Things

地元生産者と対話し食材の魅力を引き出す、村上市の「天ぷら斉藤」。

村上市坂町に店舗を構える「天ぷら斉藤」。工夫を凝らした天ぷらが食べられると評判のお店です。村上近郊の素材を中心に使い、可能な限り生産者さんとの接点を持つようにしているというご主人に、お店のオープンまでのエピソードや地産地消をはじめたきっかけなどを聞いてきました。

 

 

天ぷら斉藤

斉藤 丈司 Jyoji Saito

1977年村上市生まれ。大阪の辻調理師専門学校卒業後、大阪本社の「てんぷらの一宝」と懐石料理店で経験を積む。20代後半で地元に戻りラーメン店に勤務した後、金沢へ移り「天ぷら 小泉」で働く。2015年に「天ぷら 斉藤」をオープン。「ミシュラン新潟2020特別版」ミシュランプレート獲得。趣味は食べ歩き。

 

天ぷら専門店では、揚げ場に立つまで5年。

——斉藤さん、最初の職場も天ぷら専門店だったんですね。

斉藤さん:子どもの頃、富山県の祖父母の家に遊びに行くと、よく天ぷら屋さんに連れて行ってもらえたんですよね。目の前で天ぷらを揚げてくれる職人さんの仕事っぷりがすごく印象に残っていて。そのときの思い出があったのかもしれません。

 

——一人前の天ぷら職人さんになるまでは、きっと何年もかかるものですよね。

斉藤さん:最初に勤めた「てんぷらの一宝」は、数万円のコースを出すようなお店だったので、若手のうちは素材の下ごしらえだとか調理の補助が中心でした。揚げ場に立たせてもらえるまで5年くらいはかかったかもしれないです。

 

——さすが職人の世界です。

斉藤さん:僕らが若い頃は、まだまだそういう時代でしたね。専門店で経験を積んだので、その後の懐石料理店でも揚げ場を担当することが多かったです。

 

 

——地元に戻ってこられてからはどうされたんでしょう?

斉藤さん:ご縁があって地元のラーメン店で働きました。こっちで横のつながりを作ろうと思って。こだわりの強いお店だったので、「ラーメン一杯作るのに、こんなにも大変なのか」と驚きましたよ。しばらく働いてから、「てんぷらの一宝」でお世話になった先輩が金沢で「天ぷら 小泉」というお店をはじめるというので、2年間ほど手伝わせていただきました。後にミシュランで2ツ星を獲得されたお店です。

 

——いずれ地元でお店を構えようとは、考えていたんですか?

斉藤さん:父親も自営業だったので、なんとなく「いずれ自分でも商売ができたらな」とは思っていました。店舗のあるこの場所は、坂町の繁華街というわけではないんですけど、自宅の隣の車庫スペースでお店ができそうだと思ったんです。それほど大きな場所じゃなくていいから「ここでとりあえずやってみるか」って。

 

生産者のもとへ足を運べる環境。愛情が美味しさに。

——カウンターで揚げたての天ぷらをいただけるお店なんて、あまり行ったことがないです。

斉藤さん:外食で天ぷらを食べる習慣って、あまりないですもんね。うちでは、天ぷらの他にも前菜、一品料理、お食事、デザートのコースをご用意しているんですよ。天ぷら屋で働いていた私にしたら当たり前ですけど、「天ぷら以外のメニューもある」ってことがあまり知られていなくてちょっとびっくりしました。

 

——特別な日に来たいお店って感じがします。

斉藤さん:お祝いのときに利用されるお客さまが多いですかね。でも「高級な店」ではありませんよ。村上には天ぷらが食べられるお店が少ないので、地元で揚げたての天ぷらをお届けできたらいいなって気持ちではじめたので。

 

——地元の方がお越しになることが多いですか?

斉藤さん:村上市の中心街には飲み屋さんも食事処もたくさんありますから、関川村とか朝日村とかからちょっと遠出して来てくださる方も多いでしょうか。2020年にミシュランプレートをいただいたときには、長岡や上越からのお客さまも増えました。

 

 

——村上にも美味しい食材がたくさんありますよね。

斉藤さん:独立した当初は地物へのこだわりはなくて、東京や大阪でお出ししていたようなメニューがいいだろうと思っていたんです。「これは食べたことないだろう」ってものをお出ししていたんですね。でも地元の農家さんや岩船の漁師さんもお客さまとして来てくださって。「こういう食材があるから、ぜひ見に来てください」とお誘いいただき、現場にお邪魔するようになったんです。実際の生産の場はすごく迫力がありますし、生産者さんの努力が伝わってきます。地元にいい食材がたくさんあるんですよね。そういうものをお出しするとお客さまは喜んでくれますし、そのエピソードを生産者さんに伝えるとまた嬉しそうにしてくれるんですよ。

 

——斉藤さんご自身が生産者さんのもとへ出向かれているとなると、お客さまにもいろいろなお話ができそうですね。

斉藤さん:そうなんです。先日は、今が旬のアスパラガスの生産者さんに収穫作業を見せてもらいました。生で食べてもすごく美味しいんですよ。お客さまは「村上にこんな美味しいアスパラがあったのか」とびっくりされます。地産地消に意識が向いたのは、お付き合いしていただいている生産者さんのおかげですね。

 

 

——ご商売されてから、地元のものに惹きつけられるようになったんですね。

斉藤さん:お客さまが「うちではこれを作っているんだよ」って持って来てくださることもありました(笑)。実際に農家さん、漁師さんの働く姿を目の前にすると、自分の言葉として食材の魅力をお伝えできますよね。動画サイトで見るよりずっと生の様子がわかりますから。アスパラガスを生産しているお母さんは、毎日のように自分で収穫しているアスパラを食べていて「だから私は健康で元気なの」とおっしゃるんですよ。「料理は愛情」っていうか、やっぱり人の気持ちが味に手を加えているんでしょうね。生産者さんの顔が見えるって大事なことだと思います。

 

——それは都市部ではなかなか実現しないことかもしれませんね

斉藤さん:確かにそうですよね。今は豊洲ですけど、僕が働いていた頃は築地でお金さえ払えば、どんな時期でも食材が揃いました。それはそれで必要なことですけど、ここではその時季にいちばん旬の美味しいもの使う方が自然だと思います。

 

もっともっと伝えたい、村上の絶品食材がたくさん!

——さきほど話題に出たミシュランプレートについても教えてください。お店にとっては大きなニュースでしたよね。

斉藤さん:金沢の「天ぷら 小泉」の店主さんが、「いつでもミシュランが取れる準備をしている」とおっしゃっていたんですよね。僕にも「それくらいの気持ちでいないといけないぞ」と。うちは村上の端っこで営業しているわけですけど、掲載店に選ばれたことで、お店を知ってもらうきっかけになりました。「この店を掲載しよう」と思っていただけただけでありがたいことでしたし、何よりお客さまがすごく喜んでくれて。「大好きな『天ぷら斉藤』が選ばれたぞ」ってお祝いをいただいたりもしました。それがいちばん嬉しかったです。

 

 

——まったく関係のない質問ですけど、家庭で天ぷらをするときのコツを聞いてもいいでしょうか。

斉藤さん:お店では油の温度を下げないためにも大きな鍋を使っていますけど、家庭では難しいですよね。うちではふるって空気を含ませた状態の粉をマイナス60度の冷蔵庫に入れて3日くらい冷やします。グルテンが発生しすぎないようにするためです。家庭でも天ぷら粉をなるべく冷やしておくといいでしょうか。あと「天ぷら粉はダマが残るくらいに混ぜる」ってよく言いますよね。あれは「混ぜすぎないで」って意味です。なるべく混ぜる回数を減らして、粉と水をしっかりとよく混ぜ合わせることがポイントです。

 

——ありがとうございます。さて、今後はどんなお店にしていきたいですか?

斉藤さん:村上には市外、県外には知られていない美味しい食材がまだまだあります。地元の美味しい素材をもっと伝えていきたいですし、それを天ぷらにすると「こんなふうに食べられるのか」って驚きの体験をしていただけたらいいなと思っています。岩船港で揚がったヒラメが「白皇鮃(はくおうひらめ)」としてブランド化されているので、それを使わせてもらったりもしています。これからも村上の自然や生産者さんの魅力を「天ぷら」という調理法で、地元の皆さん、村上にいらっしゃる方々にお届けできるよう努めたいと思います。

 

 

 

天ぷら斉藤

村上市坂町3276-1

tel/090-7115-6906

※不定期営業のため、事前の電話予約を推奨しています。

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
  • 部屋と人
  • She
  • 僕らの工場
  • 僕らのソウルフード
  • Things×セキスイハイム 住宅のプロが教える、ゼロからはじめる家づくり。


TOP