずかしかったりします(笑)

 

——毎年デザインを変えるのは大変そうですけど、そんなことはないんですね。ところで刺繍小物はどんなところで売ってるんですか?

近藤さん:新潟市のお店だと、紅茶とお菓子の店Sugar COATや新潟市美術館ミュージアムショップのルルルとかに置かせていただいてます。新潟以外では東京とか福島の猪苗代とかでも販売していただいてます。その他に県内外のイベントや企画展にも参加しています。

 

最初からデザインを決めずに縫いながらデザインを作っていく。

——刺繍作品はどんな風に作っているんですか?やっぱり下描きとかするんですよね?

近藤さん:いえ。アタリはとるけど下描きはしないで、いきなり縫い始めるって感じですね。柄も色も縫いながら決めていきます。小さいデザインを作ったら、あとはどんどんデザインを広げていきます。デザインも最初に考えないことが多いんです。自分でも仕上がりイメージがわからないから、どんな仕上がりになるのか楽しみにしながら作ってるんですよ。

 

——えっ?あらかじめデザインを考えてないんですか?それで作品として破綻がないのはすごいですね!

近藤さん:その辺は気をつけてバランスを取りながら縫ってます。

 

——そのほかに気をつけているところってありますか?

近藤さん:展示用の作品とは違って、販売用の小物はお客さんに喜んでもらえるようなデザインを心がけてます。パッと見た人が「かわいい」って言ってくれるものになるようにしてます。多くの人の好みに合わせた販売用小物と、自分が好きなものを作る作品を行ったり来たりしながら創作することで、気持ちのバランスが取れてるんだと思います。どちらも大好きなんですけど、どっちか一方だと嫌になっちゃうかもしれないですね。

 

——作品に込めている思いのようなものはあるんでしょうか?

近藤さん:えー。話すのが苦手なのでどう言葉にしていいのかわからないんです(笑)。作品につけるキャプションとかを考えることもあるんですけど、言葉にしようとすると思っているものにならないから、最後は結局あきらめちゃうんですよね。だから言葉を使わずに作品を作っているんです(笑)。まあ、作品を見た人が何か想像してくれればいいかなって思ってます。

 

——最後に今後やってみたいことってありますか?

近藤さん:今お話ししたように私は言葉で伝えるのが苦手なので、詩を書く人とコラボして作品を作ってみたいです。詩に合ったイラストを刺繍で作って、それをまとめた本を作れたらいいですね。あと本の装丁もやってみたいですね。

 

 

機織やTシャツのプリントを経て刺繍作家となった近藤さんの作品は、とても繊細で緻密。にもかかわらず、驚いたことにデザイン画も作らず、下描きもせず、縫いながらデザインを作っていくということです。言葉で伝えるのが苦手なので、作品を通して何かが伝わればいいと話してくれた近藤さん。これからも魅力的な作品を生み出してくれるのを楽しみにしています。

 

 

近藤 実可子

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
  • 部屋と人
  • She
  • 僕らの工場
  • 僕らのソウルフード
  • Things×セキスイハイム 住宅のプロが教える、ゼロからはじめる家づくり。


TOP