佐渡で創業し、2014年に新潟市西区に店舗を構えた「全粒粉パン ポッポのパン」。天然酵母と厳選された素材で作られるパンは、身体に優しくて健康によいと全国にファンがいるのだそう。今回は店主の小林さんにパン作りのこだわりやこれまでのことなど、いろいろとお話を聞いてきました。
ポッポのパン
小林 辰美 Tatsumi Kobayashi
1953年新潟市生まれ。東京で出版の仕事を経験した後、1992年に家族で佐渡に移住。1996年に佐渡で「全粒粉パン ポッポのパン」を創業。2014年、新潟市西区に店舗を構える。
——まずは小林さんのこれまでのことを教えてください。
小林さん:東京で出版の仕事をしていたんですが、地元の新潟市に近くて自然が豊かな場所で子どもたちを育てたいと思い、佐渡へ移住しました。最初は家内がパンを作っていて、私は建物や窯を作ったり、事務仕事をしたりしていましたね。次第に家内と一緒に生産も担うようになりました。
——パン屋さんをやるつもりで佐渡へ移住されたんですか?
小林さん:移り住んだ時点ではパン屋になろうとは考えていませんでした。でも住んでいたところがけっこうな田舎でしたので、その場所でも自分たちが生活できる仕事を作りたいと思ったんですね。ご近所さんにパンを配達して、お小遣い稼ぎくらいにしかならなかったのが、スーパーさんに声をかけてもらってお店に卸すようになって。もう少し事業を大きくしようと、16、17年前に通販サイトをはじめたんです。
——「ポッポのパン」ではどんなパンを作っているんでしょう?
小林さん:イーストは使わず、すべて天然酵母で作っています。だから「健康になれるパン」とうたっています。インターネット経由ではほとんどのオーダーが全粒粉のパンとライ麦のパンです。
——他の材料にはどんなものを選んでいるのでしょうか。
小林さん:低農薬の小麦を岩手と北海道から仕入れて使っています。塩は天日干しのものです。
——天然酵母だと作るのが大変だと聞いたことがあります。
小林さん:温度管理が難しくて、発酵しすぎることがときどきありました。はじめたばかりの頃からマニュアルを作って試行錯誤していたんですけど、その日の湿度や使う粉の成分も仕上がりに影響するから大変でしたね。ほとんどのパン屋さんが同じような経験をされているでしょうけど、書籍に書かれたやり方だけではわからない世界だと痛感しました。でももう27年もやっているので、私たちにとっては天然酵母で作るパンが当たり前になっています。
——そうまでして、身体によいパンにこだわったのはどうしてですか?
小林さん:私は、イーストや添加物が入ったパンを食べると体調が悪くなってしまう体質なんです。全粒粉のパンは昔からありましたけど、食べにくいしあまり美味しくなくてね。だけど家内はそれを美味しく作ってくれました。健康のことを考えなくても、家内が作るパンは絶品だったんです。
——もとは奥さまの特技がパン作りだったわけですね。それが事業として大きくなっていったと。
小林さん:そういうことになりますね(笑)。通販をはじめて、私以外にも身体に負担の少ないパンを求めている方が全国にたくさんいらっしゃるということがよく分かりました。だからそういうパンでなければ作る意味がないと思っています。
——16、17年前から通販をはじめたということですが、その頃に食品をネットで販売するって珍しかったのではないですか?
小林さん:佐渡にいた頃に住んでいたところは、集落全体で家が10軒あるかないかというのんびりした場所でした。本音では、もう少し販売量を増やしたかった。それに当時、健康への取り組みを積極的にしている方々とご一緒していて。その方たちは全国にいたので、「ネットからパンを注文できるようにして欲しい」とリクエストされたんです。そこで最初は簡単なメールフォームを作ったんじゃなかったかな。
——通販をはじめた頃の反響はどうだったんですか?
小林さん:ベーグルが流行っていたので販売品目に全粒粉のベーグルを加えたら、そればかり注文がきてね。それで「身体によいパンが求められているのだ」と思いました。最初から意識的に天然酵母の全粒粉パンで商売をしようと考えていたわけではないのですが、必要とされている方が大勢いると気づかされたんです。今でもほとんどの方が全粒粉のパンを購入されます。
——店舗を設けられたのは2014年に西区に来られてからですか?
小林さん:そうですね。佐渡では店舗販売はしていませんでしたので。正直「新潟市でやっていけるだろうか」と不安はありました。でも「ポッポのパン」を知ってくださっている方がたくさんいらして、営業をはじめてすぐにその心配は吹き飛びました。
——昔からネットでパンを買っていた常連さんが来店することもあるのでは?
小林さん:ときどき遠くから来られる方もいますね。実店舗では、通販で人気の全粒粉パンやグルテンフリーのライ麦パン以外でも「美味しい」というお声をいただけて嬉しいですよ。
——お話を聞いていると、拠点を佐渡に移されたり、小林さんが奥さまのパンで健康に気づかれたり、いろいろな要素があって「ポッポのパン」が今のようになっているんだな、としみじみ思いました。
小林さん:そう言われると確かにそうですね(笑)。私にとって、パンといえば自分の家のパンしかありません。そんな思いとお客さまの支えがあって、これまで続けてこられたんだと思います。自慢話みたいになっちゃうけど「ここのパンしか食べられない」というお声をよくいただくんですよ。
——ファンが大勢いるんですね。
小林さん:こんなに長くパン屋を続けることになるなんて想像していませんでしたね。いちばん予想外だったのは子どもたちと一緒に「ポッポのパン」をやっていること。佐渡店では次男が頑張ってくれていますし、西区の店舗では長男と娘も一緒に働いています。たいそうなことですよ。
——さて最後にこれからの展望について教えてください。
小林さん:そうですね……。じゃあ、それは娘の広葉から答えてもらおうかな。
広葉さん:次の世代に「ポッポのパン」を受け継いで欲しいという気持ちをひしひしと感じているので、では私から(笑)。2年前に一緒に働きはじめてから「両親はこんなにすごいことをしていたんだ」って思いがどんどん強くなっています。根本に優しさと正直さがある両親だから、「ポッポのパン」が作れているのだと思います。これからも全国の皆さんに「ポッポのパン」をお届けできるように、次は私たちが頑張る。それが目標です。
全粒粉パン ポッポのパン
新潟市西区五十嵐一の町6991-5
025-378-3717