誰かに使ってもらえる和紙を作る。
栃尾にある「サトウ工房」の佐藤さん
その他
2026.03.30
栃尾で和紙を作っている「サトウ工房」。ここで日々、紙を漉いている佐藤さんは、以前、農業に携わっていたのだとか。今回は和紙づくりをはじめたきっかけや、和紙に対する考え方など、佐藤さんにいろいろお話を聞いてきました。取材に伺ったのは3月上旬。「サトウ工房」の周りはまだ雪がたくさん残っていて、紙を漉くときの水の音がよく聞こえてきました。
佐藤 徹哉
Tetsuya Sato(サトウ工房)
1967年長岡市出身。大学で農業を学んだ後、2年間アフリカで生活する。帰国後は十日町市で農業に携わり、和紙を作る工房で働きはじめる。その後、自身の工房である「サトウ工房」を立ち上げる。ぼーっとするのが好き。
農業から、和紙へ。
はじめてみて感じた、和紙作りの楽しさ。
――さっそくですが、佐藤さんはこれまで、どんなことをされてきたのでしょう。
佐藤さん:大学では農学部に進学して、農業のことを学んでいました。農業に関わっている友達が多くて、「農業っていいな」ってなんとなく思っていたんです。卒業後は2年間、アフリカでボランティアをしていました。
――日本に戻ってきたあとは、十日町市でお米作りをはじめたそうですね。
佐藤さん:農業をやりたいとは思っていたんですが、経験は全然なかったんです。だから、「農業をやるんだ」と意気込みながらも、実際やってみると全然身体が動かなくて(笑)。お米を作っていたんですけど、それだけでは全然食べていけなくて、土建屋さんでアルバイトをしながら農業を続けていました。
――佐藤さんが想像していた農業と、実際の農業にはギャップがあったんですね。
佐藤さん:やってみてから、自分は田んぼの風景が好きだけど、そのときの自分にとっては米作りは荷が重かったって気づいたんです。生活もあったので平日はアルバイトをして、せっかくの土日も田んぼのことをしなきゃと思うと、気が重くなっちゃって。想像以上に自分が怠け者だったことを、このとき知りました。
――そんな佐藤さんが、どうして和紙を作ることに?
佐藤さん:アルバイトでやっていた、土建屋さんの仕事もすごく面白かったんですけど、ずっと続けられる仕事ではないなと思ったんです。だったら、他に面白くて続けられる仕事を探そうと思ったとき、和紙工房を見つけて。和紙が特別好きってわけじゃなかったんですけど、ダメ元で見学をお願いしたら、「スタッフ募集しています」 って言われて。それがきっかけで、その工房で働くことにしました。
――実際に和紙工房で働かれてみて、いかがでしたか?
佐藤さん:やってみたら、意外と面白かったんですよ。もちろん最初は難しかったんですけど、経験があまりなくても、そこそこの仕事ができるんです。例えば先輩が1日に200枚漉いて、不良が数枚しか出ないとして、自分は100枚漉いて、20枚不良が出る、みたいな感じで。手順通りにやれば、紙は作ることができたんです。それを繰り返していくと、自分が上達しているのが目に見えてきて、面白さを感じていましたね。働いている環境もすごく良かったんだと思います。
――それはどんな環境だったんでしょう。
佐藤さん:僕の他にも職人気質の先輩や、農村のおっちゃんやおばあちゃんがいたんですよ。先輩に負けないように、みたいな競争意識も芽生えたし、ときには冗談を言ったり、しゃべりながら作業ができる環境はとても楽しかったんです。きっと僕は、ひとりだと怠け者になっちゃうけど、周りに誰かがいると、頑張ろうって思えるタイプなんだなって(笑)


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これからを考えたときに大事にしたのは、
仕事そのものを、面白いと思うかどうか。
――工房に10年以上務めた後、ご自身の工房を立ち上げました。
佐藤さん:10年の間に生活環境がいろいろ変わったんです。それがきっかけで、これからのことを考えるようになって。ずっとここで働き続けるか、別のお仕事をはじめるか、実家がある長岡で何かをはじめるか……、って。でも、焼き芋屋さんになりたいとか、八百屋さんをやってみようとか、突拍子もないことばかり思いついちゃって(笑)
――夢が膨らみすぎましたね(笑)
佐藤さん:和紙は今まで働いてきたから仕事の内容も知っていたし、面白さを感じていました。いろんなことを考えて、独立して和紙を作ることを選びました。
――こちらで工房をはじめられたのが2013年だそうですね。
佐藤さん:あっという間でした。僕からしたら2、3年しか経ってないくらいの感覚です。工房をはじめたばかりの頃は失敗の連続でした。不良が出てしまったら収入にもならないし、お客さまにも応えられないし。10年くらい経ってやっと落ち着いたかな、という感じです。
――場所や道具など、変わった部分がたくさんあると思いますが、佐藤さんはどの変化がいちばん影響したと感じていますか?
佐藤さん:使う道具は多少関係があるのかもしれません。漉いた紙を貼り付けて乾燥させるためのステンレス製の板があるんですけど、使いはじめたときは紙を剥がそうとするとくっついて毛が立ってしまうんです。前の工房では何枚も貼り付けて剥がしていたから、板も馴染んで剥がしやすかったんです。新品の道具が良いというわけではないっていうのは、このときに知りました。
――中華鍋を育てる、みたいな感覚に似ていますね。ところで、佐藤さんのつくられている和紙は、楮(こうぞ)という木が使われています。
佐藤さん:楮は、他と比べると繊維が長くて丈夫なんです。これを使うと、丈夫な和紙ができるんですよ。楮よりも繊維の短い雁皮(がんび)から作られる和紙がシルクだとすると、楮でつくられる和紙はコットンみたいな感じですね。ご依頼いただく方の用途も様々で、版画や書に使うためやオブジェを作るためなど、いろいろあるんですよ。


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いい職人ではなくて、
いい業者になりたい。
――和紙づくりを20年以上されてきた佐藤さんですが、和紙づくりの面白さは、ズバリどんなところにあるのでしょう。
佐藤さん:その方の要望に応えるように和紙を作るのが面白いですね。もともと、絵とかデザインは興味があって、自分が漉いた紙を作品に使ってもらえることが嬉しいんです。僕は作品づくりに憧れているけど、自分で作品はつくれないので。でも、作家さんには「佐藤さんの和紙を使っています」ってわざわざ言ってもらわなくてもいいと思っているんです。
――といいますと?
佐藤さん:名前を出さないで、とまでは言わないんですが、和紙に対してあまりにもリスペクトされてしまうと、作家さんが自由に和紙を使ってくれないかもしれない、と思うんです。「この和紙が使われているから、いい作品だ」と思うのではなくて、「いいと思った作品に、この和紙が使われている」と思ってもらいたいんです。作品に使われている材料は二の次で、まずは作品自体を見てもらえたらなって。
――誰かの作品のために使われるための和紙でありたい、と。
佐藤さん:自分の紙が、すごくいい作品になるのを見ると、作家さんって魔法使いみたいだなって思うんです。僕は、魔法使いに使ってもらえるような杖を作りたくて。この魔法にしか使えない、みたいな杖ではなくて、魔法使いの人がそれぞれの使い方で使ってもらえるような杖を作っていきたいんです。
――和紙を道具として捉えているのがすごく伝わりました。
佐藤さん:僕はいい職人というか、いい業者でありたいんです。きちんと納期を守って、作家さんからのリクエストに応えられるような技術を持っている業者を目指したいですね。


サトウ工房
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