ここ最近、「カーボンオフセット」の潮流や「ウッドショック」の影響などにより、メイド・イン・ジャパンの木材が改めて見直されています。中でも、材木を接着剤で貼り合わせてつくる「集成材」は、原木のロスを減らし効率的に活用できることから、「SDGs」的な観点からも注目を集めています。新潟県内屈指の林産地・村上市の瀬波温泉街から少し入った場所に工場を構える「山新林業」は、国産のスギ材を中心とした集成材メーカーで、今年創業50年を迎えるそうです。近年は一般消費者向け製品の販売にも乗り出しているという同社の瀬賀社長と斎藤部長に、工場を見学させてもらいながらいろいろお話を伺ってきました。
山新林業
瀬賀 俊也 Toshiya Sega
1960年村上市生まれ。山新林業の代表取締役社長。首都圏のガラス加工メーカー勤務を経て帰郷し1985年に入社、2009年から社長を務める。趣味はかつて自身もやっていたバスケットボールやバレーボールなど球技全般のスポーツ観戦のほか、3人の孫と遊ぶこと。
山新林業
斎藤 博巳 Hiromi Saitoh
1965年村上市生まれ。製造部の統括部長でSNS運用など情報発信部門も担当。1984年に高校新卒で入社し、もうすぐ勤続40年。若い頃からバイク好きで、子育ての落ち着いた近年、大型免許を取得するなど本格的に再開。
――本日はよろしくお願いします。いきなりですが、まず基本のキから教えてください。そもそも「集成材」ってどんなものなのですか?
瀬賀さん:ごく簡単に言えば、木を接着剤で貼り合わせて作った木材のことです。木特有の節や割れなどの欠点を取り除きつつ、人工素材にはない木本来の温もりが感じられる、いわば木の「いいとこ取り」をした素材といえるかもしれません。木でありながら自由な形状や長さ・太さにできて、品質や強度の安定性も高いので、現在では一般住宅から大型建築物まで幅広く利用されています。
――ふむふむ。継ぎ目があると分かりやすいのですが、中にはそれがないものもありますが、それはどうやって作っているんですか?
斎藤さん:角材をまとめたものの表面に薄板を化粧貼りしているんですよ。
――山新林業さんは今年で創業50年ということですが、集成材というのはそんなに前からあったんですか?
瀬賀さん:弊社はもともと建具の製材業から出発したのですが、昭和40年代に当時はまだはしりだった集成材の製造にいち早く乗り出しました。創業メンバーら当時の世代の先輩たちに聞いた話では、単に製材して余った部分を廃棄するのが「勿体ない」と感じて、「原木をより効率よく活用できないか」と集成材に目を向けたとのことです。現在はもうなくなりましたが、当時は、強度がない、すぐ割れるといった偏見や、「まがいもの」というイメージの払拭にも苦労したようです。
――そうなんですね。
瀬賀さん:それから次第に集成材の製造へ特化していき、昭和47(1972)年には法人化し、翌年には工場がJASの認定も受けました。おかげさまで2022年はその法人化から50年を迎えることになります。
――会社の変遷をもう少し詳しく教えていただいても?
瀬賀さん:当初は「長押」など和室の化粧梁をメインにハウスメーカーさんへ納めていましたが、生活様式の変化とともに和室の需要が低下してきたことから、洋室にも使える輸入広葉樹の製品も手掛けるようになりました。ただ近年は、原点に立ち返るというか、国産材に改めて回帰しているといえるかもしれません。
――その回帰は、やはり「ウッドショック」の影響もあるのでしょうか。
斎藤さん:そうですね。もともと工場はフル稼働状態でしたが、ウッドショックが本格化してからはそこからさらに輪をかけて忙しくなったかもしれません(苦笑)
瀬賀さん:輸入材の供給不足によって国産材に注目が集まっているのは、我々のような地場のメーカーにとってはチャンスといえます。ただ林業は、植林から採取まで数十年、百年単位の長いサイクルで回っているので、いま需要が高まっているからといってすぐに製品を用意できるわけではありません。また丸太を仕入れて製品化するにしても、どうしても乾燥という工程を経なければならないので即応が難しいという面もあります。端的に言えば、もう作れる量はある程度決まっちゃっているんですよ。
――なるほど。また近年は世界的にも「カーボンオフセット」の潮流がさらに高まっていますが、その影響は?
瀬賀さん:その面でも、我々の出番がもっと増えるのではないかと期待しています。木材の消費拡大は森林整備を推進しCO²の吸収量増加にも貢献します。また、改めて考えてみると集成材自体がもともと、木材をムダなく有効活用している究極のエコ製品ですしね。
――ところで、工場や事務所を拝見すると、木工品やDIY用材、苔玉など、一般消費者向けの製品もちらほら目につくのですが。
斎藤さん:そうですね。うちの会社のことを地元の方にもっと知ってもらおうという意味も込めて始めました。コロナ禍で在宅時間が増えたこともあってか、おかげさまで様々引き合いをいただいています。販売会を開催したりイベントに出展したりしているのですが、今後は常設で直売所のようなものもできればいいなと考えています。
――ちなみにこの漆塗り?の小さな箱みたいなものは何ですか?
斎藤さん:こちらは地元の伝統的工芸品「村上木彫堆朱」のスマホスタンド兼スピーカーです。
――堆朱のスマホスピーカーですか?
斎藤さん:弊社で地元の職人さんに木地を供給しているんです。内側で音を反響させ、きれいな音が出るんですよ。彫りと塗りを施した完成品が地元の堆朱店さんで注文できますから、ぜひどうぞ。
――贅沢な逸品ですね。手が届くかどうか(苦笑)。でも確かに、コロナで「おうち時間」が増えたことで、木をはじめとする自然の素材を生活空間に採り入れようという気運は高まっているかもしれませんね。
瀬賀さん:木を見ると単純に心が落ち着き、癒されますよね。木から分泌されるフィトンチッドという成分にはリラックス効果や消臭・抗菌の効用があることも知られています。
――今後の展望を教えてください。
瀬賀さん:国産材、地元産材の製品をさらに強化していきたいですね。いま、地元の林業に携わる若手が中心になって地場のスギ材を「いわふね杉」としてブランド化しようと取り組んでいます。越後杉の認証制度が廃止されてしまった今、良質なスギ材の産地として地元をPRしようと将来を担う若手から声が上がったことはとても心強く感じますし、弊社も協力していければと思っています。これまで述べてきたように、今は木を取り扱う業種にとっては様々な面で追い風が吹いていると言えます。これを好機に、自社の強みを活かしながら、攻めの姿勢でさらに木材の地産地消・消費拡大に貢献できればと思っています。
――本日はありがとうございました。