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クラシックを聴きながら育つ「渡辺果樹園」のぶどうやル レクチェ。

新潟県の誇る名産品にフランス産の洋梨「ル レクチェ」があります。甘く滑らかな果肉や芳醇な香りで人気があり、贈り物としても喜ばれています。そんな「ル レクチェ」を愛情込めて栽培しているのが、三条市にある「渡辺果樹園(わたなべかじゅえん)」です。秋晴れのなか収穫真っ只中の農園にお邪魔して、代表の渡辺さんから栽培や販売のこだわりを聞いてきました。

 

 

株式会社 渡辺果樹園

渡辺 康弘 Yasuhiro Watanabe

1964年三条市生まれ。農業者大学校卒業後、「渡辺果樹園」に就業。趣味は旅行とオーディオ。

 

ぶどうとル レクチェ専門の果樹園。

——お忙しいところ取材に対応していただき、ありがとうございます。

渡辺さん:今週末にル レクチェの収穫をしようと思っていたんだけど、かなりの確率で雨が降りそうだから天気のいい今日に前倒ししたんですよ。

 

——お天気は思い通りになりませんものね。

渡辺さん:天候は作物の成長に大きく影響しますからね。梅雨明けが遅れて夏の日差しを浴びることが少なければ果物に味が乗らないし、大きな台風が来たら手塩にかけて育てた作物の半分が落ちてしまうんです。でもくよくよすることはなくって、来年はその分も頑張ろうと気持ちを切り替えていますね。

 

——自然と付き合う仕事ならではの心構えを感じます。さて、まずは農園の歴史からお聞きしたいんですが……。

渡辺さん:申し訳ないんだけど、私がそういう昔話にまったく興味がないもんで、いつから続いているのかよくわからないんですよ。私でだいたい10代目くらいなんじゃないかと思います(笑)

 

——10代目……かなり長く続いてきた農家さんなんですね。以前から果物の栽培をしていたんでしょうか?

渡辺さん:米と果物を作ってきたんだけど、父の代で果物専門の農家になりました。そのタイミングでぶどうや和梨の他に、ル レクチェの栽培もはじめるようになったんです。

 

——ル レクチェの栽培をはじめたいきさつを教えてください。

渡辺さん:父はずっとル レクチェに興味を持っていたようで、母方の本家に教わりながらはじめたんです。その本家というのが、新潟県内でル レクチェの栽培をはじめた先駆者のひとりだったんですよ。

 

 

——そんな方がご親戚に。渡辺さんは最初から農園を継ぐつもりでいたんですか?

渡辺さん:子どもの頃からずっと継ぐように言われてきたので、自分でもそのつもりでいました。若い頃は人と接することが苦手だったので天職だと思いましたね(笑)

 

——今では面影も感じさせませんね(笑)。ところで、今は和梨の栽培をしていないようですけど……。

渡辺さん: 15年前に父が他界してから和梨を辞めてぶどうとル レクチェにしぼり、農地の面積も3分の2に縮小したんです。

 

——それはどうしてなんでしょう?

渡辺さん:観光果樹園やインターネット通販をはじめたことで、果物を直売できるようになったんです。ただ、それによって利幅は増えたものの、受注や発送、販売の業務が増えて時間を取られるようになったので、広い面積の農作業が難しくなったんですよ。

 

——なるほど。

渡辺さん:今まで広げてきた農地を縮小することには抵抗を感じましたけど、伸び代のある作物にしぼることで品質や収穫量を伸ばしていこうと決心して、思い切って農地面積を縮小することにしました。

 

作物にバッハやモーツァルトを聴かせる。

——果物の栽培をする上で、こだわっていることがあったら教えてください。

渡辺さん:とにかく美味しい果物を作るために、いいと思う方法はいろいろと試しています。その上で改良を重ねて、より良い方法を探しているんです。

 

——例えばどんなことでしょう?

渡辺さん:まずは作物を育てる基本になる土作りです。籾殻に粉砕したお米、竹パウダー、蟹殼、きのこを育てた後の廃菌床、高炭素水溶性堆肥を混ぜて土に蒔いています。そうすることで健康な土壌ができ、無駄な農薬や肥料を使わずに果物を育てることができるんですよ。

 

——へぇ〜、随分といろんなものを混ぜているんですね。でも、農薬は使わないわけにはいかないですよね。

渡辺さん:環境に負担がかからないよう、散布回数を減らす努力を重ねています。農薬を使わないために、醸造酢、納豆菌、乳酸菌、酵母菌などの自然由来物質を試しながら、改良を続けているんですよ。

 

——果物に対する強い愛情が感じられますね。

渡辺さん:あと、ぶどうやル レクチェにバッハやモーツァルトの曲を聴かせているんです。

 

 

——なんと……。

渡辺さん:元々は畑仕事のときに作業用BGMをスピーカーで流していたんです。あるとき福島県の喜多方へドライブした際に見学した酒蔵で、酵母にモーツァルトの曲を聴かせている話を聞いたんですよ。そこで成熟期のル レクチェにモーツァルトを聴かせてみたら、成熟の遅れが少なくなりました。

 

——ええっ、音楽の力って偉大なんですね。

渡辺さん:趣味のオーディオがはじめて仕事で役に立ちましたね。そういった取り組みが果物の生育に効果を発揮できていると断言することはできないんですけど、愛情を持って掛けている手間は付加価値としてお客様に認めていただけていると思います。

 

新潟発祥のル レクチェに誇りを持って育てていきたい。

——工夫をしながら果物の栽培をしていることがよくわかりました。販売する上でも工夫していることってあるんでしょうか?

渡辺さん:ぶどうやル レクチェは贈り物として使われることが多いので、贈られた人に喜んでもらえるような化粧箱を作りました。ドンペリニヨンの化粧箱をイメージした高級感あるデザインを複数のデザイナーに作ってもらって、そのなかから選ばせていただいたんです。

 

——贈られたら嬉しい化粧箱ですね。

渡辺さん:どうしたらお客様に喜んでいただけるか……そればかりを考えています。小家族化が進んでいるなか、もっと贈りやすい商品にしたいと考えたのがル レクチェ2玉セットです。コロナ禍には家内のアイデアでドライブスルーもはじめました。

 

 

——お客さんに寄り添った商品やサービスなんですね。

渡辺さん:私は昔から人の顔色を伺うのが得意だったので、お客様の反応を見たり果物の様子を観察したりすることに生かせていると思います(笑)

 

——「畑の朝カフェ」という取り組みもおこなっているんですよね? どういったものなのか教えてください。

渡辺さん:燕三条エリアといえば、洋食器や刃物といった金属加工品で有名なんですけど、農業も盛んだということをアピールするためにはじめた取り組みなんです。朝の農園で気持ちの良い空気を味わいながら、作物についての話を聞いたり、農業体験をしたり、朝食を楽しんでもらったりしています。テーブルやカトラリーも地元産の製品を使って、燕三条全体のアピールをしているんですよ。現在は8カ所の農園で開催しています。

 

——なんだか楽しそうですね。最後に果物に対する思いをお聞かせください。

渡辺さん:ル レクチェのシェアは全国の8割を新潟県が占めていて、その大半は信濃川下流域で栽培されているんです。しかも新潟市南区や加茂市、三条市は、栽培をはじめた発祥地でもあります。こんなに栽培の難しい作物が定着したのも、信濃川の氾濫によって豊かになった土地や、収穫後の追熟に適した気温といった要素の他に、新潟県民の真面目さや粘り強さがあったからだと思うんです。新潟の皆さんはル レクチェをもっと誇りに思ってほしいし、私も誇りを持って栽培していくつもりです。

 

 

 

渡辺果樹園

三条市井戸場143

0256-34-5470

9:00-12:00/13:30-17:00

不定休

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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