僕らの工場。#5 安田瓦を未来へ伝える「丸三安田瓦工業」

寒い地域に最適な安田瓦。その特徴と、新しいプロジェクトのこと。

昭和30年代、現在の阿賀野市の安田エリアには、約30社もの瓦工場がありました。「安田瓦」は、三州瓦、淡路瓦、石州瓦に次いで全国4位の生産量を誇る新潟県を代表する瓦です。そのたくさんの工場の中で3社が出資して設立されたのが、今回ご紹介する「丸三安田瓦工業株式会社」。設立は昭和55年。「マルミ」という社名は3社が出資したことに由来します。商品開発部門の責任者である遠藤さんに、瓦づくりやオリジナルブランド「TSUKI」の話をお聞きしました。

 

丸三安田瓦工業株式会社

遠藤 俊 Shun Endo

取締役。商品開発部門の責任者としてオリジナルブランド安田瓦の陶器『TSUKI』の制作・プロディースを担当。

 

安田瓦は寒冷地仕様で長持ち。コスパもすこぶるよい!

ーー今日はよろしくお願いします。まずは安田瓦についてお聞きしたいのですが、どんな特徴の瓦なのですか?

遠藤さん:安田瓦は瓦産地としては全国で4番目になるんですが、実は寒冷地使用の瓦という点では「凍害にもっとも強い瓦」で知られています。凍害と言うのは雪が降ったときに瓦に水が染み込んで凍ってしまうことです。暖かくなったときにその水分が破裂してしまう現象があるんですが、安田瓦は他の産地の瓦と瓦を焼く製造過程が違い、例えば通常の瓦は1000℃~1100℃で酸素を取り入れながら焼く「酸化焼成」と言う焼き方で作るんですが、 安田瓦は1200℃以上で焼き且つ窒息状態で燃焼する「還元焼成」で焼き締めるんです。その他にも両面に釉薬(ゆうやく)を塗り付けているので、吸水率が圧倒的に低いのが特徴ですね。

(※釉薬が掛かっていないところでの吸水率=通常の瓦:10~11%に対し、安田瓦:1~3%)

 

ーーそんなに高い温度で焼いて割れたりしないんですか?

遠藤さん:粘土が違うからですね。正直その原理については分からないこともありますが、今から190年前にこの土地の粘土が非常に良いことが発見されて安田瓦が誕生したと聞いています。実際に他の粘土とも比べてみましたが、1200℃以上の焼き締めに耐えられるのはこの粘土しかないかと思います。その代わり、この粘土は非常に取り扱いが困難で、特に成形することが難しい粘土なんです。なので、他の瓦で使われている粘土と比べると技術力が必要なので、安田瓦を作れるのは安田瓦職人だけだと思います。

 

 

ーー屋根材としての安田瓦は、長持ちという点ではどうですか。

遠藤さん:長持ちすることで言えば、どの屋根材よりずば抜けて長持ちしますね。どのくらいかと言うと、100年以上持ちます(笑)

 

ーーすごい。それはコスパもいいですね。屋根は10年くらいでメンテナンスが必要と聞いたりしますけど…。

遠藤さん:そうですね。最初にかかる費用は高くなりますけど、長い目で見るとかなりコスパのいい屋根材だと思いますね。あとは安田瓦は焼き物なので、塗り直しとかも必要ないですし、そういったメンテナンスは必要ないんです。屋根に上がって踏んづけて割ってしまった時にはその部分の張替えは必要ですが、それでも1枚2枚程度なら工賃いれてもほんと知れている額でしかないので、メンテナンス面でもコストパフォーマンスがよい屋根材だと思います。だから、そういったコストや特徴のこと知っている人は、家づくりをするときは安田瓦を選んでくれています。

 

ーーこの地域の家を見ると安田瓦が多いですけど、ただ安田瓦ブランドってだけじゃなくて、そういったメリットを知ってるから屋根を安田瓦にしているんですね。ちなみにその他にも安田瓦ならではの特徴などありますか?

遠藤さん:そうですね、遮熱と遮音効果があげられると思います。たとえば、遮熱については、1200℃以上の高温で焼くので、瓦自体に熱を通さない、熱伝導率の少ない特性が備わっているんです。だから夏でも部屋の中は涼しく快適に過ごすことができます。また、よくトタンやガルバリュウムを屋根に使われているお客さんからは、雨の音がすると聞いたりしますが、瓦であればそういう音も吸収してくれます。

 

瓦屋根につきまとう負のイメージで、業界全体がピンチに陥る。

新潟の「寒冷地仕様」としても、また屋根材としてのコストパフォーマンスにも優れた安田瓦。根強いファンは多いものの、一方、その需要はあることをきっかけに激減してしまいます。そのきっかけとは「阪神淡路大震災」。報道で写された瓦屋根が崩れている写真や映像。それ以降、「瓦=重い」という負のイメージがつきまとうことになります。今では建築基準法により滅多なことでは家がつぶれるようなことはありませんが、当時はあってないような曖昧な基準の中で建てられた家が多く、倒壊の原因は柱や梁の問題がほとんどだったのですが、そのときの映像などですりこまれた印象は強烈でした。震災以降、瓦業界全体で受注が激減。跡継ぎ問題なども重なり、安田にある30社近い瓦工場も4社ほどに減ってしまいました。

 

 

ーー当時、俊さんは入社していたのですか?

遠藤さん:いえ、私はその頃はまだ入社はしていませんでした。高校を卒業してから瓦とは関係ない仕事をしたあと、料理人になりたくて料理の勉強をし、食に関わる仕事をしていました。実際に入社したのは、父の遺言に「兄が会社を継ぎ、私が兄を支えて欲しい」という言葉があったことです。それで入社を決意しました。今から15年前のことです。

 

ーー入社当時はじゃあ瓦については完全な素人さんだったわけですよね…。

遠藤さん:入社したその日、当時の工場長から「俺はもう現場から営業に回らないといけないから、早く仕事を覚えてくれ。工場は任せた」って言われて。実際には機械で作るにしても、職人的な感覚が必要な仕事でしたから、とにかく必死でしたね。それからやっとまわりが見えるようになったのが入社してから3年経ったときでした。それからは工場の生産体制だったり組織をよくしていける環境を整えることを頑張っていました。

 

瓦を焼く機械で陶器を作る。新プロジェクトは試行錯誤の連続。

ーーここからはオリジナルブランド「TSUKI」について教えてください。

遠藤さん:今から4年前に、社内会議があってそこで新しく「安田瓦の良さを伝えられるものを発信しよう」ということになったんです。実は、僕自身はあまり乗り気じゃなかったんです。それをやる場合、全部僕にまかせられてしまう…って空気になっていて。工場長としてこの工場の体制を守らないと行けない立場があったので、「やる」となったら二足の草鞋ではとても対応ができないと考えていました。だから僕だけが最初は反発していたんですね。でも、TSUKIを提案してくれたデザイナーさんと実際にお会いしてみて、すごく面白い人だったんです。すごく世界を見ている人だなと思って。それが、このブランドをやってみようと思ったキッカケでした。

 

ーー実際、二足の草鞋のような感じになったんですか?

遠藤さん:まず、工場長業は続けなければいけなかったので、新しい取り組みは仕事終わりの時間からの作業となりました。プロジェクトとしては、デザイナーさんが安田瓦の色をすごく気に入ってくれて、シンプルにこの色だけを見せる陶器を作ることになったのですが、もちろん私は陶芸家ではなかったので、そこからは焼き物の勉強をYouTubeとか見て学んだり、有田焼きの作家さんを紹介してもらい学びにも行きました。でも、僕の場合条件がまったく違う環境から陶器を作らなくてはいけなかったので、最初は失敗の連続でした。

 

ーー条件が違う環境、というのは具体的には…?

遠藤さん:私たちの場合は、瓦を焼く機械で商品を作らなくてはいけないので、いくら焼き釜で作られた陶器の技術を学んでも同じ物は決してできないんですよ。形にしても割れたり、形どおりに仕上がらなかったり、そもそも、土が違うので、それを応用して作らなくてはならなかったので、ほんと失敗の連続でした。でもプロジェクトを発表する時期は決まっていましたので、寝ずに、どうすれば形になるかを試行錯誤していました。実際に目が覚めたら工場の中で倒れてた、ってこともありましたし(笑)

 

「後世に残しておくべき価値」を見出され、大きな賞を受賞。

ーー試行錯誤の末、ようやく形にできたのが陶器「TSUKIシリーズ」。狙い通り、通常の陶器では見たことのない「色」と洗練されたデザインが評判になるわけですね。

遠藤さん:最初の発表の場はパリの見本市でした。そこでの反響としては、3つ星レストラン、現地の雑貨屋さんが気に入って採用してくださって。その後、話題の逆輸入的な反響で、東京のビックサイトで開かれた見本市でも「あの料理店で使われているお皿ですよね?」って感じで扱ってくれたりして。想像以上の評価をいただきました。実は新潟でも、取り扱ってくれている居酒屋さんや料理店は多いんですよ。(※「燕三条イタリアンBit」「和食酒場 風花」など)

 

ーー2017年にはグッドデザイン賞へも挑戦。見事受賞することになります。

遠藤さん:2017年の作品は自分でデザインを考えられるようになりました。最初はどうなるかと思っていましたが、評価されるのも嬉しく思いますし、私自身もやっぱり安田瓦の魅力を伝えたいという想いでスタートして今でもそのことをベースに活動しているので、やって良かったなと思っています。

 

ーーさらにすごい賞も受賞されたんですよね?

遠藤さん:ある日会社に来たら、一枚の手紙がポストにあって。それを見たらJIDA Design Museum (JIDAデザインミュージアム)からの手紙だったんです。「TSUKIシリーズ」が選定されました、って書いてあったんですが、正直、私はこの組織が何かわからなかったんですね。最初はいたずらかなって思って、すぐにTSUKIのデザイナーさんに連絡したら、「めちゃすごいですね!」って驚かれました。実際に選定式に参加したときには、まわりにトヨタとか超有名な企業のプロダクトばかりで、選定の基準が「後世に残しておくべき価値のある製品」ってことがわかって。とてもすごい賞をいただけたんだと実感しました。

 

ーー今後の目標も教えてもらっていいですか?

遠藤さん:そうですね、今、商品が流通している国はフランス、ニューヨーク、香港、中国、タイ、シンガポールなのですが、まだまだ世界に発信していけたらと考えてます。とはいえ、元々は安田瓦の良さというのを伝えたくてはじめたブランドなので、この活動を通してそれが伝わればとシンプルに思っていますし、あと、今後の展示会では陶器のデザインに「新潟」というコンセプトも盛込んだ商品を発表する予定なので、そういったストーリーを感じれる商品開発も進めて行きたいと考えています。

 

 

 

丸三安田瓦工業株式会社

阿賀野市保田6130-1

0250-68-3802


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