いつ行っても混んでいる人気店ってありますよね。新潟市東区にある「らーめん滋魂(じこん)」もそのひとつ。岩のりと背脂醤油スープのバランスが絶妙な「岩のり中華」をはじめ、それぞれのラーメンが個性的で、お昼どきは開店前から行列ができる人気店です。そんな「らーめん滋魂」店主の安東さんを訪ねて、休憩のわずかな時間に取材をさせていただきました。
らーめん 滋魂
安東 滋 Shigeru Ando
1966年新潟市中央区生まれ。大阪の運送会社で2年働いた後に新潟へ戻る。中華料理店や「らーめん潤」での修業を経て、2010年に新潟市東区で「らーめん滋魂」をオープン。趣味はライフル射撃。
——今日はよろしくお願いします。安東さんって、こういう取材を受けないタイプなんじゃないかって勝手にイメージしていたんですけど、とっても気さくな方で安心しました(笑)
安東さん:えーっ、俺そんなに気難しくないよ(笑)。目立ちたい方でもないけど、取材を頼まれれば引き受けるよ。
——それを聞いて安心しました(笑)。ところで「らーめん滋魂」って、オープンしてからどのくらい経つんですか?
安東さん:来年の1月で15年目に突入するんだよ。なんとかやってきたなぁって感じだね。
——ちょうど節目の年を迎えるわけですね。このお店をはじめる以前も、安東さんはずっと飲食店で働いてこられたんですか?
安東さん:大阪で親戚が経営している運送会社に勤めていたんだけど、いろいろあって新潟へ帰ってきたんだよ。それからは高校時代にアルバイトしていた中華料理店で働くことになって、そのとき料理の面白さを知ったんだよね。
——料理の仕事はどんなところが面白いと感じました?
安東さん:どんなところっていうか……自分に合ってたんだろうね。中華料理店には14年勤めたんだけど閉店することになっちゃって、ふらふらしていたところに「らーめん潤」の松本社長から連絡をもらったんだよ。「店舗を増やしてもっと会社を大きくしたいので、よかったらその手伝いをしてもらえないか」って誘ってくれてね。
——へぇ〜、それはいいお話じゃないですか。ちなみに松本社長とは、どんなお知り合いだったんですか?
安東さん:以前出店したイベントを通して知り合ったんだよ。ただ、せっかくのお誘いだったんだけど、そのときはお断りしたんだよね。
——えっ、どうして?
安東さん:もともと働いているお弟子さんがいらっしゃるのに、後から入った俺なんかがいいポジションについちゃったら申し訳ないもんね。それで何度かお断りしたんだけど熱心に誘ってくれるので、条件付きでお世話になることにしたんだよ。
——それはどんな条件だったんですか?
安東さん:正社員じゃなくて契約社員として雇ってもらって、期待はずれだったり使えなかったりしたら、いつでも切ってもらうってことにしたんだ。その条件で雇ってもらって、最初は本部で事務仕事をやっていたんだよ。
——あれ? ラーメンを作っていたんじゃないんですね。
安東さん:最初は事務職だったんだけど、本店で調理スタッフが足りなくなっちゃって、俺が応援で入ることになったの。でも結局、それからずっと調理の仕事を続けていたね(笑)
——独立することになったのは、どうしてなんですか?
安東さん:松本社長は仕事のできる弟子をどんどん独立させる考えを持っているんだよ。それで俺も独立を勧められたんだ。その際に「らーめん潤」の名前を使ってもいいし、新しく違う名前ではじめてもいいって言われたから「らーめん滋魂」って店名でオープンすることにしたんだよ。「らーめん潤」の看板を借りず、自分の看板で勝負したかったんだよね。
——「滋魂」って店名には、どんな意味があるんですか?
安東さん:俺の名前は「滋(しげる)」っていうんだけど、滋が魂を込めて作るラーメンの店だから「滋魂」。
——なるほど。それじゃあ店名の下に入っている「JUNism」っていうのは?
安東さん:修業した「らーめん潤」の掲げる「一麺入魂」っていう魂を受け継いだ店っていう意味を込めて「JUNism」ってつけたんだ。
——お店をオープンしてみて、大変だったことがあったら教えてください。
安東さん:独立して自分のお店をはじめたものの、続けていけるのか不安しかなかったよ。自分では自信のあるラーメンを提供しているつもりでも、お客様に受け入れてもらえるかどうかはわからないからね。
——実際、お客さんの反応はいかがだったんでしょう?
安東さん:何かきっかけがあってドカーンと来客数が増えるわけじゃなくて、少しずつ少しずつ増えていった感じかな。気がつかないうちに増えていたから「なんか最近忙しくない?」っていうのを何度か繰り返してきたんだよ。最初は夫婦だけで営業していたんだけど、次第にアルバイトを頼むようになっていったんだよね。
——自然にお客さんが増えていったということは、クチコミで増えていったということですよね。
安東さん:ありがたいことだよね。どんなに頑張って作っても人それぞれ好みは違うから、口に合わなければ二回目は来てくれないんだよ。でも一生懸命作っている自信はあるから「ここまでやってダメだったら仕方ない」と思えるんだよね。
——どんなことを心がけて、ラーメンを作っているんでしょう?
安東さん:ラーメンの前では常に真摯にありたいと思っている。手を抜いたりごまかしたりしたらラーメンにそのまま表れちゃうし、それがお客様に伝わってしまうんだよ。
——なるほど。ところで、看板ラーメンの「岩のり中華」は「らーめん潤」から受け継いだ味なんですよね。
安東さん:そうなんだけど、気がついたことがあれば、そのつど自分なりにアレンジしてきたよ。岩のりの風味だけが浮いちゃわないように、負けないような濃厚スープを作ってバランスを取っているんだ。
——「超絶煮干しそば」も人気メニューですよね。あれはいつから提供しているんですか?
安東さん:創業してすぐに限定メニューとして出してみたんだよ。当時はガッツリ系やデカ盛りが流行り出した頃だったけど、俺はボリュームに頼らずシンプルを極めようと思って作ったんだ。本当はトッピングなしで麺とスープだけのラーメンにしたかったんだけど、それじゃあまりにも寂しいしお客様も損した気持ちになりそうだから、別皿で提供することにしたんだよ。好評だったからレギュラーメニューにしたんだよね。
——限定メニューから昇格したんですね。同じく人気の「甘海老そば」も限定ラーメンだったんでしょうか?
安東さん:そうそう。これは7〜8年前に作ったメニュー。海鮮系のラーメンを作ってみたくて、銀ダラとかカニとかいろいろ試してみたんだけどダメで、甘海老を使ったら美味しいスープができたんだ。甘海老といえば味噌汁のイメージがあったから、味噌と合わせてみたらめちゃめちゃ美味くて「これはすぐ食べてもらわなくちゃ」と思って、すぐメニューに加えたんだよね。
——そんなふうにメニューが増えていったんですね。
安東さん:ただ、メニューが増えると力が分散しちゃうから、できるだけ増やしたくないんだよね(笑)。だから夏場限定で「カレーラーメン」を提供しているんだけど、そのときは「甘海老そば」をお休みさせてもらうんだ。
——ずっと集中してラーメンを作ることって大変なんでしょうね。
安東さん:朝は眠いし夜は疲れるし、大変なことはいっぱいあるよ(笑)。でも楽しいから続けていられるんだよね。お客様から「美味しかった」って声かけてもらえたら、ラーメン屋やってて良かったと思うね。それだけじゃなくて、お客様が食べた後の丼を見て完食してくれていると嬉しいんだよ。「口に合ったみたいで良かった」って安心するし。
——来年15年目を迎えるにあたって、やってみようと思っていることがあったら教えてください。「らーめん潤」さんみたいに弟子を育ててみようとは思いませんか。
安東さん:「らーめん滋魂」は一代完結でいいな(笑)。俺がまだ30代だったら、店を大きくしたいとか店舗を増やしたいとか野心もあっただろうけど、なにしろ歳も歳だからねえ……(笑)。とにかくお客様に魂の込もった一杯を届けられるよう、1日でも長く「らーめん滋魂」を続けていきたいね。
らーめん滋魂
新潟市東区松崎1-1-2
025-272-9260
11:00-15:00/17:00-21:00
水曜休