「発酵の街」として盛り上がりを見せている長岡市摂田屋に、続々と新しいお店がオープンしています。そのひとつが、LOCAL IDENTITY STORE「LIS」です。昭和5年に建てられた蔵をリノベーションしたノスタルジックな店舗にお邪魔し、運営母体である「株式会社FERMENT8」のマネージャー石橋さんにいろいろとお話を聞いてきました。
株式会社FERMENT8
石橋てるみ Terumi Ishibashi
1975年長岡市生まれ。食品メーカーに就職し食品加工や品質管理業務に従事。結婚を機に管理栄養士の資格を生かしてフリーで活動。2015年に「株式会社FARM8」に入社し、現在は同社の執行役員を務める。また関連会社「株式会社FERMENT8」のマネージャーを兼務している。
——石橋さんはお勤めだった頃の経験を生かしてフリーになられたそうですね。食品の分野でフリーで活動される方って珍しいのでは?
石橋さん:そうかもしれませんね。管理栄養士の資格を取ったら、病院や施設で働かれる方も多いですから。でも私は食品加工の分野にものすごく興味があったんですよ。だって生鮮食品ってそのままにしておくと腐ってしまうけど、加工することで何ヶ月も食べられるようになるでしょう。食品加工ってすごくサステナブルだし、加工することで海外にも流通させられるんです。そういったことにとても魅力を感じたんですよね。
——フリーになられたのはいつ頃ですか?
石橋さん:会社を辞めたのは20年ほど前で、それから子どもが幼稚園にあがる頃に「また仕事がしたいな」と思って、「自分にできるのは食の仕事だろう」とフリーで活動をはじめました。いろいろなセミナーに参加したり、食の分野で活動されている方とご一緒したりして、少しずつ仕事をさせてもらって今に至るって感じですかね。
——「LIS」さんについても教えてください。どういった経緯で摂田屋にオープンしたんでしょう?
石橋さん:以前からつながりのある「江口だんご」さんから「素敵な蔵があるので、何かやってみませんか」とお誘いいただいたのがきっかけです。私たちが「FARM8」で行なっている地域資源の活用や発酵商品の開発、「ブックスはせがわ」さんが取り組んでいる県内の作家さんのギャラリーなど、「新潟のいいもの」を発信する場所として、「LIS」をもう一度見直して、「またはじめてみよう」と今年の7月にスタートしました。1階には醸造リキュールと地域商品を置いていて、2階では本と暮らしの作品を扱っています。2階で扱っている、作家さんの一点物の作品や昔の息遣いを感じる小道具、摂田屋オリジナルの手ぬぐいは、以前から人気があったんですよ。
——あれ? ということは、「LIS」さんって以前からあったわけですね。……知らずに失礼しました。
石橋さん:2017 年から長岡の「S.H.S」さんでやって、2019年からは豊洲にお店があったんです。でも豊洲のお店はコロナ禍で撤退しなくてはならなくなったんですよね。そのときは都内に荷物を取りに行きたくても行けない状況で、せっかく揃えた食品を全部ダメにしてしまいました。それがとっても辛かったですね。もったいない思いで苦しくて。だから正直なところ、「もうお店は持たなくていいかな」って思いがあったんです。「また豊洲のお店のような事態になったらどうしよう」という不安を感じて。でも「LIS」のファンの方から、「いつ再開するんですか」というお声をたくさん頂戴していましたし、協力してもらっている「ブックスはせがわ」さんは私の中学の先輩で、「たつまき堂」というカフェ兼雑貨屋さんは高校の後輩なんですよ。そういう仲間と一緒に「LIS」をやってきたので、なくなるのは寂しい気持ちもありました。今は「店舗を再開できてよかった」という気持ちが大きいです。
——摂田屋のお店とこれまでのお店とでは何か違いはあるんでしょうか?
石橋さん:今まで「LIS」で人気だった商品がたくさんあったんですけど、摂田屋は「発酵と醸造」がテーマの街なので、そのテーマからブレている商品は思い切って削ぎ落としました。その代わり、いろいろなお酒も発信できる場所にしようと思って、「FARM8」のグループ会社で酒類販売を主な事業にしている「株式会社FERMENT8」を運営母体にしたんです。
——じゃあ日本酒がひとつのキーワードなんですね。
石橋さん:摂田屋には「吉乃川」さん、「長谷川酒造」さんという老舗酒造がいらっしゃるので、差別化するためにも日本酒をただ販売するだけではなくて、「日本酒の楽しみ方を発信できる場所」にしたかったんですよね。そういったコンセプトで商品をセレクトしたので、日本酒を使ったカクテルやリキュールなども揃えていますよ。
——「LIS」摂田屋店がオープンしてからの反響はいかがですか?
石橋さん:想像していなかったくらい大勢の方に来ていただいて、すごく嬉しかったですね。特に「日本酒ガチャ」はリピーターさんも多くて、いい看板商品になったと思っています。
——「日本酒ガチャ」?
石橋さん:私たちは「日本酒をもっとカジュアルにして、楽しむ人を増やしていきたい」と思っていて、「FARM8」では「SAKE POST」という日本酒のサブスクを運営しているんです。日本酒を手軽に楽しんでもらうために、100mlのパウチで3銘柄、毎月ポストに届けるというサービスなんですよ。「SAKE POST」は会員制なんですけど、会員でない皆さんにも日本酒を楽しんで欲しくて、「酒ガチャ」でどなたでもパウチの日本酒を持ち帰っていただけるようにしました。
——なるほど。日本酒を知るきっかけにもなりそうですね。
石橋さん:そうなんです。「LIS」が酒蔵さんを知ったり、日本酒のファンになったりする、きっかけづくりの場所になったらいいなという思いもあるんです。私たちも酒蔵さんへお邪魔して「こんなお酒があったんだ」と思うことが多いんですよ。新潟県内の酒蔵と日本酒の銘柄、すべて知っている方は少ないでしょうし、より多くの方に地酒の魅力を知ってもらいたいんですよね。
——建物には「発酵創造 地下研究室」という気になるスペースがありますよね。この研究室ではどんなことをしているんですか?
石橋さん:実はまだ設備が揃っていなくて、準備段階なんです。でも今後はここでお酒の研究をやっていきたいと思っています。「FERMENT8」の代表が醸造の研究者で、ワインもウイスキーもビールも作れる、発酵と醸造のプロフェッショナルなんです。いずれは摂田屋で生まれた酵母などの発酵菌を見つけて、それでお酒を作ることができそうだね、と話しているところです。
——「摂田屋」「発酵」というキーワードにぴったりな取り組みですね。
石橋さん:アルコールだけじゃなくて、麹だったり乳酸菌だったり、身体に良い菌は他にもたくさんあるので、そういったもので新たな食品を開発・研究することにも使えそうだと思っています。いずれは摂田屋生まれの新たな発酵食品を発信していきたいですね。
——今後は地下研究室での取り組みにも注目ですね。
石橋さん:老舗企業も多い摂田屋なので、これまでとはぜんぜん違う「ネオ発酵」みたいなことにもチャレンジしたいと思っています。もっと発酵食品をカジュアルダウンして、普段の食生活に取り入れられる商品を生み出したいですね。
LIS – Local Identity Store 摂田屋
長岡市摂田屋4丁目8-28
江口だんご摂田屋店敷地内
TEL:070-2151-0351
OPEN:10:00〜18:00
CLOSE:火曜日