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新潟で最初の野菜ソムリエ。食と料理の研究家「木村正晃」。

ちょっと前まで半袖で過ごしていたというのに、あっという間に厚手のお布団が恋しい季節になりました。美味しいものがたくさん採れる秋は、食欲のコントロールが難しいですよね。今回は「食のプロ」木村正晃さんに、新潟の食文化や、家庭でできる簡単で豪華な料理についてなど、いろいろとお話を聞いてきました。

 

木村 正晃 Masaaki Kimura

1967年村上市生まれ。日本大学農獣医学部部卒業後、「紀ノ国屋インターナショナル青山」「ネスレマッキントッシュ株式会社」など食品関係の企業で経験を積み、2007年に独立。「食と料理の研究家」として、レシピ開発や講演、テレビ出演など幅広く活躍。また「6次産業化プランナー」として農家や起業志望者を対象にした食品加工支援にも従事。新潟県ではじめての野菜ソムリエ取得者。

 

リアルな農業を知っている、新潟で最初の「野菜ソムリエ」になるまで。

——木村さんは、日本大学の「農獣医学部」をご卒業されているそうですね。

木村さん:今は学部の名称も変わっていますが、当時は獣医学科、水産学科、林業学科などがありました。僕は食品工学を勉強していましたよ。

 

——ということは学生の頃から「食」に関することを学んでいらしたわけですね。

木村さん:大学に入ったときには、「将来は食品関係の道へ進みたい」と思っていました。でも4年生のときにアメリカへ短期留学したので、就職活動に乗り遅れたんですよ(笑)。そんな僕を採用してくれたのが、日本で一番歴史のある老舗のスーパーマーケット「紀ノ国屋インターナショナル」でした。それから「ネスレマッキントッシュ株式会社」へ転職して、20代はずっと東京で食に関わる仕事をしていたんです。

 

 

——新潟に戻ってこられたのはいつ頃ですか?

木村さん:結婚して新潟に帰ってきたのは 20代の終わりだったかなぁ。今になって思い返すと、そのとき仕事があまりうまくいっていなくて気持ちも疲れていたんでしょうね。東京から新潟に戻る新幹線から見えた魚沼の景色がものすごく綺麗で。確か5月だったと思うんですけど、新緑が見事だったんですよ。その景色を見ながら「新潟で食に携わる仕事がしたい」と思ったのが新潟に戻るきっかけでした。

 

——そのときの景色をよく覚えていらっしゃるんですね。

木村さん:ずっと食品の仕事に携わってきたので、「自分の経験が農業県・新潟の役に立つんじゃないか」と思ったんですよね。「きっと活躍できる場所が地元にあるはずだ」という期待もありました。新潟でも食品メーカーの商品開発の仕事をしたり、しばらくは会社勤めをしていたんですけど、40歳くらいのときに独立したんです。その頃、農業がぐっと盛り上がってきている感じもあって、「野菜ソムリエ」という資格にチャレンジしたんですよ。

 

——木村さんは県内初の「野菜ソムリエ」取得者だとか。

木村さん:当時は「野菜ソムリエ」なんてまったく知られていませんでしたね。僕は日本でも200番目くらいの合格者なんです。今とは試験の内容も違って、都市圏まで講座を受けに通わなくちゃならなかったですし、面接やプレゼン含めて3次試験くらいまであったんじゃなかったかな。かなり難しくて数回受験したと思います。

 

——今の「野菜ソムリエ」よりもハードルが高そうですね。

木村さん:当時の資格取得者は首都圏の人がほとんどで、地方の「野菜ソムリエ」は僕くらいでした。でもそれで他の「野菜ソムリエ」と差別化ができたんです。「身近に畑があって、リアルな農業を知っている野菜ソムリエ」というのを売りにできたんですよ。資格を取得して、最初は野菜のネット販売をはじめたんですけど、時代を先取りし過ぎたのかうまくいきませんでした。生産者から「能書きだけだ」と言われたこともあって、それが悔しいから自分でも畑をやってみようと3年ほど野菜栽培もやりました。野菜を栽培してみて分かったことは「すごく大変」ということ。農家さんは本当に立派ですよね。

 

「6次産業化プランナー」として新潟の食文化を支える。

——改めて今の木村さんの活動についても教えてください。

木村さん:新潟県と富山県の「6次産業化プランナー」としての仕事がメインです。これまでの知識や経験を生かして、農作物を商品化するお手伝いをしています。先日も砺波市で「栗の加工品を作りたい」という相談があって、マロンペーストを開発する指導をしてきました。あとは年に数回「新潟市アグリパーク」で講師を担当していますし、講演活動や飲食業のレシピ開発などもしています。

 

——どうやって活動の幅を広げてこられたんでしょう?

木村さん:地道にホームページやSNSで自分のやっていることを伝えてきたことが今の仕事につながっているんじゃないかと思います。「野菜ソムリエ」「新潟に住んでいる」「6次産業化プランナー」という僕のベースになっていることを常に意識しながら愚直に仕事をしていると、不思議といろいろなところからお声をかけていただけるんですよ。

 

 

——今日は「新潟市アグリパーク」で行われる木村さんの講座にお邪魔して取材をさせてもらっています。この講座はどういったものなんでしょう?

木村さん:6次産業化を目指している農家さんや起業予定の方に向けて、食品加工講座の講師をしています。この施設にある専門的な機械を試してみたり、僕たちに質問してもらったりして、商品化に向けたイメージを固めていくような場ですね。

 

——「6次産業」という言葉、実は最近知りました。

木村さん:僕も最近知りました(笑)。でも農家さんの注目は高まっていると思いますよ。6次産業化を試みることで、農作物を加工品にして価値を高められるわけですから。商品化するには効率化も必要ですし、パッケージをどうするか、法律的に問題はないか、流通はどのようにするかなどさまざまなことを考える必要があります。

 

——法律や販売経路まで細かいことまで考えなくちゃいけないんですね。

木村さん:商品化に向けて80%くらいまでは勢いでスムーズに進むことが多いんです。でもそこからの20%を乗り越えるのが大変ですね。農家さんは栽培のプロですけど商品化のプロではないですから、僕たちがさまざまな分野から支援をして、足りない20%を突破するお手伝いをしているんです。

 

——木村さんが「6次産業化プランナー」としてお仕事をされる上で気を配っていることはどんなことですか?

木村さん:この仕事をはじめた頃は、「商品を開発して、たくさん売れるのがいいこと」と思っていたんです。でも人それぞれ目的は違うんですよね。「きちんとニーズを把握してサポートしなくてはいけない」ということを知らずに、失敗もしました。これまでには「余った果樹でお友達とマイペースにジャムを作りたい」という方もいらっしゃいましたし。どんなふうにしたいかよくお話を聞かないと変な方向に行ってしまうこともあるので、予算面も含めて最初にじっくり考えを聞くようにしています。

 

美味しいものが揃う背景を知っているから、地域の食をサポートできる。

——基本的な質問で恐縮ですが、やっぱり新潟って農作物が魅力的な県なんでしょうか?

木村さん:新潟県は明治20年頃、人口がとても多かった頃からずっと米作を続けています。そんな歴史から「新潟には農作物にものすごく手を掛ける文化がある」と言われています。ルレクチェだって、ものすごく手間のかかる果樹なのに丁寧にきちんと作られていますよね。

 

——ふむふむ。

木村さん:それに地理的にも恵まれた場所にあるんですよ。北緯38度線が中条のあたりに通っていますよね。北と南のものが入れ替わるのが北緯38度線で、動植物にとって大事なポイントとなる場所なんです。だから、新潟県って北のものも南のものも食べられるんですよ。北限のお茶である村上茶もあるし、里芋も。里芋は南方の作物なので、産地として成り立っているのは新潟が最北と聞いています。新発田の菅谷ではりんごが、佐渡ではみかんが採れますけど、みかんとりんごが両方栽培できる地域は日本でここだけです。りんごは北のもの、柑橘は南のものですから。

 

——へぇ〜。新潟がそんな特別な場所とは知りませんでした。

木村さん:福島も同じように北度38度線が通っていますけど、あちらは太平洋沿いですから。日本海側では新潟が唯一ですよ。新潟は、お魚、お米、お酒が美味しいですけど、そういう地域って他にもあるんですよね。でも地理的な優位性があるから旨いものがたくさんあるんです。その背景を分かりやすく、理論的に伝えたいという思いがありますね。

 

 

——ちなみに木村さんは、昔から料理が好きだったんですか?

木村さん:よく母の手伝いをしていて、母が料理をしている様子を「美味しいものってこうやって作るんだな」って興味深く見ているような子どもでした。そんなふうに育ったからか、加工品でも何でも「これ、自分で作れるんじゃないかな」って思っちゃうんですよ。ウスターソースなんかでも。「できないものはないはずだ」と挑戦したくなるんです。食べたものの味を超えたくなっちゃう。

 

——ウスターソースなんて作ろうと思ったことないです(笑)

木村さん:試作してみて「全然ダメだった」ということもたくさんありますよ(笑)。でもどんなお料理でも「こうしたらもっと美味しいものを作れるはずだ」と考えるのが僕の仕事の源なんです。すごく完成度の高い料理を食べるときも、ただ普通に「美味しい」と思っているだけでは思考停止しちゃうような気がするんですよね。

 

——あの、せっかくなので家庭料理のヒントも教えていただいて良いでしょうか。

木村さん:料理教室をやっていてリクエストが多い「簡単で豪華に見える料理」としてオーブン料理はどうでしょうか。鳥肉やタラと旬のお野菜にオリーブオイルと塩をかけてオーブンで焼く。これだけで立派な一品です。オーブン料理って「大変そう」と思われるかもしれませんが、下準備をしてオーブンに入れておくだけで完成ですから簡単ですよ。オリーブオイルと塩では物足りないようであれば、市販のドレッシングをかけてもOK。ドレッシング次第で和風、洋風、中華と変幻自在です。

 

——最後に今力を入れたいと思っていることを教えてください。

木村さん:来年の3月に開催される予定の「新潟ガストロノミーアワード」のローカル審査員に選んでいただきました。そこできちんと公平に審査をすること、新潟のものを県内外、そして世界へ紹介したい、というのが直近の目標です。もちろん今までの仕事も引き続き継続していきますよ。

 

 

 

食と料理の研究家/野菜ソムリエプロ/6次産業化プランナー 木村 正晃

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