新潟市江南区にある居酒屋「彩の味 千の月(しきのあじ せんのつき)」。この店の店主は、和食一筋に料理人を続けてきて、割烹の料理長まで務めた人物。だからこのお店は和食の……と思いきや、和食はもちろんのこと、洋食、中華、果てはラーメンまで揃っているというノンジャンルのお店なんです。今回は店主の横山さんに、これまでのキャリアやお店のメニュー、こだわりについてのお話を聞いてきました。
彩の味 千の月
横山 雅章 Masaaki Yokoyama
1968年五泉市(旧村松町)生まれ。高校卒業とともに新潟市の割烹で料理の修行をし3年で副料理長となる。その後、新潟市西堀の高級料理店や阿賀野市の割烹の料理長を務め、2011年「彩の味 千の月」をオープン。研究熱心で、普段から料理メニューの開発に余念がない。
——横山さんは以前は割烹で料理長を務められたと聞きました。料理はいつから始められたんですか?
横山さん:実家が旅館をやってたっけ、高校生のときから家族の食事は俺が作ったったんさね。キャベツの千切りが得意で、よく褒められてたんて。それで料理人になろうと思って、高校を卒業してすぐ新潟市にあった割烹に丁稚奉公したんさ。入ったばっかりのときは給料6万円で、朝から夜遅くまで働かされる上に、店で寝泊まりしたったわね。
——かなりシビアな労働条件だったんですね。
横山さん:俺が丁稚奉公してた料亭は、業界でも厳しいことで有名な店だったっけね。後から知ったことだけど「その店で勤まればどこ行っても勤まる」って言われているほどの店で、実際、夜逃げする同僚とか先輩も多かったんさ。
——そんな厳しいお店で働いていて、横山さんは辞めようと思わなかったんですか?
横山さん:その店しか勤めたことがなかったっけ、それが当たり前だって思ってたんさね。どこもそんなもんだろうって思ってた。でも辞めないで続けたおかげで3年目には副料理長まで昇格して、料理長の仕事を任せてもらえるようにまでなったんさ。そんなに長く続いた人間がいないから、お店としては手放したくなかったみたいだけど、年季明けの5年をきっかけに退職して他の店で働くことにしたんて。
——3年で副料理長って早くないですか? やっぱり料理の才能があったんですね。それで次はどんなお店に行ったんですか?
横山さん:西堀にあった「超」がつくような高級日本料理の店。あの頃はバブル景気の真っ只中だったっけ、「誰が行くんだ?」みたいな高級店がいっぱいあったんさ。今じゃ考えらんないよね(笑)。俺もその頃は羽振りが良くて、オートロック付きの高級マンションに一人暮らししてたっけね。その店では3万もするような大きいノドグロを扱ったり、スッポンの捌き方を覚えたりしたね。
——確かに当時は高級店が多かったですよね。その店には長くいたんですか?
横山さん:4年くらいいたかな。その後は結婚して所帯持つことになったのもあって、紹介してもらった阿賀野市の割烹で料理長をやらせてもらうことになったんさ。結婚式とかになると100人分の料理を作るんだけど、1人で100人前の刺身を用意したりして具合が悪くなったて(笑)。そこは人が足りなくて、魚屋や八百屋の仕入れから、おしぼりの管理まで全部俺がひとりでやってたっけね。
——ご自分で店を始めることになったのはどうしてなんですか?
横山さん:マイホームを建てることになったんだけど、この土地が商用地で一般住宅が建てられなかったんさ。それで店舗に住居スペースをつけたかたちで建てて、そのうち自分で店でもやろうと思ってたんて。ところが、店舗ができたのに一向にオープンしないっけ、近所の人たちから「どうなってんだ?」って言われ続けてさ(笑)
——え、そんな理由? それで店をオープンすることになったんですか?
横山さん:2011年5月に「彩の味 千の月」をオープンして、半年くらいは阿賀野市の割烹と掛け持ちしながら営業してたんさ。ところがだんだん「千の月」が忙しくなってきたっけ、割烹を辞めさせてもらって「千の月」だけに絞ることにしたんて。
——お品書きを見ると、ものすごく品数が多いですよね。おまけにジャンルも和洋中いろいろあるし。
横山さん:最初は5,000円のおまかせ料理と飲み放題のコースだけやろうと思ってたんさ。でもあんまりニーズがなかったんだよね。それでお客さんのニーズに応えていったら、どんどんメニューが増えていったんて(笑)。フランス料理以外はほとんど作ったんじゃないかな。
——ラーメンのメニューも……これ、普通のラーメン店並みに品数が多いですよね(笑)
横山さん:ラーメンは10種類、冷やし中華だけでも5種類あるっけね(笑)。料理長時代には自分の脇にあるストーブで寸胴をあっためて、ラーメンのスープ作ったりしてしてたんさ。種類が多いのは研究の賜物で、どんどん増えていってしまうんて。あんまり種類が多すぎてお品書きに載っていない白湯系のラーメンもあるよ。
——(笑)。お品書きの「予約料理」にはジビエっぽい料理までありますけど……。
横山さん:奥さんのお父さんが猟をやってるっけね。捕ってきてもらった野鴨とか鮭とかを使って料理したり、スッポン鍋を作ったりしてるんさ。普段なかなか食べることができない料理もいろいろやってるんて。
——自分でお店を始めてよかったって思うことはありますか?
横山さん:今までは裏方として料理を作ってきたけど、お店をやってみていろんな人と知り合えたり、コミュニケーションを取れるようになったのはよかったね。自分の作りたい料理を作れるっていうのも楽しいかな。
——なるほど。今まではお店のルールに従って作ってきたんですもんね。じゃあ、今後新しく作ってみたい料理はありますか?
横山さん:和食はもちろん、中華、イタリアンとほとんどの料理を作ってきたけど、フランス料理だけは作ったことがないっけ、これから挑戦してみたいなって思ってる。
——フレンチまで……すごい意欲ですね。最後にずっと気になっていたことを聞いていいですか。お店の中にラグビーワールドカップ日本代表のサイン入りユニフォームが飾ってありますよね。あれって本物なんですよね?
横山さん:ラグビーワールドカップ日本代表の稲垣啓太は、奥さんのいとこの息子なんさ。ワールドカップ2019の前に里帰りしたとき、うちのお店に親戚一同が集まったんさね。そのとき写真撮らせてもらって、サインももらったんて。
——そうだったんですか! 最後の最後にびっくりするお話までありがとうございました。
料理の話になると夢中になって話し始める横山さんを見て、根っからの料理人なんだなと思いました。お品書きに載せきれないほど料理の種類があって、実際に載っていない裏メニューもまだまだあるようです。これからもいろんな料理を生み出して、お客さんを楽しませてくださいね。
彩の味 千の月
〒950-1144 新潟県新潟市江南区祖父興野150-6
025-285-3655