南米パラグアイへ渡った起業家。弥彦村出身の「立川巧雪」さん。
その他
2024.11.24
先日ご紹介した「らいわ弥彦」の徳永館長から「海外で奮闘する弥彦村出身者にぜひ会ってみてください。ちょうど今、パラグアイから一時帰国しているんです」と教えていただき、お目にかかったのは「立川巧雪」さん。大学卒業後にパラグアイへ渡り、25歳で起業。現在に至るまでパラグアイでビジネスをされています。11月下旬には帰路につかれるとのこと。立川さんが新潟に滞在されている貴重な機会に、いろいろとお話を聞いてきました。

タチカワデザイン事務所
立川 巧雪 Kosetsu Tachikawa
1990年弥彦村生まれ。長岡造形大学 建築・環境デザイン学科を卒業後、南米パラグライの首都アスンシオンに渡航。現地開発コンサルタント事務所に3年間勤務し、2016年に独立。「タチカワデザイン事務所」を立ち上げる。2017年に木工クラフトブランド「Todo Palo Santo MIDORI(パロサント ミドリ)」をスタート。最近一眼レフカメラを手に入れ、写真にハマりかけている。

家業を継ぐつもりだった学生時代。海外進出は他人事だったのに……。
――立川さん、学生時代から海外への関心は強かったのですか?
立川さん:いやいや、そうでもないんです。父親が自営業を営んでいて、私は跡継ぎとして育てられましたので、大学を卒業したら父親のもとで働くつもりでいました。ところが、ありがたいことに大学の卒業課題で賞をいただきまして。「デザインの仕事で腕試しをしたい」と思っていたところ、課題制作の際にお世話になったパラグアイ在住の方から「こちらには仕事がたくさんあるから来てみないか」と誘われたんです。
――それで渡航を決められたんですね。
立川さん:海外で働いた経験もある大学時代の恩師、山下先生の教えも大きかったです。先生は優秀な教え子たちが日本の大手企業に就職し、苦労する姿を見てこられたんでしょうね。私たちには「海外を目指すといい」とよくおっしゃっていました。「日本よりも海外の途上国にチャンスがある」と。ただそのときはまだ父親の仕事を継ぐつもりでいたので、先生の言葉を話半分で聞いていたわけです。

――人生何が起きるかわかりません。
立川さん:もうひとつ大きな出来事がありました。卒業課題のため、最初にパラグアイへ渡航するきっかけとなった出来事です。課題が順調に進まず、「どうしよう」と落ち込んでいた時期に、十日町市の大地の芸術祭でとあるアーティストさんのサポートをする授業がありました。宴席でそのアーティストさんに愚痴をこぼしたら、翌日その方が20万円が入った茶封筒を私にくれたんです。
――えぇ? ええ??
立川さん:ただ授業でご一緒しただけの関係で、ですよ。「これでパラグアイに行ってこい」と。「現地を実際に見なくちゃ意味がないし、認めてもらえないよ」って。たぶん当時の彼は、今の僕と同じくらいの年齢だったと思います。仕事がたくさんあって、すでに裕福で、というわけじゃなかったでしょうね。そんな出来事にも恵まれました。

日本との時差を利用した、アイディアあふれる事業展開。
――パラグアイに行かれて3年間はお勤めをされて、その後に起業されました。
立川さん:最初はまさに「石の上にも3年」でした。耐え続けなければいけない状況だったので、「3年働いて会社を辞めよう」と決めていたんです。親には「パラグアイに数年行ってくる」と伝え、理解してもらったものの、まったく芽が出ない、何の結果も残せていませんでした。「尻尾を巻いて日本に帰るわけにはいかない」という思いから独立したようなものです。
――社会人としての勉強に加えて、異国の文化も理解しなくちゃいけないって、かなりタフな生活だったでしょうね。
立川さん:確かにそうですね(笑)。でも楽しかったですよ。恩師、山下先生の応援もありましたし。現地の話をすると喜んでくれて。そういったやりがいもありました。

――現在の立川さんのご活動についても教えてください。パラグアイでどんな事業をされているんでしょう?
立川さん:母体である「タチカワデザイン事務所」としての建築デザイン業、木工クラフトブランド「Todo Palo Santo MIDORI」のサービス全般、それとパラグアイのニュースを日本語に翻訳して配信するメディアサービス「Paraguay Business News」の展開です。他には日本の法人や団体と現地をつなぐコーディネーター業という感じですね。
――建築デザインのサービスというのは、具体的にどんなお仕事ですか?
立川さん:日本のクライアントさんのお仕事をアウトソーシングで受けるスタイルです。時差が12時間ありますので、図面や建築のイメージ図を作る仕事などを日本からバトンタッチして私たちが進めます。
――なるほど、時差を利用したサービスですか。それと気になったのは「Paraguay Business News」。日本語で配信するサービスが必要なくらい、パラグアイには日本の方がいらっしゃるんですか?
立川さん:人口約700万人のうち、1万人ほどが日系人、日本人だと言われています。ユーザーのほとんどはパラグアイに進出している企業や大使館で働いている方、大学機関の関係者などです。需要は多くはないですが、求めている方は確実にいらっしゃいます。
――日本では大使館勤めの方だなんて遠い、遠い存在ですけど、パラグアイにいる立川さんにしてみたら、近い存在なんでしょうか?
立川さん:パラグアイ大使館の方とはいろいろお付き合いがありますよ。プライベートで一緒にテニスをしたり、飲み会で一緒になったり。狭い世界ですからね(笑)

オリジナルブランドで、パラグアイ国内の大きな問題解決を。
――木工クラフトブランド「Todo Palo Santo MIDORI」の商品は日本でも買うことができるそうですね。
立川さん:千葉県にある「サポテックラグとメキシコ雑貨のお店nada」さんに代理販売をお願いしています。パラグアイでの出会いでつながったお店です。
――会社として独自のブランドを持っているって強みになりますよね。
立川さん:本業の建築デザインの仕事はどうしても波があって、食うのがやっとというときもあります。そんなときの助けになったらいいな、くらいの考えでスタートしたんですよ。友人から「パラグアイのお土産になるものはないだろうか」と相談されたこともブランドスタートのきっかけです。
――パラグアイ産の木材を使用しているとか。
立川さん:「神聖な木」として重宝されている「パロサント」という木材を使っています。油分が多いため、研磨すると美しく変化し、良い香りがします。廃材を使用しているので資源を無駄にしませんし、仕入れコストを抑えることができています。

――立川さんが異国の地で踏ん張り続けられたのには、どんな思いが?
立川さん:なんでしょうかね。「一旗上げたい」みたいな気持ちがあるんでしょうかね。「郷に錦を飾る」とは言い過ぎかもしれませんが、地元の弥彦村は大好きなところですし、いずれは何かしらのかたちで役に立ちたい、貢献したいという気持ちがあります。
――目標にされていることは?
立川さん:「Todo Palo Santo MIDORI」が軌道に乗ってきたので、「パラグアイのクラフト品といったら『MIDORI』がある」と、それくらい大きなブランドにできたらいいですね。
――Instagramなどでは、ご自身を「起業家」とも記されていますよね。後進の育成にはどんなお考えをお持ちですか?
立川さん:人材育成には力を入れています。「MIDORI」の職人たちは若いので、彼らを育てる面もそうですし、日本からインターン生を受け入れることもあります。私自身、どなたかの役に立ちたいですし、若い方が視野を広げるきっかけづくりができたらいいなと思っていて。この度一時帰国して、5件ほど講演をさせてもらいました。講演先のとある学校はなかなかにやんちゃな校風で、先生、生徒さんともに自尊心やモチベーションが低下している印象を受けました。でもおそらくそういう「レッテル」を貼られているだけで、ひとりひとりに長所は必ずあるんですよね。その長所を伸ばす道筋づくりみたいなことも、今度の活動としてできたらいいなと思っています。
――それは日本で? それともパラグアイで、でしょうか?
立川さん:どちらでもできますよね。パラグアイで、具体的にイメージしているのは先住民の皆さんの支援です。彼らもものを作ります。それも素晴らしいものを。でも教育を受けていないので、生計を立てる術を知りません。彼らへの支援としては、フェアトレードで製品が流通する環境を整えることが最優先です。協働するのであれば、「MIDORI」のひとつのラインとして販売し、発生した利益で彼らの生活や物資を改善できるかもしれないと、数ヶ月までから動き出しました。まだぜんぜんうまくいかないですけどね(苦笑)

立川 巧雪
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