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演出家みたいに空間をつくりあげていく、長岡市の「Sponge」。

長岡市で店舗設計などを手がける「株式会社Sponge」。東京都心部の商業店舗をデザインする会社に勤めていた髙坂さんが、7年前に立ち上げ、 昨年法人化した会社です。今回は、理想の空間を作り上げることに全力を注ぎながら3人のお子さんを育てている髙坂さんに、仕事のこと、育児のこと、これからのこと、たっぷりお話を聞いてきました。

 

株式会社Sponge

髙坂 裕子 Yuko Takasaka

1984年長岡市生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科を卒業後、東京都内のインテリアデザイン会社に8年間勤務。2015年に長岡市にUターンし、2016年に「Sponge」を立ち上げる。2021年11月に法人化。長岡造形大学建築環境デザイン学科の非常勤講師も務めている。

 

目指しているのは、クライアントとの間に垣根のないデザイン会社。

——「Sponge」さんでは、どんなことを手がけているんですか?

髙坂さん:メインの仕事は空間設計ですね。飲食店や小売店、オフィス、住宅のリノベーションなどいろいろとやらせていただいています。ただ空間を設計するだけじゃなく、商品プロモーションだとか、お店ができてからどんな戦略で販売していくかとか、そんなことまでお手伝いすることも多いんですよ。プライスカードやショップカードを一緒に考えたり、お店のロゴからWEBサイトまでディレクションをしたり。どんな客層に来てもらって何を伝えたいのか、というところまで関わっていくんです。

 

——空間づくりが本業とはいえ、営業の根本的なところにもアプローチされるんですね。

髙坂さん:場合によっては「店舗の改装を考えているけど十分な予算がない」ということもあります。お話を伺って「確かに施工会社さんに依頼するのは難しいかな」と思っても、改装ありきで考えるのではなく、「本当は何を実現したいのか」を一緒に考えると違ったものが見えてくることがあるんです。改装よりも商品の魅力を引き出すことが優先かもしれないし、DIYで解決できるかもしれない。「そのお店にとって、本当に改装工事が効果的なのか」も含めて考えます。というのも、この仕事って数回の打ち合わせだけでは答えが出ないことが多いんですよ。「工事に関われないんだったら、うちは手を引きます」とは言いたくないんです。

 

 

——なるほど。髙坂さんの仕事への情熱を感じます。

髙坂さん:実績や売上とはちょっと違うところを目指しているんだと思います。地域の小さな困りごとを解決していく先に「いつも何かしらのヒントがある」と思っているというか、自分自身がそういったものを拾っていくと仕事に活かせるものがある。そんな気がしているんです。

 

——「お客さんに寄り添おう」って気持ちはどこからきているんでしょう?

髙坂さん:改装の依頼をいただく際など、お客さまから「以前の店舗は、デザイナー任せにしてしまって後悔している」とよく言われたんです。デザイナーが理想を持って「こうした方がいい、ああした方がいい」と進めていっても、クライアントが心から納得できなければ良い仕事をしたとは言えないんじゃないか、と思うようになりました。

 

——髙坂さんは、前職で都内の商業施設を作っていたんですよね。「根本的なところを解決しなくちゃ」って思いは、東京で働いていた頃から感じていたんですか?

髙坂さん:東京時代のクライアントは店舗を作ることがゴールではなく、その先の明確な目標が計画時から定まっていて、店舗はそれを達成するための「土台」という考え方。「何のためにつくるのか」が明確でスピード感を持って並走できました。でも新潟では、「そもそも、どうしたいのか明確に決まっていない」ことが多かったんです。

 

——新潟には新潟なりの課題があったんですね。

髙坂さん:お客さまはきっと「まず誰に、どう頼んだらいいんだろう」とか「ある程度かっちり決まってからじゃないと相談できないんじゃないか」という考えがあると思うんです。それって、お客さまとデザイナーとの間にすごく高い壁があるからだという気がしていて。私はもっとそこの敷居を下げたいし、「おもしろいことを思いついたんだけど、どうしたらいい?」なんて相談が気軽にできる会社にしたいと思っているんですよ。

 

デザイナーであり、経営者であり、母でもある髙坂流の考え方。

——髙坂さんが空間設計の仕事をする上で、ベースになっているのはどんな考えですか?

髙坂さん:「映画のワンシーンのような情景を再現したい」という思いが昔からありました。建物を作ること自体にはそれほど興味はなくて、「そこで営まれる人の生活」だったり、「時間の流れ」みたいなものを作りたいって。デザイナーというより「演出家」に近いかもしれないですね。

 

——3人のお子さんもいらっしゃるし、いったいどうやってご自身のマンパワーの調整をしているんだろう、って気になったのですが……。

髙坂さん:来年は新卒を1名迎える予定ですが、これまで7年間、ずっとひとりで仕事をしてきました。だから案件が重なったときなんか「もう限界だ」と思ったことは何度もあります(笑)。「忘れていた」とか「終わらなかった」ってことも。子育て中でもあるので、家庭と仕事の両立には苦労してきましたね。でも、いろいろなことの舵取りは、経験を重ねて上手くなってきたと思っています。力の入れどころも分かるようになってきましたし。

 

——育児と仕事の両立、もちろん大変ですよね。

髙坂さん:小さい子供を抱いて現場に行ったこと、何度もありますよ。独立したばかりの頃は「子どもを仕事の場に連れていくなんて、悪いことをしているんじゃないか」という罪悪感があって。自分で自分を追い詰めていたんです。でも周りは優しく受け入れてくれました。それで、胸のつかえが取れたような気がしたんです。私がやることは「今のキャパシティを受け入れて、その中で全力を出すことだ」って思えました。

 

 

——サラリーマンから経営者になったあとの心境も伺いたいです。

髙坂さん:経営はけっこう楽しいですね。自分で仕事を取ってくることもおもしろいし、誰とどう関わるかも自分で決められます。経営に携わる前は、「お店づくりの一部分しか見えていなかったかもしれない」と思うこともあります。お客さまには予算があるはずなのに、建築家やデザイナーはそこを飛び越えがちっていうか、ハードルの高い提案をしがちになる。私も過去にはそうしたこともしてきたと思うんですよ。「これくらい頑張らないと難しいですよ」って。

 

——現実にはいろいろな条件があるでしょうからね。

髙坂さん:「今までの提案は本当にクライアントの目線に立てていたのだろうか」という反省もあります。素晴らしい空間を提案するのは他の人でもできるけど、私はお客さまをちゃんと理解して、深いところまでご一緒したいんです。自分も商いをしているから分かることってたくさんありますよ。

 

新しいチャレンジのために法人化。オフィスを構え、そこから何が生まれるか実験したい。

——去年の秋には法人化をされたんですよね。

髙坂さん:独立して、1〜10までぜんぶ自分でやることができたし、「いいものができた」という満足感も得られました。いろいろな欲求が満たされて、ここ数年でやりたいことを叶えられたんです。そしたら、次のステップが見えてきました。すごくおこがましいことを言うと、まちを見渡して「私だったらこうするのに」って気持ちが芽生えてきて。自分に依頼してくださった方のために頑張りたいという気持ちから、地域のためになることや、私を知らないけど困っている人にも貢献できることってないのかな、って考えるようになったんです。それで、よりたくさんの仕事、大きな仕事を受けていきたいと思って、去年の11月に法人化をしました。

 

——携わりたいお仕事のスケールが大きくなってきた感じですね。

髙坂さん:そんな思いを持っていた頃、長岡造形大学の非常勤講師の依頼をいただきました。若い人は優秀だし、世の中をしっかり見ていて感心します。そんな彼らが、この地域で力を発揮できずに県外に出てしまう現状があると知り、「まだまだデザイナーを育成する環境が整っていない」と感じたんです。そんなこともあって、もっとデザイナーを知ってもらう場所としても活用できて、まちに根ざした取り組みやイベントができるようにオフィスを構えたんですよ。

 

 

——ほお。オフィスを。

髙坂さん:この建物は、もとは父親が経営している町工場だったんです。両親が所有しているビルだけど家賃は発生するし、もちろん工事費用もかかりました。それでも「この場所でいろいろな人が関わって、どういうことが生まれていくか実験してみたい」と思ったんです。私がデザインの道を目指していた頃も、たくさんの素敵な大人と出会って、そこからの刺激で大きく成長してきました。今度は自分が刺激や学びを提供する場所を生み出そうとチャレンジしているところです。

 

 

 

株式会社Sponge

長岡市大島本町1-8-11

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