「新潟五大ラーメン」と呼ばれるうちのひとつ「燕三条系 背脂醤油ラーメン」の麺をはじめ、地元の飲食店で使われている中華麺を作り続けてきた燕市の「近藤製麺所」。今年の8月に生麺の直売所「SLURP YARD(スラープヤード)」をオープンしました。ご主人と一緒に直売所を運営している河合さんに、麺へのこだわりを聞いてきました。
近藤製麺所 SLURP YARD
河合 沙緒里 Saori Kawai
1986年燕市生まれ。バンタンデザイン研究所卒業。アパレルショップの販売スタッフやファッションブランドのプレスアシスタント、グラフィックデザインの仕事を経て、家業の「有限会社 近藤製麺所」を手伝いはじめる。2022年8月よりご主人と共に中華麺の直売所「SLURP YARD」をオープンする。ファッションが好きで古着屋めぐりが趣味。
——「近藤製麺所」は、いつから続いている製麺所なんでしょうか?
河合さん:私のおじいさんが50年前から続けてきた製麺所なんです。景気がよかった時代は燕市の工場にも活気があって、ラーメン店や食堂は出前で大忙しだったそうです。製麺所の数もまだ少なかったので、麺を作れば作るほど儲かったと聞いています。夏は海の家に麺を納めていましたし、冬はお歳暮で需要があって、一年中忙しかったようですね。今は、燕三条地域を中心とした100軒近くの飲食店に中華麺を納めています。
——中華麺以外の麺も作られているんでしょうか。
河合さん:中華麺をはじめ、茹でうどん、茹で生そば、蒸し焼きそばを作っています。うどんやそばは病院、保育園、スーパーに納めていますし、焼きそばは露天商にも納めているんです。麺だけじゃなくて餃子の皮も作っているんですよ。
——へ~、取引先も幅広いんですね。
河合さん:製麺所のプライドを持って、どの麺も最高のものを作るよう心がけています。中華麺は厳選した上質な小麦や梘水(かんすい)を使って作っているんです。
——ところで、河合さんは「近藤製麺所」のお嬢さんなんですよね。
河合さん:私は二代目の長女なんです。でも他にやりたいことがあったので、以前は製麺所の仕事を手伝おうとは思っていませんでした。
——やりたいことっていうのは?
河合さん:昔からファッションに興味があって、ファッション関係の広報の仕事をしたかったんです。それで東京にある「バンタンデザイン研究所」のプレス科で勉強をして、アパレル店の販売スタッフとして働きました。六本木ヒルズにあるショップの店長をしていたこともあるんです。最後は念願だったファッションブランドのプレスアシスタントとして働くことができました。
——憧れていたお仕事に就くことができてよかったですね。
河合さん:そのはずだったんですけど、働いてみたら自分のキャパを上回る仕事量にメンタルをやられてしまったんです。あと、仕事のやり方だけじゃなく使うシャープペンシルまで指定されるほど完璧主義を貫く会社だったので、自分のアイデンティティーがなくなってしまうような思いに苦しみました。それで26歳のときに退職して、新潟に戻ってきたんです。
——あらら……それは残念でしたね。
河合さん:ファッション業界は自分に合わないと思って、しばらくWEB制作会社に勤めてグラフィックデザインを担当していたんですけど、32歳のときに家業の「近藤製麺所」を手伝いはじめたんです。
——直売所の「SLURP YARD」をはじめたいきさつは?
河合さん:「近藤製麺所」に「麺道楽」っていうオリジナル商品があるんですが、それを卸していたスーパーが閉店してしまったんです。自信作の「麺道楽」を多くの人に食べてもらいたいのに、売ってくれる場所がなくなってしまったので、インターネットを使って通信販売をはじめることにしました。
——反響はいかがだったんでしょうか。
河合さん:宣伝にお金がかけられなかったので、ユーチューバーさんをはじめとしたインフルエンサーにDMを送らせていただいたんです。とにかく食べていただいて、気に入ったら感想を発信していただけたらありがたいという思いでした。実はそのなかにタレントの彦摩呂(ひこまろ)さんがいたんです。
——えっ、彦摩呂さんって、グルメリポーターとしても人気のある方ですよね?
河合さん:そうなんです。商品を送ったら食べてくださって、ご自身のライブ配信で紹介してくださったんですよ。他のユーチューバーさんたちからもご紹介いただいたおかげで、全国からご注文をいただけるようになりました。本当に感謝しております。
——一流のグルメリポーターからも認めてもらえたわけですね。でも、店舗販売をはじめたのはどうしてなんですか?
河合さん:通信販売と並行して、工場でも直売をはじめてみたんです。ところが工場だからお客様が入りにくいんですよ(笑)。それで直売所の店舗営業をはじめたいと思っていたところ、おじいさんの倉庫と敷地を使わせてもらえることになったんです。主人も協力してくれることになって、今年の8月に念願の直売所をオープンすることができました。
——おめでとうございます。それにしても、店内はなんだかポップな雰囲気なんですね。
河合さん:これ全部、主人の私物なんです(笑)。来てくれたお客様がワクワクしながら買い物できて「また来たい」と思ってくれるようなお店にしたかったので、アメリカのアイスクリーム店やキャンディーショップのようなイメージにしてみました。お金がかけられないので、アイデアを出しながらできることをやっていこうと思っています。
——「SLURP YARD」ではどんな麺を買うことができるんですか?
河合さん:おすすめは「麺道楽」です。中華麺とスープ、背脂がセットになった商品なので、これひとつで燕三条系の背脂醤油ラーメンをご家庭でお楽しみいただけます。スープは三条で実際に営業していたラーメン店が閉店する際に受け継いだものなんです。そのスープの味を大事にするために、お湯で薄めて作るのではなく、そのまま温めて使っていただいています。麺もスープに合うよう父が試行錯誤して生み出したものです。
——作り方だけ聞いても、かなりのこだわりを感じますね。他にはどんな商品が?
河合さん:「濃厚魚介つけ麺」もおすすめです。全粒粉入りのつけ麺商品はコンビニエンスストアでも売られているんですけど、値段の高いものが多いんですよ。もっとリーズナブルに楽しんでもらえないかと考えて、ギリギリ300円台で買えるよう努力した商品です(笑)。製麺所が作ったコシの強いもちもち麺を楽しんでいただきたいですね。
——製麺所直売の麺にしては安いですね。麺だけの販売もされているんでしょうか。
河合さん:細麺、中細麺、中太麺、太麺の4種類を販売しています。それに合わせてスープも何種類か揃えていますし、岩海苔やメンマ、辛み調味料といったトッピングも置いてありますので、お好みの組み合せでラーメンを楽しんでいただけます。
——トッピングの具材も調達できるんですね。
河合さん:いつか冷蔵庫や冷凍庫が増やせたら、チャーシューや味玉といった具材も充実させていきたいですね。ラーメンの種類も担々麺や酸辣湯麺(サンラータンメン)、豚骨醤油というように豊富に揃えて、お客様の選ぶ楽しみをもっと増やしていけたらと思っています。
——家庭での食事も楽しくなりそうですね。
河合さん:コロナ禍でなかなか外食しづらくなってしまったなかで、ご家庭でお店の味を楽しんでいただきたいんですよね。あとは新潟のラーメンをもっと全国に広めたいという思いもあります。
——と、いうと?
河合さん:東京出身の主人に言われて初めて気がついたんですけど、新潟のラーメンって私が思っていた以上にレベルが高いみたいなんです。でも全国的な知名度はまだまだ無いから、全国に広めるお手伝いができたらいいなと思っています。これから迎える年末年始のご挨拶に、ラーメンのギフトを贈ってみるのはいかがでしょうか?
近藤製麺所 SLURP YARD
燕市吉田東町10-9
0256-77-8660
9:00-18:00
水曜他不定休