今年4月、新潟市東区にオープンしたばかりのラーメン店「麺屋玄洋」。貝ダシを使った塩ラーメンが食べられる!ということで、気になって早速、取材させてもらいました。お話を聞いてみると、店主の佐久間さんは東京でプロのキックボクサーを目指していたのだそう。なぜラーメンの道に進み、新潟でラーメン店をオープンすることになったのか。そのいきさつを聞いてきました。
麺屋玄洋
佐久間 博文 Hirofumi Sakuma
1983年新発田市生まれ。東京の大学に通いながらプロのキックボクサーを目指していたが怪我によって断念。当時アルバイトしていたラーメン店の店長に刺激を受け、ラーメンの道に進む決意をする。2020年4月、新潟市東区に「麺屋玄洋」オープン。Dragon Ashの大ファンで以前は年に数回ライブに行っていた。
——佐久間さんはどんなきっかけでラーメン屋さんを目指したんですか?
佐久間さん:じつはラーメン屋って世の中で一番なりたくないと思っていた職業なんですよ。
——えーっ、それはどうしてなんですか?
佐久間さん:大学時代にプロのキックボクサーを目指してジムに通っていて、練習が終わってから夕飯を食べに行くラーメン屋があったんです。ところが、そのお店のスタッフたちが元気もやる気もなく働いている姿を見て、こんなつまんなそうな仕事は絶対やりたくないって思ってたんですよ。
——そうだったんですね。それがどうしてラーメン屋さんになったんですか?
佐久間さん:私のスパーリングパートナーをやってくれていたジムの先輩が、ラーメン屋でアルバイトを始めたんです。一緒に練習する相手なので、生活リズムも合わせた方がいいということになって、私も先輩と一緒にラーメン屋で働くことになったんです。ところがそんな矢先、スポンサーもついて、さあこれからってときに、パンチドランカーになってドクターストップがかかってしまったんですよ。
——それは…ショックですね。夢を諦めなければならなくなったんですよね?
佐久間さん:そうなんです。気持ちと体が離れていくような感覚の中で、どんどん生活が荒んでいったんです。東京にいる意味もなくなってしまったから、もう新潟に帰ろうと思ってアルバイト先だったラーメン屋の店長に話したら「せっかく東京に出てきて何も成さずに新潟へ帰るのか? 帰る前にうちの店で夢中になって働いてみろ!」って言われたんです。その言葉を聞いて「よし、やってやろう!」って思いました。
——なるほど、店長さんの言葉に救われたんですね。
佐久間さん:そうですね。とても人間的な魅力に溢れた人で、芸能人をはじめいろんな人たちに慕われていました。そんな店長の姿を見ているうちに、つまらなそうな仕事と思っていたラーメン屋に対する意識が変わって、キックボクシングと同じように自分を表現できる場になるんじゃないかって思えてきたんです。
——それで本格的にラーメンの道に進んだんですか?
佐久間さん:はい。もっとしっかりラーメン作りを学ぼうと思って、有名なラーメン店で修行することにしたんです。そこはとても厳しい店でしたね。最初の頃に作業台を拭き掃除したんですが、自分ではきちんと拭いたつもりだったのに拭き残しがあったんです。それを見つけた師匠に思い切り頭を叩かれて、こう言われました。「この拭き方にお前の今までの生き方が現れている。これから俺がその生き方を叩き直してやる!」それからは色々なもので実際に叩かれながら修行を続けました。ボクシングのおかげでその軌道が見えるから避けられるんだけど、おとなしく叩かれ続けました。
——東京じゃなくて新潟でラーメン屋さんを始めたのはどうしてなんですか?
佐久間さん:父親が亡くなったんです。私は仕事で帰ることもできず、死に目に会うことができなかったんですよ。その後、新潟に帰ったときに母親の落ち込みようを目にして、そばにいてあげることが唯一の親孝行なんじゃないかって思ったんです。父が亡くなった日は私の誕生日だったので「後は頼んだぞ」っていうメッセージのように思えました。だから店名には父の戒名からとった「玄洋」って言葉を使わせてもらったんです。
——そんな経緯があったんですね…。店舗物件はスムーズに見つかったんですか?
佐久間さん:いやぁ…1年くらい探し続けましたね。10席くらいの店舗を探していたんですが、新潟って広い店舗が多いんですよ。でも、私はお客様一人一人の顔を見ながらラーメンを作りたいっていう思いがあったから、店の広さにはこだわりました。その甲斐あって、この物件を紹介されたときは「ここだ!」って思いましたね。
——自分でお店を始めて大変なことってありますか?
佐久間さん:これまでは師匠のお客様を相手にラーメンを作っていたんですけど、今度は一から自分の味で勝負しなければならないので不安はありましたね。でも、最近ではリピーターも増えてその不安も少しずつ解消してきました。以前来てくれたお客様が、今度は自分の両親を連れて来てくれたりするとすごく嬉しいですね。
——リピーターってことは自分の味が認められたっていうことですもんね。
佐久間さん:うちの店に来てくれたお客様には、笑顔になって帰ってもらいたいんです。そのためにも師匠にいわれた「1/100の仕事をするな。1/1の仕事をしなさい。大切な人のために作るようにラーメンを作りなさい」っていう言葉を守っています。
——さて、ではラーメンのお話を詳しく教えてください。コンセプトとかってあるんでしょうか?
佐久間さん:師匠の作る塩ラーメンに感動して店に弟子入りしたので、その「塩ラーメン」を極めたいと思っています。オープン前から試行錯誤して、ようやく貝と鴨の組み合わせにたどり着いたんです。新潟を盛り上げたいという気持ちもあるので、日本海の幸を使ったラーメンにもこだわってますね。
——おすすめのメニューは?
佐久間さん:まず看板メニューの「貝塩ラーメン」。貝をメインにして鴨を下支えにダシをとったスープです。1種類だけじゃなく、何種類もの貝を使うことで味の複雑さや層の厚みを出してます。塩ダレにも、笹川流れの藻塩、広島の藻塩、フランス産岩塩といった3種類の塩を使って単調にならないようにしてます。
——他にもおすすめはありますか?
佐久間さん:「カキの油そば」もおすすめですね。鴨の油にカキの煮干しを加えて、塩ダレにもカキの煮干し、イタヤ貝を入れて作ります。そうすることでカキの香りや甘みが濃厚になるんです。そのままでも美味しく食べれるんですが、鴨のスープにつけてつけ麺として食べたり、カキペーストを混ぜて食べることで味変を楽しむこともできるんです。
——今後やってみたいことってありますか?
佐久間さん:つけ麺専門店として2号店を展開したいです。濃厚な動物系のスープを使って、アワビの肝でビターな味に仕上げたつけ麺を考えています。あと、夢を持って頑張っている人たちを何かのかたちで応援したいと思っています。そのために私ももっとみんなから慕われるような、魅力的な人間にならなければって思ってます。
プロボクサーの夢を諦め、一番なりたくないと思っていたラーメン屋さんを目指すことになった佐久間さん。修業先のラーメン屋さんで、人間としての魅力やラーメン作りの姿勢を学び、新潟で「麺屋玄洋」をオープンしました。一人ひとりの顔を見ながらラーメンを作り、お客さんには笑顔になって帰ってほしいという気持ちで日々営業しています。ぜひ塩ラーメンのチャンピオンを目指して、これからも美味しいラーメンを作ってください。
麺屋玄洋
〒950-0036 新潟県新潟市東区空港西1-15-10
025-282-5110
11:00-15:00
月曜休