冬本番、日々の寒さや除雪作業で溜まった疲れを癒しに、じっくりと温泉につかりたい気分です。でも、旅館まで行く余裕はないし、かといって多くの人がガヤガヤと入り乱れる日帰り温泉施設に行くのも億劫……。そんなときにうってつけなのが、今回紹介する村上市・瀬波温泉の銭湯「松風荘」さんです。実はこの施設、瀬波温泉の源泉を引き、旧保養所を活用しているゆったりスペースながら、普通公衆浴場=銭湯として登録しているためリーズナブルな価格で利用できるという、知る人ぞ知る快適スポットなんです。長年勤めたメーカーを早期退職して大阪から夫婦で移住し、この施設を開業した丹羽さんにお話を聞いてきました。
松風荘
丹羽 正久 Niwa Masahisa
1968年大阪府吹田市生まれ。エンジニア、管理職として30年近く勤めた大手電機メーカーを早期退職。妻の千賀さんとともに瀬波温泉に移住して2021年3月、温泉の公衆浴場「松風荘」を開業。夫婦の以前からの趣味も日本各地の温泉巡りで、現在は、おあずけ中。
――こんにちは。こちらは銭湯とのことですが、一般的な銭湯のイメージとはかなり違いますね。
丹羽さん:いらっしゃいませ。そうですね、ここは以前、新潟県社会保険協会の保養所だったんです。それを活かして、一般的な銭湯にはなかなかない様々なサービスを提供しています。ちなみに一般公募で決まったという「松風荘」の名称もそのまま使わせてもらっています。
――様々なサービスとは、具体的には?
丹羽さん:旧宿泊部屋を活用して、個室の休憩室やフィットネス機器を設置した健康増進ルーム、卓球室のほか、近年の需要に対応したテレワーク部屋、ネット会議用の部屋などもご用意しています。また秋からは、近くにある村上市スケートパークを利用される方のために、簡易宿泊も始めました。
――ん? スケートパーク利用者のために簡易宿泊、ですか?
丹羽さん:はい。あちらは国内でもあまりないという屋内型のスケートボード施設ということもあってか、全国から利用者が訪れているのですが、家族ぐるみで熱心に競技に打ち込み、全国を行脚されているような方々は、車中泊される向きも多いみたいで。そういった方々に、旅館やホテルほどとは言わずとも、安価で少しでも快適に宿泊してもらえればと思って始めたんです。スケートパークだけでなく、毎年開催されるトライアスロンに参加される方や、ビジネス、帰省でのご利用もあればと思っています。
――なるほど。
丹羽さん:また、市民ギャラリーの開設やイベントの開催などもしてきています。秋は、新潟浴場組合主催でNAMARAの芸人さんたちによる「銭湯寄席」にも来ていただきました。元々のコンセプトとして、「温泉資源を地域内外の方々に安価で気軽に利用してもらいたい」と思って始めたので、いろんなかたちで多くの方の憩いの場にしていければと思っています。
――それでは、開業までの経緯を教えていただいても? 一昨年の春にオープンしたとのことですが、それまではどういったお仕事を?
丹羽さん:私も妻も生まれてからずっと大阪で、私は電機メーカーに勤めていたんですが、子どもが無事に巣立ったのを機に、これからは夫婦でいっしょにできる仕事をやっていきたいなぁ、と思って。早期退職し、こちらに移住して開業しました。平たく言えば「第二の人生」ということになるのでしょうかね。
――電機メーカーのサラリーマンから、なぜ銭湯経営を?
丹羽さん:夫婦で一緒にやれる仕事といっても、農業や飲食店経営は我々にはできそうにないし、サラリーマンと専業主婦から50を過ぎて一緒にできそうな仕事ってなかなかないんですよね。そんな中、お風呂屋さんならば、日々の掃除は必要だけど、なんとか我々でもできるかな、と。
――大阪から、どうして新潟の瀬波温泉に。何かゆかりはあったんでしょうか?
丹羽さん:いえ、特にゆかりはなかったです。ここを選んだのは、全国の物件をリサーチしていた中で、建物の状態の良さや街場の近さなど、予算の範囲内で最良の条件が揃っていたからですが、いち愛好者として、源泉を引いていることも大きな決め手のひとつでした。
――では、温泉愛好家のひとりとして、瀬波温泉のお湯の魅力は?
丹羽さん:そうですね、ほどよいヨード香で、温度が高く力強さもありながら、すごく優しいお湯だと思います。できるだけ多くの方に気軽に堪能してもらいたいです。その思いもあって、銭湯という業態を選んだとも言えます。日常的に利用してもらいたいので、入れば入るほどお得になるスタンプカードも導入しています。最安では大人で通常440円から200円にまでお得になります。
――それは安い!
丹羽さん:それこそ喫茶店でコーヒーを一杯飲むくらいの感覚で、気軽に浸かりに来てほしいです。
――まったくの異業種から、しかもそれまで縁のなかった地で開業したわけですが、不安はなかったですか?
丹羽さん:不安というか、勤め人としてあくせく働いてきた習い性なのでしょうか、今は正直「もうちょっと忙しくてもいいんじゃないか」と思うところはあります(苦笑)。夫婦水いらずでのんびりやっていくのも悪くありませんが、より多くの方々にご利用いただけるよう、引き続きいろいろと試行錯誤していきたいと思っています。
――ちなみに、前職の経験はどんなところに活きていますか?
丹羽さん:前職ではエンジニアとして電子部品の開発をやっていたのですが、そうですねぇ、自前で浴場の混雑状況をロビーやネット上で「見える化」したり、フロントでお湯の温度管理ができるようにしたりしたのは活かしたといえるのか…。
――オープンからもうすぐ2年となりますが、手応えはいかがですか?
丹羽さん:おかげさまで、感覚ベースですがだいたいお客様の7~8割は地元の方々ですね。今や内風呂が当たり前の中、常連になってくれた方もたくさんいて、ありがたい限りです。
――最後に、今後の展望を教えてください。
丹羽さん:昨年の県北豪雨では水道が止まった地域の方々に入浴を提供したのですが、自家風呂のない人、使えない人に入浴してもらうという銭湯本来の役割を果たせたような気がして、とてもやりがいを感じました。これからも地域の方やこちらを訪れる方の役に立てることがあれば、どんどんやっていきたいと思っています。その意味でも、できるだけ長くやっていきたいと思っています。夫婦ともども、今後も頑張っていきたいです。
――本日はありがとうございました。せっかくなので、お湯も堪能させていただきます!
〒958-0037 村上市瀬波温泉2 – 4-29