バイクといえば、ヤンキー漫画に必ず登場したり、海外のモータースポーツとして猛スピードで滑走したり、そんなイメージが強いと思います。バイクが好きな人って、もうとことんバイクが好きですよね。でもバイク好きでなくてもこのワードは一度は耳にしたことがあるはず。アメリカンバイク「ハーレーダビッドソン」。今回は、バイクの魅力、いえ、Harley-Davidson(ハーレーダビッドソン)の魅力について、ハーレー歴17年、新発田市にあるバイクショップ「Overload Machinery(オーバーロードマシナリー)」のオーナーを務める齋藤さんにいろいろとお聞きしてきました。
Overload Machinery
齋藤 剛 Takeshi Saito
1982年新発田市生まれ。幼少期を東京で過ごし再び故郷・新発田へ。高校卒業後、仙台の自動車整備関係の専門学校に入学。自動車車体整備士、中古車査定士など多くの資格を有し、バイクの整備からカスタムまで幅広く対応。
大きな車体に、独特のエンジン音。「Harley-Davidson」(以下:ハーレー)の誕生は、アメリカ・ウィスコンシン州ミルウォーキー、1903年のこと。ウィリアム・S・ハーレーとアーサー・ダビッドソンらが、トマトの空き缶を駆使したキャブレターなどのパーツから、自転車専用バイクエンジンの開発を行ったことがすべてのはじまりでした。その一台こそ、ハーレーダビッドソン第1号(単気筒エンジン、排気量409㏄、3馬力)。とても手作り感が溢れる初号でした。ハーレーの歴史はこのバイクからはじまります。そして1907年にダビットソン家の兄弟たちが加わり、4人の若者たちが創業したモーターサイクルカンパニーが「Harley-Davidson, Inc.」です。長い歴史の中、一時は経営難で幕を降ろしたこともありましたが、復活。アメリカをはじめ世界で名高いモーターサイクルメーカーとして成長しました。
100年以上の歴史で、多くのバイク乗りを魅了してきたハーレー。多くの熱狂的なファンを虜にしてきたのは、最先端の技術だけではなく、大迫力の車体、そしてなにより改良が重ねられてきたエンジンです。キーを回した瞬間に鳴り響くその音は、ドコドコとドッシリ腹底に響き渡るサウンド。実際にハーレーの鼓動を体感してしまうと、一瞬で魅了されてしまうのだとか。他の大型バイクでは感じられない躍動感に、いつか自分も乗りたいと憧れを抱くバイカーも多いそうです。
――齋藤さんは、幼い時からバイクが好きだったのですか?
齋藤さん:高校時代に進路を決めるじゃないですか? その時点ではバイクに興味はなかったですね。テレビ番組「TVチャンピオン」って、あったの覚えてます? 昔からガンダムをはじめ、ロボットが好きだったんです。たまたまプラモデルのチャンピオンを決める回を観て、プロモデラーになりたいって思っていましたね。
――「TVチャンピオン」って、今でも大食い競争とかやっている番組ですよね。
齋藤さん:そうそう。車の板金で使うパテっていう材料があるんだけど、当時は一から削り出してガンダムを作ったり、それを塗ったりしていました。バイクに触れたキッカケは…80年代に流行った、なんちゃってアメリカンみたいな50㏄の小さなバイクを親父が持っていて。遊びでタンクを塗ってみたんです。そこで初めてバイクとカスタムに興味を持ちはじめたかな。17歳の冬だったような。
――バイクのタンクから、齋藤さんはスタートしたんですね。進路はバイク関係へ?
齋藤さん:仙台の専門学校に「Harley-Davidson Japan」が提携しているハーレー学科があって、その科に入りたかったんだけど、社会人の志願者もいるほど人気だし、ディーラーの推薦状とかも必要で。でも、その専門学校の他の学科で自動車整備を2年、板金・車体修理も1年、計3年間いろいろと車整備の基礎について学びました。
――結果的に、専門学校では車を専門に学んだんですね。
齋藤さん:そうなりますね。でも、いろいろ経験しての考えですが、車、バイクとジャンルが分かれていても大きい見方をすると同じ「機械」なんですよね。どちらもエンジンがあって車体がある。通ずるものは少なからずありました。それに、専門学校に通っていた19歳の時、はじめてハーレーを手に入れたので、夜な夜な触っては自分なりに勉強していましたね。
――専門学校卒業後は、車の整備をされていたのですか?
齋藤さん:いえ、スタートは群馬にあるハーレーとアメ車の両方を扱うショップでした。だた、3ヶ月で辞めてしまいました(笑)。
――早いですね(笑)。どうしてですか?
齋藤さん:単純に自分のモチベーションの問題ですね。専門学校で車の整備というものを学びながら愛車も触っていたので、現場レベルのノウハウは知らぬ間に身に付いていたようです。当時の感覚を振り返ると、更なるスキルアップを激しく求めてた結果…という感じでしたね(笑)。
――向上心に突き動かされているような感じだったんですね。
齋藤さん:専門学校時代から、ハーレーについての情報収集もしていましたから。マイナーなパーツは海外からの取り寄せになるんですけど、当時はインターネットは普及してなくて、カタログを読み漁って型番からオーダーしていました。千葉にある通販専門のパーツ屋さんには頻繁にお世話になってました。そのうち「仙台の齋藤ですけど…」で通じてしまうようになって(笑)。
――変わったお客さんは覚えられてしまう宿命ですね(笑)。
齋藤さん:そうなんですよね(笑)。たまに近況報告みたいな会話もしていて、ある時そのパーツ屋さんの社長から飲みに誘われて…いろいろとお話をうかがった結果、拠点を千葉へと移したわけです。
――一緒に働くことになったんですね。
齋藤さん:自分でも驚きの展開でしたね(笑)。近いうちに整備も含めた実店舗をやりたいから力を借りたい、そんな話をもらって。しかし、当時は通販事業が急成長中で、残念ながら開店には時間が掛かりそうで。そうなるともうハーレーに触りたい、スキルアップしたいという欲求が抑えられなくて…。
――あくまで予定段階だったんですね。
齋藤さん:実は専門学校時代から乗っていたハーレーって、千葉で購入したんですよ。そしたら同じ県ってこともあり、たまたまその自分がハーレーを買ったショップの社長がパーツを買いに来たんです。あ!って思って声をかけて。「あのハーレー、まだ乗っているの?」なんて話題から、いろいろ今までの経過とか経緯を話したんです。もちろん、更にスキルアップしたい欲求についても。そしたら、ちょっと遊びにおいでよって誘ってもらって、店のバイクを見せてもらったんです。そもそもハーレーって、ディーラーではノーマル状態で販売されていますが、それ以外のショップではカスタムしたものがほとんどなんです。そんなバイクを見せられたら…「やっぱりこういうことがしたいんだ!」ってなりますよね。
――ハーレーってカスタムしてあるものが多いんですね。すみません…全然知識がないもので…。
齋藤さん:いえいえ、ハーレーに詳しくなければわからないですよ(笑)。まぁそんなこんなで、ようやくバイクを本格的にいじれる仕事に就いたんです。このショップ以外でも修業させてもらって経験を積んだことと、以前からずっと自分の店を持ちたかったこともあり、「Overload Machinery」を28歳で立ち上げました。
――新潟でお店を開くのであれば市内とか、あえて新発田でなくてもよかったんじゃ…?
齋藤さん:自分が生まれ育った場所が新発田ってことが大きいですね。地元では名の通っていた、アメリカンなアパレルを取り扱っている「New Deal(ニューディール)」のオーナーさんなど、経験豊富なハーレー乗りに相談もしました。
――どうだったんですか?
齋藤さん:近所にショップが無いから、止む無く新潟市まで出向いていたそうです。車って新車をどこのディーラーで買っても、近所で整備工場を探せますよね。でもバイクはショップが少なくて、特にハーレーは独特な構造も多いから、作業に専門的知識が求められます。
――へえ、どこでも対応してくれるというわけではないんですね。
齋藤さん:各ショップの持ち味も様々なので「新車はちょっと…」という場合もあります。それに、初心者の方は「カスタムしてないと相手にしてもらえないかも…」という不安から、ディーラーでは対応が難しい要望をショップにも依頼できないで、板挟みだったという方も大勢いました。どんな趣味でもはじめたての頃は、専門店へ一歩踏み出すのは勇気がいると思うんですよ。だから、初心者でも気負わずに行ける店が新発田にあったら、きっと需要はあるなって。
――ハーレーに乗りたくても、いろいろとあるんですね。「Overload Machinery」とは、どんなバイクショップですか?
齋藤さん:ハーレーに乗ってみたいけど年式も種類も多くて選び方がわからない、初心者だけど思い切りカスタムしてみたい、古いモデルに乗り換えたいけど故障が不安で維持できるか心配。誰もが一度は経験する悩みを気軽に相談できるショップです。ハーレーが好きだから、もっと楽しくハーレーについて知ってもらいたい。そして、ハーレー歴や車種、スタイルの違いを越えて、そこに集まった「人間同士」が楽しめる場になればなによりですね。
――最後に、斎藤齋藤さんにとってハーレーの魅力とは何ですか?
「一生飽きさせない、一生遊べる」ってことかな。カスタムすればどこまでもカタチを変えられるし、修理すれば古いエンジンでも生かし続けられる。その「特別な1台」をオーナーと一緒に作り上げる過程も、独自の進化を遂げた機械としてもハーレーが好きなんです。
齋藤さんはハーレーの楽しさを「エンジンと排気音」だと教えてくれました。エンジンの造形には惚れ惚れするそうで、表面の削り出しなど、とてもマニアックな通のポイントを嬉しそうに語ってくれたのはとても印象的でした。まるで子どもが大好きなプラモデルを語るかのように。取材の後、実際に斎藤さんの愛車にまたがってエンジンの鼓動と音を体感させてもらいました。男心をくすぐられ過ぎて…。初めてまたがったバイクがハーレー。贅沢というか、罪というか。これは魅了される気持ちがわかります。そんな初体験。ドキドキしながら帰路についたのでした。ちなみに独特の排気音は、エンジンの年式によって異なるそうですよ。
Overload Machinery
新潟県新発田市中田町3-1299
0254-20-8069