「魚のアメ横」としても有名な寺泊魚市場。そのすぐ近くにある「長岡市寺泊水族博物館」では、ダイバーが水槽に潜って魚たちに餌を与える「餌付けショー」を開催しています。今回は餌付けダイバーとして活躍する、ふたりの若い女性にお話をお聞きし、「餌付けショー」の裏側を覗かせていただきました。
「長岡市寺泊水族博物館」は海の上に建つ水族館。空を見上げればカモメやウミネコが飛び、海の中に目を落とせば、小魚や海藻を覗くことができます。館内に一歩足を踏み入れると、大きなアカウミガメがお出迎え。他にも、ピラルクなどアマゾンに棲む魚や、カラフルな熱帯魚、太古から生き続けるカブトガニやオウムガイ、愛嬌たっぷりなマゼランペンギンなど、身近な寺泊の海に住む生物から世界各国の珍しい生物まで約300種が展示されています。
魚たちを楽しく紹介するために、いくつかのショーも実施されています。例えば「テッポウウオの餌取り射撃ショー」。水中から顔を出したテッポウウオが、口から飛ばした水で水上の餌を落として食べる様子を観察します。そうしてもうひとつの名物ショーが、今回ご紹介する「ダイバーによる餌付けショー」。「大回遊水槽」の中にダイバーが潜り、アジ、タイ、サメ、エイなどの大型魚たちに直接餌を与える様子を見ることができます。これは「長岡市水族博物館」で最も人気のあるショー。ダイバーが見えなくなってしまうほど、一斉に群がって餌を食べる魚たちの迫力に驚かされます。
「ダイバーによる餌付けショー」を支えているのは、専門学校の先輩、後輩でもあるふたりの女性スタッフ。2018年入社の盛山莉彩子(もりやまりさこ)さんと2019年入社の丸山来夢さんです。時間のない中、昼休みにお弁当を食べながら取材に対応してくれました。
盛山莉彩子 Risako Moriyama
1997年新潟市秋葉区生まれ。新潟ペットワールド専門学校卒業後、2018年より長岡市寺泊水族博物館の飼育員になる。趣味は映画鑑賞や読書で、ミステリー小説をよく読む。
丸山来夢 Raimu Maruyama
1999年三条市生まれ。新潟ペットワールド専門学校卒業後、2019年より長岡市寺泊水族博物館の飼育員になる。バレーボールやバスケットボールなど球技が好き。
——おふたりは水族館に就職する前に専門のトレーニングなどを受けてきたのですか?
盛山さん:動物に関わる仕事を学べる「国際ペットワールド専門学校」という学校の「ネイチャーアクアリウム海洋生物学科・海洋生物ドルフィン学科」で勉強しました。海洋生物の飼育やトレーニング法を中心に勉強する学科で、水族館の飼育スタッフやドルフィントレーナー、プロダイバーを目指す人が多いんです。
——それで「長岡市寺泊水族博物館」に入ったんですね。
丸山さん:私は専門学校在学中に研修でここに来て、その後も受付業務のアルバイトをしていたんです。就職を希望したんですが「今年は求人しない」と言われ、あきらめていたらちょうどダイバーの人が退職したので、急遽募集があって採用されたんです。
——それはラッキーでしたね。ダイビングの勉強は入社してからしたんですか?
盛山さん:いえ。専門学校で希望者のみダイバーの資格を取ることができるんです。ダイビングショップからインストラクターが来て、授業をしてくれるんです。
——まさにこの仕事をするための勉強をしてきたんですね。入社してからはすぐにデビューできるものなんですか?
盛山さん:デビューの前に2週間くらい練習期間があります。実際に餌付けショーの練習をするんです。
丸山さん:私は呼吸の仕方がうまくできなくて、かなり練習しました。
——呼吸の仕方って大事なんですか?
丸山さん:呼吸で体が浮いたり沈んだりするんです。息を吸うと肺に空気がたまるから浮いて、息を吐くと空気が減るから沈みます。私は息を吸いすぎちゃって、体が浮いてばかりいたので、練習して克服しました。
——実際に「餌付けショー」をやってみていかがですか?
盛山さん:最初は緊張したと思います。昨年までは私一人だったので、「餌付けショー」は土日のみ開催してたんです。今年から丸山さんが入ってダイバーがふたりになったので、毎日開催できるようになりました。かなり体力を消耗するので、家に帰るとぐったりです(笑)。
——大変な仕事ですね。「餌付けショー」はどんな流れでやっているんですか?
盛山さん:まずウェットスーツに着替えたらバックヤードに入って、あらかじめ用意してある魚の餌を、餌やり用のポリ容器に入れます。
盛山さん:それから大回遊水槽の天井に腰かけ、ゴーグル、フィンなどを装備し、最後に酸素ボンベを担ぎます。酸素ボンベは自分で担ぐことはできないので、他のスタッフに手伝ってもらいます。
盛山さん:準備ができたら上部から静かに水槽に潜って、餌付けショーを開始します。
——準備も大変ですね。「餌付けショー」の際に気をつけてることはありますか?
盛山さん:魚が餌を食べる様子をお客さんがよく見えるように、餌をお客さんの前に突き出すように気をつけています。あと、お客さん一人一人の顔を見るように心がけています。
——「餌付けショー」をしていて大変なことはありますか?
盛山さん:お客さんのリアクションが薄いと悲しい(笑)。あと、めったにないんですが、たまたまショーをやる水槽の前にお客さんが一人もいないこともあって、かなりせつなかったです(笑)
——それはせつない…。ちなみにショー以外の業務もやるんですか?
盛山さん:もちろんです。水槽の掃除や水温測定、魚の餌準備や餌やり、ペンギンの餌やりなど。ショーの合間にいろんな業務をするので、他の魚たちとも触れ合っています。
——「餌付けショー」で印象に残っている出来事はありますか?
盛山さん:ショーの後に水槽の掃除をしていた時、じーっと見ている小学生の男の子がいたんです。ふとした瞬間に目が合ったんですが、投げキッスをしてくれて(笑)。その後も目が合うたびに投げキッスをもらいました(笑)。
——かわいいエピソードですね(笑)
盛山さん:あと、ショーを見ていたお客さんから花束をもらったことが2回くらいありました。ショーをやってる最中に、水槽前に花束を置いてくれる人とか、ショーの後で受付に預けてくれている人とか。応援してもらえると、うれしくてやりがいを感じることができます。
——ファンがいるなんてすごいですね!
盛山さん:でも、ゴーグルとかで顔はわからないはずなので、別な人と勘違いされている可能性もありますが(笑)。
——(笑)。ダイバーとして今後の目標などがあったら教えてください。
盛山さん:お客さんにもっと楽しんでもらえるショーにしていきたいです。「長岡市寺泊水族博物館」のような小さい水族館ではできることが限られてしまうので、工夫して楽しんでもらえるようにできたらと思ってます。どんな風に工夫するかは、まだ考えている最中ですが。
丸山さん:私は背が小さいので見えにくいみたいで、後ろの方にいるお客さんが一生懸命背伸びしてるのが見えるんです(笑)。これから夏休みなどもあって、小さい子供もたくさん来るので、どんなお客さんにもショーがよく見えるように工夫したいです。
普段は表からしか見ることのできない、水族館の裏側を少しだけ覗くことができ、より水族館を深く知ることができるようになりました。ふたりの新人水族館ダイバーが、今後どんな餌付けショーを見せてくれるのか、とっても楽しみです。