先日ご紹介した、新潟で活動するインド音楽グループ「でぃがでぃなエチゴ」。そのメンバーの福井智弘さんの奥さん、福井智美さんもインドの芸術文化に魅了されたひとりです。10年以上前に東インドの古典舞踊「オディッシーダンス」と出会ってから、東京や本場インドで踊りを習い、県内のイベントなどでパフォーマンスを続けてきました。今回は福井さんが思うオディッシーの魅力や、今後の目標について聞いてきました。
オディッシーダンサー
福井 智美 Tomomi Fukui
1986年新潟市西区生まれ。通っていたヨガ教室をきっかけにオディッシーと出会い、2012年より習いはじめる。2015年にインドのオディッシャ州を訪れ、経験を重ねる。近年はイベント「ナマステえんがわ」やインド料理店「ナタラジャ」でのディナーライブなどを主催。結婚を機に三条市の「徳誓寺」に入り、お寺の仕事にも携わっている。
――そもそもオディッシーって、どういうルーツを持つ踊りなんでしょうか。
福井さん:うちにも飾っているんですけど、「ジャガンナート神」という土着の神様がいて。インド東部のオディッシャ州に住む方々が、この神様を寺院の中で祀って、歌や踊りを奉納していたんです。
――形も模様もかわいらしい神様ですね。
福井さん:神様の前で踊る制度はもう廃止されたんですけど、芸術性の高い踊りですし、ヒンドゥー教の方たちは神様に対する気持ちがすごく強いので、その気持ちとして継承された踊りが起源になっています。現地では今も踊られていて、毎年フェスティバルがあったり、バレエみたいな感覚で子どもに習わせたりしているそうです。
――踊りには型のようなものがあるんでしょうか。
福井さん:身体をしなやかに折り曲げる「トリバンギ」と力強く男性的な「チョウコ」という、ふたつの対照的なポーズがあります。これを基本に、いろいろな動きに派生して踊っています。
――踊りを見ていると、表情がコロコロ変わって面白いです。もしかして曲にストーリーがあるんですか?
福井さん:そうなんです。今踊っていたのは「ヌリッティヤ」というなかの感情表現を表す「アビナヤ」というジャンルで、物語のテーマや登場人物を身振り手振りで表現します。もうひとつ「ヌリッタ 」という、足のステップやリズムを純粋に楽しむジャンルがあります。「純粋舞踊」とも言われていますね。
――身振り手振りを使って登場人物を表現するって、例えばどうやって?
福井さん:「ムドラ」というんですけど、小箱とか神様とか、そのものを表すときの手の形が決まっているんです。基本はひとりで踊るものなので、象徴的なものに対してはムドラを用いて表現します。
――ライブのときの写真を拝見しましたが、衣装やメイクもインドらしい華やかさがあって素敵ですよね。
福井さん:メイクで2時間くらいかかっちゃうんですけどね(笑)。頭の上にはインドのお寺の象徴を乗せて、サリーを着て、その上にオーナメントをつけて、足にグングルという連なった鈴をつけて踊ります。インドにはオディッシャ州以外の地域にも古典舞踊があって、そこではまったく違う格好をするんです。
――では改めて、福井さんとオディッシーとの出会いを教えてください。
福井さん:もともとヨガをやっていて、ヨガ教室のイベントにオディッシーを踊る方が来られたんです。ちょうどヨガのつながりでインド哲学を勉強しはじめていたのと、昔から踊りを見ると衝撃的に受け取ってしまうものがあって、そのときも「なんだこれは」と感動して泣いてしまって。
――よほど胸を打つものがあったんですね。
福井さん:その後、オディッシーを踊る方が国内外から新潟にたくさんいらっしゃった年があって、「面白そうだな」と思ってワークショップに参加しました。それからしばらくは「どうしたらオディッシーができるんだろう」と考えて各地を点々としていていて。私の人生の師匠みたいな先生がいらっしゃるんですけど、その方から踊りを教わるために当時住んでいた那須から東京に移り住んで、ちょっとずつ演目を覚えていきました。
――じゃあずっと東京で踊りを学ばれていたんですね。
福井さん:ところが当時は介護の仕事をしていたので夜勤もあって、忙しくなりすぎて体調を崩してしまったんです。それで新潟に戻ってきて、それからは新潟から東京に通いながら習っていました。オディッシーをはじめて10年以上経ちますね。
――それほど一生懸命に学びたくなるオディッシーの魅力って、どういうところなんでしょうか。
福井さん:私は言葉で語ることが得意じゃなくって。だけどオディッシーを見たときに、バーンって、感覚的に伝わってくるものがあったんです。面白い動きをするので終わった後はすっごく疲れるんですけど、「全部使い切ったな」って感覚になるところも魅力ですね。
――踊りを見ていても、すごくエネルギーを感じます。
福井さん:あと、踊りを習いはじめて何年かしてから、先生と一緒にインドに行かせてもらったんです。オディッシーはオディッシャの方たちの文化から発した踊りなので、現地に行ったことで「神様を大事にする気持ちがすごく深いから、その気持ちが自然と『踊り』というかたちになったんだな」と思いました。そういう部分にも惹かれているのかもしれません。
――オディッシーを続ける上で、今後の目標はありますか?
福井さん:表現を磨いていきたいです。身体の使い方とか、演劇のような要素も多いので、そういったところもできる範囲で勉強していきたいですね。オディッシーに長く関わってはいるけど、あちらの文化なのでまだまだわからないことがたくさんあるんです。「こういう意味でこういう動きになっているのか」みたいなところも、ちょっとずつ知っていきたいです。
――まだまだ奥が深い世界なんですね。
福井さん:それから、結婚して今はお寺の仕事もときどき手伝っているんですけど、仕事を通して亡くなられた方たちに想いを馳せる瞬間に立ち会うことが増えました。その中で自分の想いを無視することなく生きることの大切さをより感じて「『生きているな』って思えることをしっかりやり遂げて死にたいな」って気持ちが出てきたんです。踊っている瞬間は特に喜びを感じられるので、自分なりに大事にしていきたいですね。
福井智美