素朴な生成り木綿の巾着袋を開くと、一面に広がるかぐわしい木の香り。村上市街に工房を構えるオーダーメイド木箱店「Woodbox Tera(ウッドボックス テラ)」が手掛ける、オリジナル商品「つみっきー」。昨年春のリリース以来ジワジワと人気を集め、現在では地元の子育て施設にも導入が進んでいます。流行の携帯ゲーム機などとは対極にある、数センチ角の規則的な木片という超シンプルなおもちゃですが、だからこそ想像力次第で遊び方は無限大。またプラスチック製のブロックなどと比べても、安心して遊ばせることができるだけでなく、木製ならではの手馴染みや経年の味を楽しむことができます。商品に込めた思いについて、店長の木工職人・寺澤さんに聞きました。
Woodbox Tera
寺澤 尚隆 Naotaka Terasawa
1980年長崎県諫早市生まれ。高校卒業後、大工、木箱製造業者での修行を経て2014年に独立し、オーダーメイドで木箱を製造・販売する「Woodbox Tera」を開業。地元産材にこだわり、一からオーダーできる木箱や商品棚が地元商店主らに好評を博しているほか、3児(小6-年長)の父ならではの視点で開発した、木の温もりを感じるおもちゃも注目を集めている。
――「つみっきー」、人気ですね。
寺澤さん:ありがとうございます。催事出店時は1,000本以上の「つみっきー」をシートの上にバサッと撒いて、子どもたちに自由に遊んでもらっています。木まみれになりながら楽しんでくれる姿を見るのは本当に嬉しいですね。またこの商品、気軽に数を買い足せるのも特徴のひとつで、工房の近所に住む年配の方なんかは、「孫に送るんだ」と定期的に買い足しに来てくれたりもしています。喜んでもらえて何よりです。
――そもそも、商品化の目的は?
寺澤さん:元々ずっと、木で何か子ども向けのおもちゃを作りたいという思いが頭の中にあったんです。開業以来のウチの看板商品のひとつで、出産祝いとしてお買い求めいただくことの多い「にこにこおもちゃbox」の中身、ですね。Boxもそうですが、幼いうちから木に親しんでもらいたいので。
――それが、どうして現在のような形に?
寺澤さん:工房に小さい子が遊びに来るとほぼ決まって、端材コーナーで遊び始めるんですよ。大きさも何も揃っていないし、もちろんそれ用に作られたものではないのに、勝手に何かに見立てて、木片を積んだり組み合わせたり・・・。それを見て、ならば端材で積み木を作ったら楽しんでもらえるんじゃないか、と。もちろん、本来は商品にならない端材を簡単に有効活用できるかも、という下心(笑)もありましたが、今ではむしろ「つみっきー」用の材料を調達しているくらいですね。
――製品化にあたって、こだわったポイントは?
寺澤さん:まず、あえて「面取り」(木材の角を削って丸くすること。家具をはじめ人の手が触れる木製製品は殆どこの処理が施されている)をしていません。子どもが触れるものなのに危ないじゃないか、と思われるかもしれませんが、子どものうちから、木の強い感触、また木が手に「馴染んでいく」過程をしっかり感じてもらいたかったんです。いわば「木育」の一環ですね。実際、最初は確かに強く握るとちょっと痛いですが、スギ特有の柔らかさもあって、使っていくうちに次第に熟(こな)れてきて、いい感じになります。プラスチックや金属などにはない、木材ならではのものです。
――あと、木の匂いもすごいですね。
寺澤さん:そうですね。材木に取り囲まれた工房では鼻が麻痺してあまり気付きませんが…(笑)、袋や箱から「つみっきー」を出したとき、一面にかぐわしい木の香りが広がって気持ちいい、と購入された方の多くから反響をいただいています。また、こちらは想定していなかったのですが、「音がいい」ともよく言われます。確かに、柔らかい木材同士が当たった時の、あの独特の乾いた優しい音は、何ともいえない魅力がありますね。中には、苦労して組み上げたものを崩す時の音が快感という方もいます(笑)。
――ほかにこだわりポイントはありますか。
寺澤さん:さっきの「面取りをしない」という話の続きになるかもしれませんが、できるだけ手をかけずに、木の特徴をそのまま出したものにしました。塗装もしていません。決して手を抜いているわけではなく(笑)、先に挙がった匂いや音も含め、なるべく木のそのままを身近に感じてほしいので。子どもであれば特に、です。長い目で見てもらって、馴染み具合や風合いの変化も込みで楽しんでもらえれば、と思います。
――遊び方については?
寺澤さん:それはもう本当に、自由にやってもらうのが一番です。人によって遊び方は無限大です。催事では、みんなで協力して大きなものを組み上げる子たちもいれば、一人で黙々と自分の世界を作り上げていく子もいたり。プラや金属に比べ、投げても踏んでも威力はなく、大して痛くありません。安全なので、安心して熱中してほしいですね。
――地元産の材料にもこだわりがあるそうですね。
寺澤さん:そうですね。この「つみっきー」に限らずウチの商品はほぼ全て、材料に地元・村上産のスギ材を使用しています。安全で質の良い材料が豊富に、輸送コストの乗らない価格で手に入るというメリットはもちろんありますが、地元の森林整備に少しでも貢献したいという思いもあります。森林伐採=環境破壊のイメージも今や遠い昔のことで、現在はむしろ逆に適度な間伐がなかなか進んでいないことが問題となっていることはご存知ですよね? 森林整備をさらに進めるには、地元木材の消費促進が不可欠なのです。村上は鮭のまちとして知られていますが、鮭が遡上するようなきれいな川も、整備の進んだ森林があってこそ。少し大それた言い方になりますが、地元の木を使うことは地元の食文化を守ることにもつながると思います。またここ村上は、新潟県内のスギ材の生産量の半分を占めている名産地のひとつでありながら、正直まだ産地としての知名度は今一つです。私も商品を通して、微力ながら村上産スギ材の知名度向上に貢献できれば、と思っています。
――今後の展望は。
寺澤さん:「つみっきー」が村上を代表するおもちゃ、あるいはお土産のひとつになるのが理想ですが(笑)、子どもたちが「木まみれ」になれるような体験教室をもっと開けたらな、とは思っています。
――まさに「木育」ですね。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
■主な商品(価格は税込み)
つみっきー 2260円(60枚、巾着袋入り)
にこにこおもちゃbox 5620円
ワイン木箱 2030円~
にこにこポット 960円
そのほか、オーダーメイドで応相談