国道290号線を新発田から関川に向かって走っていると、胎内のあたりで「蕎麦」と書かれたのぼり旗を目にします。そこから坂を登った高台にあるのが「手打ち蕎麦 さくら庵」です。自然に囲まれたのどかなロケーションのお店を訪ね、店長の前島さんからお話を聞いてきました。
手打ち蕎麦 さくら庵
前島 太陽 Taiyo Maejima
1999年新発田市生まれ。短大卒業後に工務店や運送会社を経て、2022年より父の営む「手打ち蕎麦 さくら庵」に就業し店長を務める。趣味はバイクとスノーボード。
——高台にあって眺めのいい場所ですね。これからの季節が楽しみです。
前島さん:外にある桜のつぼみが膨らみはじめたので、来週から再来週にかけて開花すると思います。しばらくして棚田に水が張られる頃になると、とても綺麗な景観を眺めることができるんですよ。ここからの眺めを気に入って、父はこの場所で蕎麦屋を開いたんです。
——高台にあるのに、さらに建物の二階が店舗になっているんですね。
前島さん:ここは大工さんの家だったらしくて、一階は倉庫になっているんです。雪がとても多い場所なので、二階に玄関をつくったんでしょうね。階段やテラスに雪が積もってしまうので、後から自分たちで屋根をつけたんですよ。
——自分たちでつけたんですか?
前島さん:そうなんです。僕は少しだけ大工として働いていた経験があるので、屋根をつけたり厨房の改修をしたりするのに役立ちました。
——以前は大工さんだったんですか。
前島さん:小学生の頃、通学路で家を建てている現場で、大工さんが屋根の上に登って作業しているのを見て、あまりのかっこ良さから憧れるようになったんです。それで高校と短大では建築を学んで、地元の工務店で大工として働いていました。
——それなのに、お父さんのお店を手伝うことになったのはどうしてなんでしょう?
前島さん:父が打った蕎麦を食べて感動したんです。実は中学生の頃に食べた蕎麦が口に合わなくて、それ以来蕎麦嫌いになってしまったんですよ。でもその僕が「自分でもこんな蕎麦を打ってみたい」と思うほど、父の蕎麦は美味しかったんです。
——そうだったんですね。お父さんはどうして「手打ち蕎麦 さくら庵」を開業したんですか?
前島さん:父も僕と同じくバイク好きで、よくあちこちにツーリングへ出掛けては好物の蕎麦を食べていました。特に山形で食べられる固めの蕎麦が好きだったんですけど、新潟では食べられるお店がなかったんです。それで利益は度外視して蕎麦屋をはじめることにしたんですよ。この物件はとても手入れが良くてわずかな改修で店舗に使えたことと、居間の落ち着いた雰囲気が気に入ったことで選んだそうです。
——お店はお父さんとふたりで営業しているんですか?
前島さん:父は会社勤めをしているので、休日の土曜と日曜だけ店をやっているんです。僕は平日の月曜と火曜に店を預かっています。
——なるほど。それぞれ別な日に営業しているんですね。
前島さん:そうなんです。平日は僕ひとりでワンオペをしているので大変なんですよ(笑)。特にまだ蕎麦打ちもままならなかった頃は、蕎麦打ちや料理の勉強をしながら営業していたこともあって、ネット上の口コミ評価も低かったんです。それが悔しくて今まで腕を磨いてきました。おかげで今は蕎麦だけではなく、天ぷらやつけ汁をつくる腕も上がりました。
——こちらのお店では、どんなこだわりのお蕎麦が食べられるんでしょうか?
前島さん:いちばんこだわっているのは蕎麦粉ですね。数々の賞を獲得している群馬県の赤城山麓で栽培されている蕎麦で、こちらの生産者は25年以上も東京で蕎麦屋を営んできた方なんです。「いくら腕が良くても、蕎麦粉が良くなければ美味しい蕎麦を打つことはできない」という思いから自分で蕎麦の栽培をはじめた方なので、こだわり抜かれた良質な蕎麦粉なんですよ。県内では当店だけが使わせてもらっています。
——それはすごい。では、蕎麦打ちで気をつけていることはあるんですか?
前島さん:やはり蕎麦粉と水を混ぜ合わせる「水回し」は、ひと粒ひと粒にしっかりと水が回るよう気を使っています。でも気温や湿度の違いで状態が変わってくるので難しいですね。冬はつながりにくいし夏は伸びやすいので、水の量や茹で時間を調節しながらつくります。
——食感を左右する大事な作業なんでしょうね。お蕎麦以外でおすすめしたいメニューがあったら教えてください。
前島さん:「天丼」は食べてみてほしいですね。試作に1年もかかってしまったので、開店からかなり遅れてメニューに加わったんですよ。数グラムでもまったく違ったものになるので配合に苦労しましたが、そのおかげで他とは違ったさらっとしたつゆの「天丼」になりました。あと、蕎麦の風味が感じられる「そばプリン」もおすすめです。
——どちらも気になりますねー。
前島さん:蕎麦や料理はもちろん、のどかなロケーションも味わっていただきたいですね。落ち着いた雰囲気の客間とか、日差しや風が気持ちいいテラスとか。ワンちゃん連れのお客様には一階にお席をご用意します。ここへ来るまでも、道中の景色を楽しんでいただけると思います。
——ドライブのついでに立ち寄るお客さんも多いんじゃないでしょうか?
前島さん:そうですね。その他に、バイクでツーリングしている途中に寄ってくださる人も多いんです。僕も父もバイクが好きなので、SNSのフォロワーさんにもライダーが多いんですよ(笑)。県外から来る人も多くて、先日は北海道から来てくれた人もいました。本当にありがたいですね。
——ドライブやツーリングのついでに立ち寄るには、ぴったりのお店ですもんね。最後に何かお知らせしたいことはありますか?
前島さん:今は強力粉をつなぎにコシを出した二八蕎麦を提供しているんですが、今後は十割蕎麦の提供も予定していますので、楽しみにしていただきたいですね。
手打ち蕎麦 さくら庵
胎内市下荒沢字不動林1075-41
080-8050-5533
11:00-13:30(土日曜は11:00-14:00)
水木金曜休