新潟県最北にある村上市の瀬波温泉。その温泉街の一角に、パッションフルーツ、スターフルーツ、ライチ、ドラゴンフルーツなど、熱帯産の南国フルーツを栽培している「瀬波南国フルーツ園」という施設があります。雪国である新潟県の最北地で、いったいどのように南国植物を育てているのでしょうか? 今回は「瀬波南国フルーツ園」の須貝さんに、南国フルーツ栽培の秘密や、南国フルーツを使った人気のジェラートについてお話を伺いました。
瀬波観光フルーツ園
須貝卓也 Takuya Sugai
1977年岩船郡関川村生まれ。株式会社開成 取締役。高校卒業後、新潟市内の専門学校で環境デザインを学ぶ。趣味はバイク。休日は愛車のカワサキW400に乗って1人ツーリングを楽しむ。ただし、バイクを泥はねなどで汚したくないので晴れの日限定。
——今日はよろしくお願いします。周囲には大きなビニールハウスがありますね。あの中で南国フルーツを作っているんですか?
須貝さん:はい、そうです。パッションフルーツ(ブラジルなど原産)をメインに、スターフルーツ(南インドなど原産)、ライチ(中国原産)、ドラゴンフルーツ(メキシコ、中南米原産)などを栽培しています、これらは熱帯や亜熱帯で栽培されている植物ですので、温度管理が大変なんです。今年からは、寒さに強く育てやすいラズベリー(フランポワーズ)に力を入れています。
——ここは南国じゃないですが、どのようにして南国フルーツの栽培をしているんでしょうか?
須貝さん:もともと我々は米作りをしている会社なんです、米処ですから。そんな会社なんですが、自社ブランド米として「じゅんかい米」とお米を生産し販売しております。「じゅんかん」と名付けたのは、地域資源をリサイクルしながら農産物を作付する循環型農業に取組んでいるからです。循環型農業に取り組むきっかけとなったのがバイオマスプラントの導入です。耳馴染みが無いと思うのですが、簡単にいうと廃棄される食品をリサイクルできるような仕組みです。食品はもともと農産物ですから、リサイクルできれば食品から食品をつくることが可能となるので、それを総称して循環型農業といわれております。具体的には、市内瀬波温泉街の旅館やホテルから出る厨芥くずや食べ残しといった食品残さや生鮮スーパーの販売ロス等の食品由来のものをバイオマスプラント内で発酵させ肥料化します。発酵時には微生物由来のバイオガスが発生するので、ガス発電機を通すことで電気と温水もつくるられます。このプラントからもたらされる『肥料と温水』を使って南国フルーツの通年栽培を行っております。なお、温水の利用方法は生産ハウスの地中の温水管を埋設している地中加温方式ですので、室温は全く温度管理されておりません。よって冬期は外気同様ハウス内も低温です。ちなみに発電した電気は直接送電網へ供給しており、近隣の皆さまに使っていただいております。
——南国フルーツだから、暖かさというか、そもそも「熱」が必要ですよね?
須貝さん:そうですね。まず村上市内のホテルやスーパーで廃棄される食品ロスを使って、メタン発酵してできたバイオガスで発電し電気を充電します。その際、発電機のモーター熱で温まった温水を地中に流し、南国植物の栽培をしているんです。発酵後にできる固形物などは有機肥料として使っています。
——なぜそんな手の込んだことを…。
須貝さん:現在、農家は深刻な担い手不足を抱えていまして、農業従事者がどんどん減っているんですよ。その原因は、農産物の販売価格が値下がり傾向なのに、栽培にかかる費用は上がって以前と比べ利益が取れないことなんです。そこで、もっと利益が出るような方法はないかと考え、バイオマスプラントによる循環型農業を始めました。発電時の温水で地中温度を上げ、同時に肥料を得ることもできるため、栽培費用を大幅に減らすことができて利益を出せるんです。
——でも気温の低い村上市。やっぱり苦労はありますか?
須貝さん:ありますねぇ。地中には温水を流して温度を上げていますが、ビニールハウスという以外には室温管理をしていませんので、急激な気温変化があると南国植物がダメージを受けてしまいます。どんな農業もそうですが、天候は読めないので大変なところはありますね。でも、ずっと村上市で栽培してきたので、寒さに強い南国植物として育っています。ほかに大変なことといえば、海に面してビニールハウスが建っているので、真冬は海風がすごいんです。農産物に対する塩害などはないんですが、ハウスのビニールが裂けたり破れたりすることはありますね。
——ところでジェラートショップはどういう理由で始めたんですか?
須貝さん:瀬波南国フルーツ園のオープンと同時にパッションフルーツの栽培を始めたんですが、意外と「パンションフルーツを食べたことのない人」が多かったんです。そこで、パッションフルーツを気軽に味わってもらえる方法を考えて、ジェラートにして提供しました。その後、フルーツ園で栽培していたマンゴー、ドラゴンフルーツなども次々とジェラートにして楽しんでいただいています。
——こだわりみたいなものがあれば教えて下さい。
須貝さん:毎日作りたてのジェラートを提供するようにしています。南国フルーツを使ったジェラートは、果肉を丸ごと使って作っているんです。パッションフルーツのジェラートって実は輸入品を使っているお店が多いと思うんですが、輸入したパッションフルーツって種が入っていないのも多いんですよ。瀬波南国フルーツ園のジェラートには、果肉はもちろん種も丸ごと入っているので、ポリポリした食感をアクセントとして楽しんでいただけます。あと、南国フルーツ以外に地元・村上市ならではの食材を使ったジェラートも作っています。
——例えばどんなものがあるんですか?
須貝さん:時期や天候などによって変わることがあるんですが、レギュラーとして提供しているものは「塩ココナッツミルク」「村上茶」のふたつです。「塩ココナッツミルク」には笹川流れの海水から作られる塩を使っています。まろやかな塩味とココナッツの甘さの爽やかなバランスが絶妙で、ジェラートショップでは2番目に人気があります。「村上茶」は村上のお茶屋・冨士美園さんで作られる村上茶の芳醇な甘みを味わえる、3番目に人気のジェラートです。そのほかにも不定期ですが、宮尾酒造の〆張鶴酒かす、常盤園のほうじ茶、岩船麩など、地元食材のジェラートを提供しています。
——麩!?…いろいろあって目移りしますね。南国フルーツのジェラートも種類があるんでしょうか?
須貝さん:はい。中でも1番人気はパッションフルーツです。爽やかな甘さとさっぱりした後味で好評ですね。そのほか、ライチヨーグルト、マンゴー、シークワーサー、ランブータンなど、南国フルーツのジェラートを季節ごとにお楽しみいただけますよ。
——でも、お店に行かないと食べられないんですよね?
須貝さん:通信販売もやっているので気軽にお取り寄せいただけますよ。「新潟直送計画」のサイトから、お好きなジェラートを選んで詰め合わせできる「ジェラート詰め合わせ」をご注文いただくことができます。
——ジェラートのほかにショップで楽しめるメニューはあるんでしょうか?
須貝さん:はい。「トロピカルドリンク」と「スムージー」はどちらもシークワーサーやシトラスオレンジなどの南国フルーツから好きなものをお選びいただけます。そのほか、ハーブコーヒー、挽きたてコーヒーもそれぞれホット、アイスの2種類ずつをご用意しています。
——販売している商品などはあるんでしょうか?
須貝さん:販売商品の中で人気があるのは「贅沢パッションフルーツ果肉ジャム」。パッションフルーツの果肉を種までふんだんに使い、じっくり煮詰めて作っていますので、甘酸っぱさが濃縮されたジャムになってます。その名の通りとても贅沢な商品ですよ。それからロングセラーの「いなほスープ」。すりつぶしたお米に、あかぎ、おおばこ、たんぽぽなどの高原野草を加えて作ったスープです。昆布やしいたけで出汁をとった「和風」、とうもろこしが濃厚な「コーン」、野菜の旨みがきいた「野菜&カレー」の3種類があります。
——今後、新しく始めたいことなどはありますか?
須貝さん:今年から栽培に力を入れているラズベリーを、ジェラートの新しい定番にしていきたいと思っています。それから、ジェラートショップとしては、開店してから今年で11年目に入ります。時代は平成から令和に変わったことですし、お店としてはもう一つ次のステップを考えてもいい時期なのではないかと思っております。軽減税率も始まりますしね。店舗のリニューアルだとか、2号店の出店とか移転なんかも含めて皆さまの意見を頂戴しながら気長に検討していきたいと思っております。フルーツ園で栽培する南国フルーツもニーズに合わせていろいろ試したいですね。以前、コーヒーの木も栽培してみたことがありましたが、村上で栽培するのは難しかったですね。そのように試行錯誤しながら、いろいろな植物栽培へのチャレンジも続けていきたいと思っています。
バイオマスプラントを使った循環型農業により、気温の低い村上で南国植物を栽培している「瀬波南国フルーツ園」。天気のいい日は瀬波海岸の真っ青なオーシャンビューとともに、南国フルーツや地元村上食材のジェラートを味わうことができます。この夏、「瀬波南国フルーツ園」に立ち寄って、南国フルーツを見学しつつジェラートを楽しんでみてはいかがでしょうか。