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僕らの工場。#9 米農家の贅沢な甘酒づくり「川瀬農園」

  • ものづくり僕らの工場。 | 2019.11.30

広大な農家の4代目による新たな挑戦とは?

大正4年から続く新発田の農家「川瀬農園」。新発田エリアでは2番目に大きな農家で、その広さは270haと、東京ドームでいえば約6個分もの農地を管理・運営しています。最近では、農地委託やドローンを使用した圃場の防除の代行、お米の販売委託、また6次産業化などにも取組み、お米農家でしかできない栄養満点の「甘酒」の開発にも成功しました。私たちのソウルフード「お米」の工場である農家さんを訪ねて、農家だからこそできる商品化の試みを取材してきました。

 

川瀬農園

川瀬 雄介 Kawase Yusuke

代表。学生時代は情報処理の勉強をしプログラマーを志すも、家庭の事情により4代目に就任。農家の枠を越えた経営の観点を持ち、農地委託や独自の販路を開拓、お米を中心とした商品開発にも取組む。

 

大農園。でも最初は継ぐ気もなく「農家なんて…」と思っていた。

ーー今日はよろしくお願いします。さっそくですけど、4代目の代表でいらっしゃる雄介さんについて教えて下さい。

川瀬さん:はい、実は私は元々農家をやるつもりはなかったんです(笑)。学生時代は情報処理の勉強をしていて、無事卒業もして、いざ就職のタイミングとなったときに、家庭の事情で「農家を継いでほしい」ということになって…。それからは巻にある農業大学に入学して勉強して就農しました。

 

ーーえ?じゃあ最初は農家は継ぐ気はなかったんですか?

川瀬さん:はい。だから大学に入ったときも、すごく尖っていて、「農家なんてどうなんだ…?」っていう雰囲気を出しまくってましたね(笑)。でも、2年目の授業で自由課題があったんですけれど、そこでは自分の好きなテーマで研究ができて、私は「こしいぶき」という品種を有機栽培でどこまで育てられるかを実験したんです。結果は散々でしたけれど、ここで「農家も面白いな」って気持ちになりました。就農したのが22歳のときなので、今年で11年目になります。最初は分からないことばかりでしたし、ウチは新発田では大きい農家のほうだったので大変でしたね。

 

 

ーー大きいというのは、具体的にどのくらいの規模でやられているんですか?

川瀬さん:就農したころは15ha(ヘクタール)だったんですが、農地委託も進めていたんで現在では27haに増えています。

 

ーーうーん、27haって想像がつかないんですけど…。

川瀬さん:そうですね。兼業農家さんなんかは1~2日で田植えが終わると思うんですけど、ウチは2週間かかるくらいの広さです。ここらへんの地域(新発田エリア)では2番目に大きいと思いますね。

 

ーーそれは大農園ですね(笑)。ちなみに農地委託と言われましたけれど、やっぱり今は跡継ぎ問題とか、そういうことでですか?

川瀬さん:そうですね。今はご自身で管理できなくなってしまった農家さんが多くて、そういう方から相談を頂いて農地の委託を受けているという感じです。あと、ウチにお任せいただく理由としては独自の販売ルートを持っているから、という方もいらっしゃいますね。

 

ーー以前からそういったルートをお持ちだったんですか?

川瀬さん:いえ、私が入ってから営業で開拓しました。今では東京、関西方面の業者さんと取引をさせていただいていて、卸価格の安定化を図れていますね。例えば農協さんに卸す場合だと、卸価格が直前になるまで分からない、時期によっては損をするまではいかないかもしれませんが納得のいく価格での取引が難しい場合もあったりします。なので、ウチの場合であれば事前に卸価格のやり取りを行なえるので、美味しいお米を納得のいく価格で販売を行なうことが可能です。

 

稲アレルギーが農業用ドローン導入のきっかけに。

ーー雄介さんはかなり「やり手」な農家さんですね。

川瀬さん:ありがとうございます。でも、私、実は「稲アレルギー」なんです(笑)。

 

ーーえ?マジっすか?

川瀬さん:マジっす(笑)。もう顔とか腫れ上がりますね、アンパンマンみたいに。アレルギーランクでいうと1~6クラスというのがあるんですけど、私5です(笑)。それは就農してからだったんですけど、農薬の散布のときに農地に入って作業しなくてはいけなくて、それも土地が広いので、ずっと稲の中にいたのが原因だったと思うんですけど。だから、農業用ドローンを買って、散布はドローンでやることにしたんです。本当にあれは買って良かった(笑)。そしたら、それを見ていた他の農家さんが「ウチもお願い」ってことが多くて。なので今ではそれも事業としてやっていたりします。

 

門外不出のお米でつくる贅沢な甘酒。その開発秘話。

ーーそれはケガの功名というか…。そんなところもすごいですね。そしていよいよ、「甘酒」の開発のお話を聞きたいのですが。

川瀬さん:もともと、私が「甘酒」が好きだったんですね。キッカケは食品市に参加したとき上越の農家さんが甘酒を自分のところで作って販売していたのを見て、話しを聞いたら自分でも作ってみたくなったんです。それでどうせ作るなら、米農家として本当にこだわった甘酒にしようと考えて作ったのがこの「糀甘酒」です。ウチの甘酒は「米糀と水」だけで作っています。一般的な甘酒って「米と米糀と水」の割合で作られてるんですけど、これは糀と水だけだと原料単価が3倍くらい高くなってしまうため、米も混ぜて作らないと採算がとれないという意味なんですが、そこはウチで作ったお米を使っているのでそういった部分での利点はあったかなと思います。

 

ーーさすが、米農家さんですね。

川瀬さん:「米農家ならでは」という差別化をより強くしたいと思ったので、糀にするお米は「越淡麗」というお米の品種を使っています。たぶん日本酒好きな人なら分かると思うんですけど、大吟醸酒に使われるお米ですね。実はこれ、蔵元さんが認めた農家さんしか作れなくて、基本お酒作りにしか使われず、新潟県としても門外不出のお米なんです。

 

ーーえ?ちょっと待って下さい。門外不出のお米を…なんで使えるんですか?

川瀬さん:それはちょっとご縁がありまして、酒造さんからお米づくりの許可を頂くことができたので、それをこの甘酒にしてみようと(笑)。

 

 

ーーうわー、贅沢ですね。

川瀬さん:このお米を使った甘酒はウチにしかないと思います。そしてこの「越淡麗」を50%削ったお米が、大吟醸として使うことができるんですけど、ウチも同様に50%削ったお米を使ってます。通常、私たちが食べている「白米」は10%削ったといったら分かりやすいと思うんですが、お米ってタンパク質に覆われているんで、どうしても雑味が出てしまうんです。だからより雑味を取り除いた最高級のお酒として作るために大吟醸は50%削ったお米を使うんですね。その雑味の少ない飲み口をこの「甘酒」にも使いたかったんです。

 

ーーめっちゃこだわってますね…。やっぱり作っていて試行錯誤はしたんですか?

川瀬さん:もともと甘酒は好きだったんですけど、今出回っている甘酒は甘すぎるし、クセが強すぎるって思っていて。だから、もっと飲みやすい甘酒を作ろうと思って辿り着いたのがこの「糀甘酒」です。もう何十種類の菌(糀菌)とお米を組み合わせて実験しましたね。実は最初は栄養価にとらわれていたところがありまして、ちょうどそのタイミングで妻が風邪を引いたんですけど、試作していた甘酒を飲ませたら、飲みづらい!って言われて(笑)。そこで根本から菌やお米を見直した結果、この配合に辿り着けたというか。

 

ーー奥様の一言がこの「糀甘酒」誕生のキッカケでもあったんですね。ちなみにこのパッケージも素敵だなと思いましたが、その辺のお話もお聞かせ下さい。

川瀬さん:パッケージやPRについては妻に任せました。やっぱり、パッケージってすごく大切だと思っていたし、他で出回っている甘酒ってなんだかザ・甘酒!って感じがしていたので、そこでも手に取ってもらいやすい見せ方を妻とデザイン会社さんにお願いして作ってもらいました。

 

ーーゆるっといい感じのデザインですよね。猫が気になります。

川瀬さん:(笑)。ウチで飼っている猫がいて、デザイナーさんがその猫をモチーフにしてくれたんです。「ポンズがオス猫で、メス猫が何匹もいたのでまとめてゴメス」って名前にしていたんですけど、それが面白いってことで「PONS&GOMES」って感じですね。子供達にも親しんでもらいたいって気持ちも含んで。

 

 

今回、快く取材に応じてくださった川瀬さん。とても優しいご夫婦でした。帰り際には「糀甘酒」をおみやげにいただき、帰宅後さっそく家族で試飲。子供達も「これうめっ!」と言いながらゴクゴク飲み干すくらい美味しい甘酒。飲む点滴といわれるくらい栄養価が高く、その夜ぐっすり寝れたのはもしかしたらこの甘酒のおかげかも。現在、ネット販売と新発田の営農センターというところで買えるみたいなので、ご興味のある方は是非!

 

 

 

川瀬農園

新潟県新発田市中田町2-17-11

0254-22-4066

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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