今月から新潟のミュージシャンを紹介する連載[Things Music]がはじまります。記念すべき第1回目は笛人・本宮宏美さんの登場です。「笛人(ふえびと)」というスタイルでフルートを奏でる本宮さんに、フルートの魅力、「笛人」とはどんな仕事なのか、聞いてきました!
本宮 宏美 Hiromi Motomiya
1984年燕市生まれ。幼少期に左足の障がいで運動ができなかったため、音楽家を志すようになる。2006年新潟大学教育人間科学部学校教育課程卒業。小学校や高校の非常勤講師を務めながらフルート奏者の活動を続け、2011年に「オトノハコ」と出会い初のオリジナルインストアルバム「息吹」をリリース。以来「笛人」というスタイルのフルーティスト・ソングライターとして10枚のアルバムをリリースし、コンサート、イベント、各種メディアで活動を続けている。最近は家事の合間に楽しむ園芸でいろいろな作物を作り、気分をリフレッシュしている。
——今日はよろしくお願いします。早速ですが、本宮さんが音楽をやろうと思ったのはいつからなんですか?
本宮さん:4歳のときです。その頃、左足に先天性股関節脱臼が見つかりまして、病院に入院してギプス生活を送ったんです。私の家族は全員スポーツをやっていたので私もスポーツをやりたいと思っていたんですが、先天性股関節脱臼は運動に支障を来すことがわかって、あきらめて音楽家を目指そうと心に決めたんです。どういうわけか、そのときの私には「スポーツか音楽か」の2択しかなかったみたいなんです(笑)
——音楽っていうのはどこから出てきたんでしょうね?
本宮さん:母が昔からピアノ好きで、家中にピアノの音色が溢れる暮らしを、ずっと憧れていたみたいなんです。だから、わたしがピアニストになるのが親孝行になると思ったんです。
——じゃあ最初はフルート奏者じゃなくてピアニストを目指していたんですか?
本宮さん:フルートは中学生のときに吹奏楽部で出会ったんです。でも当時はピアニストを目指しつつ、遊びでフルートを楽しんでいた感じでした。本格的にフルートにシフトしていったのは、大学に入ってからです。
——そのとき、何かフルートに惹かれていくようなきっかけがあったんですか?
本宮さん:フルートを吹くと、まるで深呼吸するみたいに、生命の力を強く感じることができたんです。いろいろある思春期の心の乱れなんかも、フルートを吹くと浄化されるような気がしたんですよね。フルートのもつ、そういう生命力が、聴く人の心にも伝わったら嬉しいなと思ったんです。
——大学卒業後はどんな生活を送っていたんですか?
本宮さん:フルート奏者になる夢を捨てきれなくて、音楽を学ぶ資金を稼ぐためにも、まずは小学校の非常勤講師をしながら、家庭教師を毎週10件以上やっていました。でも仕事と夢の両立は非常に厳しくて、一年経った頃には心身ともにクタクタになってしまったんです。でも長く勤務するうちに少しずつ音楽活動の方に比重を置いていけるようになったので、小学校の先生を辞めて、今度は高校で音楽の先生を始めました。そしたら時間にも余裕ができて、フルートの活動もできるようになったんです。
——当時から作曲もやっていたんですか?
本宮さん:いいえ。当時は既存の曲を演奏していました。でも周りの人たちから「オリジナルを作曲してみたら?」って言われることが多かったんですよね。そんなときに「オトノハコ」ていう音楽制作会社と出会って、私の鼻歌を基にギターコードを作ってもらって曲ができたんです。「曲って私にも作れるんだ…」って実感しましたね(笑)。それで2011年12月にリリースしたのがファーストアルバムの『息吹』です。笛人スタイルの原点ともいえる表題曲が収録されています。
——その「笛人」っていうのは、どういうスタイルなんでしょうか?
本宮さん:それまでフルート奏者はオーケストラの1パートというイメージが一般的だったように思います。でもそうではなくて、フルートがバンドのセンターに立って、ボーカルが歌うように演奏するというスタイルを「笛人」と呼ぶことにしたんです。今まであるようでなかったスタイルだったので、注目されて仕事がたくさん舞い込みました。
——演奏のときはどんなことに気をつけてますか?
本宮さん:その質問、この前小学生にも聞かれました(笑)。真心をこめることを、何より大切にしています。真心をこめるというのは、決して、ああしたい、こうしたいと、いろんな私欲や邪念をつめこんで吹くのではなくて、限りなく無心になって、今ここで吹き込む音と、周りの空気との調和に、ひたすら集中することを大切にしています。
——今って何曲ぐらいあるんですか?曲作りって大変そうですよね?
本宮さん:90曲近くありますね。メロディは自分の中にあるものがパッと出て来るんです。でもその曲をそのまま使わずに、一晩置いてからさらに何通りも考えるんですよ。全く違う曲にするのか、最初に浮かんだ曲を貫き通すのか、最後のひとつに絞るのにはいつも苦労しますね。最終的には自分が一番吹きたいと思える曲を直感で選ぶようにしてます。
——なるほど。じゃあ曲作りにも慣れてきた感じですか?
本宮さん:作曲を続けているとコード進行や構成などの知識がついてくるんです。そうなると自分の曲作りに枠組ができていっちゃうんですよ。だからその枠組を外して新しいものを作るよう心掛けてますね。
——思い入れのある曲ってありますか?
本宮さん:まず最初に作った「息吹」っていう曲ですね。聴くたびに今までの9年間を思い出すことができる曲です。その翌年にリリースした「輝(かがやき)」も思い入れが強いです。この曲を前半まで作ったところで父が急逝したんです。後半の部分には、失う悲しみをはねのける強さが出せた気がしています。編曲作業のときアレンジャーのそばに亡くなった父が立って、いろいろ指示してきた、っていう話もあったりして…。普通では出せないような力で作られた曲ですね。最後に「ココロノ目」。他の楽器に頼らずにフルートだけでストーリーを表現することにチャレンジした曲です。とても難しい作業でしたけど、聴いた人から、「フルートだけの演奏なのに、バックの音が聞こえたように感じた」って言ってもらえてうれしかったです。
——それでは、本宮さんが思うフルートの魅力を教えてください。
本宮さん:呼吸(いき)ですね。フルートを吹くことは呼吸するのと同じで、呼吸っていうのは生きる力につながるんです。聴いている人たちにもフルートを吹く姿を見たり、音色を聴いたりして、一緒に呼吸して生きる力を受け取ってほしいと思っています。私の曲名にも「息吹」や「ココロノ目」といった「息」にちなんだ曲名が多いんです。「ココロノ目」は「息」という漢字を「心」「ノ」「目」に解体した言葉なんですよ。
——あ、なるほど。では最後に今後の夢を聞かせてもらえますか?
本宮さん:夢というか野望というか…。葉加瀬太郎さんの「情熱大陸」のテーマ曲みたいに、全国ネットのテレビ番組のテーマソングに私の曲が起用されたらうれしいですね(笑)。フルートでもそういうマッチングができたらいいなって思ってます。
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本宮 宏美