雪国・新潟も乾いた道路が目立つようになり、ようやく春めいてきました。思えば私たちが降雪のひどい朝も無事に通勤・通学できていたのは、各地の建設会社さんが真夜中から出動し道路の除雪をしてくれているからだったりします。そんな地域の建設会社さんは、私たちが暮らす社会の基盤を整える重要な役割を担ってくれている一方、深刻な人手不足に直面しています。この課題を解消すべく、地域とも協力して新たな挑戦に取り組もうとしている若者が県北にいます。村上市「二野建設」の二野佑允さんです。二野さんは、首都圏のまったく異なる業種から3年ほど前に地元の土建業へと転身したキャリアの持ち主。そんな二野さんに、会社のことや業界のこと、またこれから取り組もうとしている新たな試みについて、詳しくお話を伺ってきました。
二野建設
二野 佑允 Yusuke Nino
1990年村上市生まれ。「二野建設」取締役。大学卒業後、中古車売買の国内最大手・ガリバーインターナショナル(現IDOM)に入社し、営業やマーケティング、事業戦略策定、人材育成などに従事する。30歳で退職して帰郷し、父が創業した二野建設に入社。取締役として経営面から現場まで会社のあらゆる業務に携わる。大学時代に出会った夫人、3歳の愛娘との3人暮らし。
――本日はよろしくお願いします。この冬も大雪でしたが、除雪作業はやっぱりタイヘンでしたか?
二野さん:はい(苦笑)。大きいのが何回かドカンと来た昨冬に比べ、今冬はそれなりの量が何度も来て、処理が落ち着く前にまた降ってきてずっと作業が続いている感じで、慢性的な疲れのたまる冬でしたね。出動がかかるか判断しづらい量の降雪で、いつ起こされるか分らなくてぐっすり寝られない日も少なくなかったですし(笑)
――本当にお疲れ様です。まずは二野建設さんについて教えてください。建設業としては若い会社だとお聞きしましたが。
二野さん:地元の建設会社で働いていた私の父・一寿が独立して弊社を創業したのが2014年なので、建設業としてはかなり若い部類だと思います。事業としては土木建設工事と給水排水設備工事、外構工事をメインに、冬期は先ほどお訊ねいただいた除雪作業も請け負っています。工事に関しては林道開設工事を得意とし、また下水道工事の経験豊富な社員も多く、総勢20人の従業員で日々業務に取り組んでいます。
――ふむふむ。会社の特徴、強みをより具体的に教えていただければ。
二野さん:そうですね……強みとしては主に3つあると考えています。1つはさっきも述べた若い会社であることです。歴史が浅い故のデメリットももちろんありますが、固定観念に囚われず、フットワーク軽く新しいことにどんどん挑戦できるのはうちの大きな強みだと思っています。2つ目は施工主体の会社として、工事で主に求められるクオリティとスピードを高いレベルで両立できることです。3つ目は、2つ目とも関連しますが、経験豊富なベテランから意欲に満ちた若手まで、多くの人材を工事に投入できることです。ひとつの工事についてより多くの人材を投入することで、できるだけ早く終わらせることができ、より多くの現場を請け負うことができます。これはつまり、より多くの依頼に応えることができるということになります。
――まったくの素人質問ですが、長引く不況にコロナ禍も重なる昨今、仕事はそれなりにあるものなのでしょうか?
二野さん:県内でいえば、1996年をピークに右肩下がりなのは事実です。東日本大震災からの復興や東京オリンピックに伴う需要増など散発的に上向く時期はありましたが、ピーク時と比べると全体の発注額は2019年時点で半分以下になっています。それでも会社の数自体は3割減に止まっていて、これは少ない仕事を分け合っている状態ともいえますが、逆に建設会社が地域社会に不可欠な存在であることを示しているともいえます。建設業はどんな時代でも絶対になくならない産業のひとつだと思っていますし、弊社でも地域社会の基盤を支える仕事を担えることに誇りを持って業務にあたっています。
――先ほど人材の確保について課題を挙げていましたが、やっぱり厳しいんですか。
二野さん:弊社に限らず、地方の中小建設会社はどこも頭を悩ませている問題だと思います。技術力が高くて財務状況も良好なのに、後継者や担い手がいないばっかりに廃業するという話も残念ながら耳にしますし……。建設業というとまだまだ「3K」「やんちゃ」というイメージが根強く、敬遠される要因になってしまっているのは事実だと思います。私自身は別業界からの転職ですが、誤解を恐れずに個人的な経験から言わせてもらえば、イメージとは裏腹にかなり数字を使う仕事だと実感させられましたね。体も頭も両方フルで使うというか。それだけにやりがいはかなりありますし、仕事としての規模の大きさ、ダイナミックさも他の業界ではなかなか経験できないものだと思います。また先ほどの話ともつながりますが、決してなくならない仕事だと思いますし、みなさんの生活を支える使命感もありますし、すごく魅力のある業界だとは思うんですけどね。進路に迷っている方は、ぜひ建設業界にも目を向けてもらえれば……。
――言われてみれば確かにそうですね。そもそも二野さんが帰郷して転身したきっかけは何でしょう? 前職はどんなことをやっていたんですか?
二野さん:大学進学で上京し、新卒で中古車売買の「ガリバーインターナショナル」に入社しました。弊社は父が8年前に独立して創業したのですが、当時はまだサラリーマンで、自分が父と同じ仕事をすることになるとは考えてもいませんでした。ただ、自分も大学時代から、いつかは起業したい、自分で会社をやりたいとは考えていて、ガリバーに入ったのは、年齢に関係なく実力に基づいて責任ある仕事を任せてくれる場で自分を鍛えたいと考えたからです。実際、ガリバーでは結果を出すことができて、営業から事業戦略、マーケティング、人事まで様々な分野で仕事をさせてもらい、大きな経験を積むことができました。正直、それなりのポジションにもつけてもらい、やりたいことをさせてもらえる恵まれた環境で、不満は何もなかったのですが、何というか、それがちょっと怖くもあって。
――というと?
二野さん:自分が東京でサラリーマンをやっている間に、父が50代で独立し地元で奮闘している姿を傍目で見ていて、30歳になったのを機に自分も、もっとリスクを背負って、限られた条件下で困難にチャレンジしたいと思うようになったんです。もともとそういう性格というのも大きかったのですが、うまくいっているときこそ、どこか落ち着かないんですよ。なので、会社には自分を育ててもらった恩義もあり、申し訳なかったのですが、帰郷して新たな挑戦に身を投じることに決めたんです。父から頼まれたわけではなく、あくまで自発的な決断でした。
――では本題に。二野さんは前職での経験も活かしつつ、新たな取り組みに着手しつつあると伺いましたが?
二野さん:最優先課題といえる人材の確保について、短期的な取り組みだけでなく、より中・長期的な視野に立って持続的に取り組んでいこうと考えているんです。まだ動き出したばかりで、具体的な成果が出ているわけではないのですが、会社も業界も地域も幸せになるような青写真を描いています。生産年齢人口の減少という分母自体が減少の一途を辿っている中、働き手の確保は人口流出の激しい地方ではとりわけ悠長に構えていられない切迫した問題です。一方で、人手が足りないからといって短期的に穴を埋めるだけの採用をしていても、そのうち限界が来るのは目に見えています。建設業は自然を相手にした技術職であり、いくらICT化が進んだとしても、最終的にはまだまだ人の経験がものをいう仕事です。その場限りでなく、継続的な人材の確保は至上命題といえます。
――ほうほう。具体的には?
二野さん:大きく2つの角度から取り組んでいこうと考えています。まず1つ目は、「業界のイメージ変革」です。先ほども少し触れましたが、私も別業界から入って実感したことですが、建設業はその実務内容と周囲のイメージとの乖離があまりにも大きいと思っています。実際に行っている「中身」を見てもらっていないのではないかと。これは建設業に従事する者にとってとても無念なことだと思いますし、このイメージを変えていくことが継続的な採用の強固な土台になると考えています。会社として具体的には、SNSを活用した情報発信に積極的に取り組んでいます。
――なるほど。では2つ目は?
二野さん:私が打ち出しているのは、「地方創生からの人財創造」です。特に着目しているのは、自分がそうだったように、U・I・Jターンの人材です。最近よく耳にするようにもなりましたが、コロナ禍、またICTの進展もあり、地方への移住をけっこう真剣に考えている都市生活者は意外と多いと思っています。ただこれについては行政や地域の他業種の方々と協力していかなければできないことなので、現在各方面へ働きかけをさせてもらっているところです。具体的なイメージとしては、地域で増えつつある空き家・空き地や遊休施設を活用し、行政を含め様々な分野で地域が連携して移住者の生活をトータルサポートできるような取組みなどを考えています。もちろん我々も建設業としていろんな貢献ができますし、雇用の受け皿のひとつとしても機能できます。結果として生産人口の増加に繋がれば……。またそれを進めていく手法についても、時代に応じて、DX(デジタルトランスフォーメーション)やそれに付随するテクノロジー、ソリューションの活用も積極的に行っていきたいです。
――ただ、全国の地方が今まさにそういった呼び込みを加速させていて、ライバルも多いでしょうね。
二野さん:そうなんですよね。でも、地方では特にあらゆる問題の根本原因となっている「人不足」を解消するために、これはどうしても避けて通れないと思います。行政も補助金の拡充や規制の緩和などでがんばってくれていますが、我々は民間としてそれ以上のプラスアルファを提供・発信し、地域全体で取り組んでいかなければならないことだと思っています。先ほども述べましたが、自分は難しい状況の方が燃えるんですよ(笑)。まだ着手したばかりですが、どうにかして人も会社も地域も幸せになる仕組みを実現していきたいと思っています。
――前向きですね。本日はありがとうございました!
二野さん:こちらこそありがとうございます。最後にひとついいですか? 私はかの田中角栄さんが仰ったという「土方、土方というが、土方はいちばんでかい芸術家だ。土方は地球の彫刻家だ」(早野透『田中角栄』)という言葉が好きです。この仕事は、それくらいダイナミックで誇りを持てる仕事であると思っています。それをより多くの人に理解してもらえれば最高です。
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