日本料理の大きな魅力に、四季を楽しめる美しさがあります。今回ご紹介する新発田市の「和食亭くに井」さんも、季節感を大切にし、彩りにこだわった料理で私たちを楽しませてくれます。あまり取材を受けないようにしているという國井さんに特別に取材を受けていただき、修業時代のエピソードやお店のこだわりについてお話を聞かせてもらいました。
和食亭くに井
國井 貴志 Takashi Kunii
1974年新発田市生まれ。阿賀野市の村杉温泉にある旅館や、東京都港区にあるホテルで日本料理を修業し、1998年より新発田市に戻って家業の「和食亭くに井」で働く。昨年よりゴルフをはじめた。
——こちらのお店は、いつ頃から営業されているんですか?
國井さん:創業26年を迎えました。新発田市内の割烹で40年間料理人として働いてきた父が、独立して開業した店なんですよ。
——じゃあ國井さんは二代目になるわけですね。最初からお店を継ごうと考えていたんでしょうか?
國井さん:私は和食じゃなくてフレンチをやりたかったんです。フレンチの料理人ってコックコートやコック帽がスマートに見えて、かっこいいじゃないですか(笑)。でも接客もやらなければならないと聞いて、しゃべるのが苦手だったので諦めたんです。
——それで和食の道に?
國井さん:阿賀野市の村杉温泉にある旅館で料理長をやっている方から誘われて、料理人として住み込み修業をすることになったんです。部下というよりも弟子という感じで、まさしく修業でしたね。犬の散歩や家の掃除、食事の支度、車での送り迎えなど、親方の身の回りのお世話までやっていました。
——昔ながらの師弟関係だったんですね。料理の修業はいかがでしたか?
國井さん:何人もいる料理人で分業しているんですけど、自分のやりたい仕事をやるために料理人同士で競争していましたね。そのためには、人より早起きして自分の仕事を終わらせなければなりませんでした。いろいろと厳しかったけど、礼儀作法や根性が身につきましたね。
——そこでの修業は長かったんですか?
國井さん:4年くらいでしたね。『料理の鉄人』という料理バラエティー番組に出演していた料理人の道場六三郎さんに憧れて、東京で修業をしたかったので、上京して港区高輪にあるホテルで働きました。そこの親方は道場六三郎さんの兄弟分と言われる料理人だったんです。
——すごい人の下で修業されたんですね。
國井さん:でも父が体調を崩してしまい、「和食亭くに井」を手伝わなければならなくなったので、1年ほどで修業を切り上げて新発田に帰ってきたんですよ。ただ修業期間は短かったんですけど、同じホテルで働いていたフレンチやイタリアンの料理人、パティシエと仲良くなれて、今でもその付き合いは続いているんです。
——いいご縁ができたわけですね。
國井さん:そうなんです。当時もそれぞれの料理について教えてもらったりしていましたし、今でも器を譲ってもらったりしているんですよ。私はSNSに疎かったんですけど、フレンチをやっている友人の勧めでインスタグラムをはじめたんです。私が店をやっていけるのは、いろんな人に助けてもらっているおかげだと思っています。
——「和食亭くに井」で料理を作るようになって、感じたことはありますか?
國井さん:東京で教わったのは出汁の味を生かした薄味の料理だったんですが、新発田のお客さんは濃い味を好むんです。最初は味付けの違いに戸惑って、合わせていくことに苦労しましたね。
——丁寧に作られているお料理は、見た目もきれいですよね。
國井さん:ありがとうございます。修業時代に「五味五色」を大切にするよう教えられたので、彩りも意識しながら料理を作るよう心掛けているんです。うちの店は庭園があるわけでもないので、せめて料理で四季を楽しんでいただきたいと思っています。
——それでカラフルなお料理なんですね。レンコンまで黒く染まっていますよ(笑)
國井さん:これはレンコンを煮るときにたまたま鍋がなかったので、代わりに鉄鍋を使ったら偶然黒くなったんです(笑)。黒い食材っていうのは珍しいので、それ以来レンコンを鉄鍋で煮て黒く色付けするようになりました。
——なんと、偶然生まれたものだったんですね(笑)。使う食材にもこだわっているんでしょうか。
國井さん:もちろんです。和の心を大切にしたいので、地元で採れる旬の食材を使って、四季を表現するようにしています。今回はサンマやイチヂク、シャインマスカット、かきのもとを使っていますね。枝豆もまだまだ美味しいんですけど、9月に入ったので季節に合わないと思って使いませんでした。食材だけじゃなく、器も季節に合わせて選んでいます。
——季節を先取りしているんですね。他にもこだわっていることがあったら教えてください。
國井さん:調理場はもちろん、店内を清潔に保つよう心掛けています。修業時代に「掃除をしながら料理を作れ」と言われ続けていたのが染み付いているんでしょうね。「魚を捌くだけなら料理人じゃなくてもできる。調理場をきれいに保ち続けたり、食材を無駄なく使ったりできなければ料理人とは言えない」と厳しく教わってきたんですよ。
——今までの修業がお店の営業に役立っているんですね。ところで、繁華街ではなく住宅街で営業するのって大変じゃないですか?
國井さん:大切な接待の席だったり、知り合いに会わず静かに食事を楽しみたい方が利用してくださっています。狭い町なので繁華街のお店だと誰かしらに会ったりするんですよ(笑)。常連のお客様には特にお世話になっています。
——常連さんがつくということは、それだけ気に入ってもらえているということですよね。
國井さん:2度目以降にご来店いただく際には同じ料理をお出ししないように、前回はどんな料理を召し上がったか、どんな料理が好きだったかを必死に思い出しています(笑)
——これから新しくやってみたいことってありますか?
國井さん:飽きっぽいところがあるので、新しい料理には挑戦していきたいですね。人とのつながりに助けられて今まで店を続けてこられたので、これからも周りの人への感謝を忘れず料理を作っていきたいと思います。
和食亭くに井
新発田市御幸町4-1-17
0254-22-7130
17:00-21:30
不定休