伝統的な職人の技術を新しい「蒔絵ネイル」として発信する「林仏壇店」。

伝統工芸士×ネイリスト。新しい伝統発信を発見。

伝統によって磨き上げられた技が集結する「手作り仏壇」。その技術は、経済産業大臣指定・伝統的工芸品「新潟・白根仏壇」として全国に認められ、各地で高い評価を受けてきました。しかし、職人の高齢化や跡取り問題などが近年、大きな問題に。そんななか、蒔絵部門伝統工芸士として新潟市中央区「林仏壇店」で働く佐藤さんは、家業を継ぎ、家族と力を合わせて伝統工芸の素晴らしさを新しいカタチで発信しはじめます。今日はそんな佐藤さんのお話。

 

林仏壇店

佐藤 裕美 Hiromi Sato

1980年生まれ。高校卒業後、デザイン専門学校へ進学。現在「林仏壇店」6代目として修業中。3人の元気な子どもたちに囲まれ、家庭と伝統工芸士としての仕事を両立してる。

 

 

五職の技。職人たちの技術が集まった新潟・白根仏壇。

――仏壇店というのは、仏壇を作られているのですか?

佐藤さん:「林仏壇店」では仏壇の販売と、制作の一部を行っています。仏壇は、良質な天然木を用いて仏壇の土台となる原型を作る「木地師」、仏壇内部の図柄を平彫り・丸彫り・重ね彫りなどで彫る「彫師」、新潟・白根仏壇では魚子文様の飾り金具などを打ち出す「金具師」、組み立てや土台を漆で塗り金箔を貼る「塗師」、漆を使い絵模様を描き金箔で着色する「蒔絵師」の五職の技からできています。「林仏壇店」では塗師、蒔絵師の作業を主に行っています。

 

――多くの技術が集まって、ひとつの仏壇が出来上がるんですね。職人さんって新潟にはどのくらいいるのですか?

佐藤さん:新潟市内で仏壇が有名な産地は新潟仏壇、白根仏壇、豊栄仏壇の3つの地域があります。近年、「新潟・白根仏壇」として伝統工芸品の産地指定も受けましたが、新潟仏壇組合の職人さんは10名にも満たないんです。昔、職人さんは50名以上もいたそうなんですが、高齢化、跡取り問題などで年々少なくなってしまいました。

 

 

――新潟県内で仏壇といえば白根というイメージでしたが、今ではひとつになっているのですね。職人さんはお互いに協力し合っていますか?

佐藤さん:そうですね。産地指定として一緒になっていますが、組合は別でやっています。5つの作業から仏壇を作るので、すべてとはいわないですが、お互いに間に合わない部分を補い合っていますね。

 

――そうなると、仏壇店によっての特徴はあまりないですよね。

佐藤さん:素人目には、ほとんど一緒だと思います。ただ、師弟関係を記した家系図のようなものがあり、どこの系統かによっては多少の作りは違います。ただ、繰り返しになりますが職人さんが減っているので、年々その違いも減っていますね。

 

夢はイラストレーター。蒔絵師となったキッカケ。

――佐藤さんは、いつから「林仏壇店」で働いていますか?

佐藤さん:最初は学生時代に、両親からちょっと手伝ってといわれ下絵を写したり、配達の手伝いをしたりしていました。平日に頼まれると学校をサボったり(笑)。しっかりと働きはじめたのは専門学校を卒業してからですね。

 

――では、昔から家業を継ごうと考えていたんですね。

佐藤さん:いや、本当はイラストレーターになりたかったんです(笑)。

 

――もしかして、嫌々継いだパターンですか?

佐藤さん:そんな感じです(笑)。専門学生時代に面接の練習をしていて、その話を父にしたんです。そしたら「そんなのしなくても、うち(林仏壇店)があるから」といわれたんです。当時、絵を描くことが好きで、東京ビックサイト(東京国際展示場)でイベントに参加していたんです。そこである企業の方から声をかけてもらったりしたので、本当はイラストレーターの道へ進みたかったんですけど、継いでくれといわれなくても父の言動を見ていると…わかるじゃないですか、継いで欲しいって気持ちって。なので、嫌々(笑)。

 

 

――「林仏壇店」で働きはじめてからは、どのような仕事を?

佐藤さん:学生時代から手伝っていた仕事や、漆の塗り方や蒔絵を教わったりと、仕事と並行して修業がはじまりました。絵を描くことは得意だったんですが、長い筆を使うのでなかなかうまくいかないし、漆にかぶれてしまい全身が痛いし、痒いしと…本当に3年ぐらい嫌でしたね。

 

――スタートからスランプみたいな状況だったんですね。それでも辞めなかったのは理由があるのでは?

佐藤さん:ある時から、「林仏壇店」の仕事後にイラストレーターとしての活動をスタートしたんです。古町にある飲食店の看板や壁画を描いたり。それが楽しくて、蒔絵師としての仕事もその頃から徐々にいい方向へと向いていきました。ちなみに妹がやっているネイルサロン「ラ・グラース」のロゴも私が描きました。

 

仏壇の技術で何ができるのか。蒔絵ネイルのはじまり。

――ところで佐藤さんが取り組まれている「蒔絵ネイル」は、どのようにしてスタートしたのですか?

佐藤さん:はじまりは新潟市、新潟大学、新潟仏壇組合が「仏壇の技術で何か作れないか?」と、技術を発信する意味もあって考えはじめたことからなんです。それもかなり前の話で、コンパクトを作ってみたり、妹とネイルを作ってみたりと、いろいろ試作をしていたんです。結果、ネイリストである妹と塗師の父、そして蒔絵師の私と母の4人でできる「蒔絵ネイル」がいいんじゃないかとなって、2018年から本格的にスタートしました。

 

――家族でひとつの「蒔絵ネイル」を作り上げているのですね。

佐藤さん:そうですね。まず、お客さんの爪のカタチに合わせて妹がチップと言われる爪型をした土台を削って、長さや角度を調整します。そのチップに黒、赤、白といった漆を父が塗っていきます。そして最後に蒔絵師の私の仕事。ネイリストである妹に、どこにどんな文様をいれるかなどをアドバイスをもらい、描いていきます。

 

 

――お客さんは「蒔絵ネイル」をどのような目的で使用されていますか?やっぱりファッション性ですか?

佐藤さん:興味を持ってもらえるのは成人式や結婚式での利用ですね。やっぱりインパクトもありますし、漆に純金の金箔で絵を描くので、高級感もあり、おめでたい印象もありますから。2018年に開催された日本文化の祭典「ART MIX JAPAN(アートミックスジャパン)」で使用してもらい、受付や案内などを仕事とされている見られる方にも興味を持ってもらえています。

 

女性ならではの考えで、伝統工芸を現代の新しいカタチに。

これからの「蒔絵ネイル」についてうかがうと、「仏壇を持つ家が少なくなっている今、蒔絵を知らない方が多い。でも、とても女性らしさもあり素晴らしい技術なので、ネイルを通してもっと蒔絵というものを知ってもらいたい」と、佐藤さん。実際の「蒔絵ネイル」を見せてもらうと、確かに「和」の高級感や上品さがありつつ、しっかりと古き良き時代の女性らしい奥ゆかしい印象もあり、その素晴らしさに驚きました。代々引き継いできた伝統技術を、家族で「新しいカタチ」として発信しはじめた「林仏壇店」。これからはオリンピック開催を控え、外国人が日本の素晴らし技術に触れる機会も増えていくと思います。「蒔絵ネイル」も、各国のファッション関係者の目に留まり、もしかしたら日本だけでなく、世界へと広がるときが来るのかもしれませんね。

 

 

林仏壇店

新潟県新潟市中央区本間町2-2656

025-223-1377


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