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心に寄り添う、優しい作品を生み出す木版画「たかだ みつみ」。

この数年、長岡市内でひときわ盛り上がりを見せている摂田屋。そこでアトリエを構えているのが、木版画作家の「たかだ みつみ」さんです。作品はどれもあたたかみに溢れ、見る人の気持ちが穏やかになるようなものばかり。どんな思いで木版画に向き合っているのか、そもそもどうして木版画作家になろうと思ったのか、いろいろとお話を聞いてきました。

 

たかだ みつみ Mistumi Takada

1983年長岡市生まれ。東京工芸大学在学中に木版画と日本文化に興味を持ち、東京伝統木版画版元へ就職。働きながら自身の作品づくりをはじめる。2012年に長岡市に戻り、作家専任となる。2021年、摂田屋にアトリエ「atelier m//Woodblock print studio」をオープン。

 

伝統木版画の「版元」で働きながら作品づくり。地元に戻って勤めようと思ったものの……。

——たかださんが版画に興味を持ったのはいつ頃ですか?

たかださん:大学在学中です。木版画と日本文化に興味を持って、伝統木版画の版元でアルバイトをはじめて、そのまま就職しました。

 

——その「版元」というのは?

たかださん:伝統木版画の世界は、下絵を描く絵師、下絵を木版に写して彫る彫師、それを紙に摺り上げる摺師というふうに分業制になっています。その全体をまとめる出版社のような役割を果たすのが「版元」です。

 

——たかださんご自身が版画をはじめたのはいつなんですか?

たかださん:大学ではグラフィックデザインを学んでいて、そこでの課題に版画を結びつけて作品づくりをしていました。卒業後は勤めながら友人と作品展をやるなどして、細々ではありますが創作活動は続けていました。作家専任となったのは長岡に戻ってきてからですね。東京にいた頃は版画をやりつつも勤め人でしたので。

 

 

——作品づくりに専念するために長岡へ来られたんですか?

たかださん:まったくそういうわけではないんです。むしろ、長岡に戻ったら版画はやめてどこかに勤めようと思っていたくらいです。

 

——では、なぜ地元に戻ろうと?

たかださん:きっかけは2011年の東日本大震災かもしれません。「東京にいなくちゃいけない理由はないのかな」って思って。同じことの繰り返しのような毎日に変化を求めていたのかも。

 

——長岡に戻ってからは、どうやって木版画のお仕事を増やしていったんでしょう?

たかださん:もともとつながりのあった方から展示会のお誘いをいただくなどして、なんとなく周りからのリクエストで作品をつくっていたら、木版画だけをやるようになったんです。どのご依頼もすごく楽しいので、木版画作家としてやっていけていることに幸福感があります。

 

「考える時間」に最も労力がかかる木版画。素敵なものを共有したい。

——改めて、たかださんの活動について詳しく教えてください。

たかださん:作品をつくる他には、地元企業の米菓の包装紙やショップカードなどに、木版画表現をベースにしたイラストレーションやデザインを施す仕事をしています。それに木版画を教える講座、ワークショップも開催しています。

 

——「身近なものを大切に愛おしんで丁寧に生きる。」というコンセプトでいらっしゃいますよね。

たかださん:初期の作品が、道具をモチーフにしたものでした。それで、普段から何気なく使っているものの美しさにも気がつく心を持っていたいと思いました。私自身、コンセプトに掲げているような生き方を目指しているという意味もあります。

 

——目指しているのはどんな作品ですか?

たかださん:見てくださった方が「綺麗だな」とか「いい気持ちになる」とか、そんなふうに思えるものです。私が「素敵だな」「いいな」と感じたものをお裾分けするような気持ちです。

 

——ホームページのメインデザインにも使われていて、アトリエにも飾られている山の風景。これはきっと中越の山ですね。

たかださん:ふふふ。その通りです。新潟市の山の風景とはちょっと違いますよね。この作品は四季を表現していて、同じ版木を使って色を変えて摺り分けています。山は季節や時間など、そのときの条件によって見え方が変わります。それを表現しているんです。

 

 

——どの色を選ぶかも含めて考えることが多そうですね。

たかださん:手間はすごくかかりますね。絵を描くのとは違うので、版木をどう組み立てて完成させるのか考えることにすごく時間をかけます。細かく色を分けようとすると、それだけ版木の枚数が増えてしまいます。いかに少ない色数で、豊かな表現ができるのかを考えるんですね。それから彫って、一枚ずつ摺り重ねていって。途中で失敗してしまったら、作業はふりだしに戻ってしまいますし、とてつもない時間と手間がかかるのが木版画です。

 

——想像するだけで無数の工程が……。

たかださん:「なんで版画なんか選んだんだろう」って思うときもあります(笑)。でも、木版画でなければ出せないものがあるんですね。それが好きでやっています。

 

——作品づくりにおいて「生みの苦しみ」はありませんか?

たかださん:常にあります(笑)。でもこのアトリエにいる時間がすごく好きなので、飾り付けをしたり花を替えたりすることで、いい気分転換ができているのかもしれません。

 

日本の伝統技術「多色刷りの木版画」を広く知ってもらいたい。

——長岡に戻って木版画を専業にされるようになってから、何か印象深いことはありますか?

たかださん:ひとつは1年半前、やっとアトリエを持てたことです。ずっとこういう場所が欲しかったので。ふたつ目は、アトリエを開いて1周年の記念に伝統木版画の展示会を開催できたこと。多色刷りの木版画の技術は日本で生まれたものなので、その素晴らしい伝統をみなさんに再認識して欲しいという思いが、作品づくりを続けるモチベーションでもありました。たくさんの方から展示会にお越しいただき、夢が叶いました。

 

 

——いったんは「版画をやめよう」と思ったたかださんが、作品づくりを続けて来られたのにはそんな思いがあったんですね。

たかださん:作品を見てくださる方や、「好きだ」と言ってくださる方のおかげですね。展示会はそれをダイレクトに感じられるので、これからも続けていきたいですし、そういう場があったからここまでやってくることができたと思っています。

 

——さて最後に、今後の目標を教えてください。

たかださん:もっともっと長く活動を続けていけるように、個人の作品づくりはもちろんですが、ご依頼いただくお仕事の幅も広げたいですね。今は中越エリアが活動のメインになっているので、別の地域や県外でも作品を見てもらえる機会を持てるように頑張りたいです。

 

 

 

たかだ みつみ

atelier m//Woodblock print studio

長岡市摂田屋4丁目7-35ミライコンパス2F 

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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