「獣医」とひとくちに言ってもいろいろな動物ありますが、今回ご紹介するのは「牛」のお医者さん。三条市にある「TAROファームケアクリニック」は、牛の繁殖改善がメインの動物病院なんです。院長の佐藤太郎先生に、牛を診療することの難しさや酪農家の人たちに対する思いを聞いてきました。
株式会社TAROファームケアクリニック
佐藤 太郎 Taro Sato
1969年胎内市生まれ。北海道の「酪農学園大学」で学び、新潟県に戻って三条市下田にある「新潟県総合研究所 畜産研究センター」の研究員として繁殖関係の研究。2010年三条市に「TAROファームケアクリニック」を開業。大学時代から30代までアメリカンフットボールをやってきたスポーツマン。
——先生はどうして獣医を目指そうと思ったんですか?
佐藤さん:僕の実家が酪農家だったんですよ。それで、よくうちに来て牛の診察をしていた獣医の姿を見て、憧れていました。酪農家にとっては動物の命が家庭経済にもつながるわけですから、動物の命を助けるということは、酪農家の命を助けるのと同じことなんです。
——なるほど。じゃあ子どもの頃から獣医を目指してたんですね。
佐藤さん:実は高校生の頃までは、実家の酪農家の仕事を継ごうと思ってました。でも、父親とは違った生き方をしてみたいと思うようになって。そのとき思い出したのが、子どもの頃に見た獣医の姿でした。獣医だったら父親みたいな酪農家の人たちの役に立てるかもしれないと思ったんですよ。
——獣医の勉強はどこでしたんですか?
佐藤さん:北海道の酪農学園大学で学びました。卒業した後は新潟県に戻って、当時の下田村にあった「新潟県総合研究所 畜産研究センター」で研究員として10年間、牛の受精卵と繁殖関係の研究をしてました。わかりやすくいえば産科の不妊治療のようなものかもしれませんね。
——ごめんなさい、ピンとこないんですけど、例えばどんな研究をするんでしょうか?
佐藤さん:健康で乳をよく出す牛とか、肉質のいい牛とかを効率よく妊娠、出産させる研究です。そういった能力の高い牛や質のいい牛っていうのは、血統によるところが大きいので、掛け合わせることで生み出していくわけですよ。体外受精させることで生産性を上げる研究もしてきました。
——「TAROファームケアクリニック」を開業したのは、どんなきっかけがあったんですか?
佐藤さん:僕が働いていた「畜産研究センター」はしばらくすると転勤があって、まったく違う仕事になってしまうんですよ。私はそれでも10年間いることができたんですけど、自分が研究してきたことをもっと酪農家のために生かしたいと思って、2010年に「TAROファームケアクリニック」を開業しました。
——こちらではどんなことをされているんですか?
佐藤さん:牛の往診や手術、それからずっと研究を続けてきた繁殖の研究を生かした獣医療です。獣医師の仕事っていうのは病気の牛を治すことですよね。それってマイナスをゼロにすることだと思うんです。けっしてプラスになることはないんですよ。僕は牛が病気にならないように改良することで、酪農家のプラスになるようにしていきたいと思ってるんです。
——なるほど、牛を仕事にしている酪農家さんたちへの貢献という気持ちが強いんですね。
佐藤さん:当院の経営目標は「農家と共に歩み、サイエンスを通して畜産に貢献する」っていうもので、まさにこの言葉の通りですね。牛の体ってブラックボックスみたいなもんで、よくわからない部分がとても多いんですよ。検査するにしてもレントゲンやCTスキャンなんて使えるような大きさの体じゃないから、せいぜい血液検査やエコー検査くらいしかできないわけです。エコーにしても届く範囲が限られてます。だから今までは勘とかこれまでの経験とかで診療することが多かったんです。でも僕は科学のフィルターを通して、しっかりと根拠のある改善策を提案していきたいと思ってるんです。
——なるほど。それが「サイエンスを通して畜産に貢献する」っていうことなんですね。
佐藤さん:はい。開業当初はその言葉だけが経営目標だったんです。でもしばらく続けているうちに、僕だけがそういう考えで動いていても、酪農家の人たちと認識を共有しないとうまくいかないことがわかってきたんです。それで「農家と共に歩み」っていう言葉を追加したんですよ。
——牛の診療をする上で難しいことってどんなことですか?
佐藤さん:牛も人間と同じで個体差があるんです。性格、病気、環境がそれぞれ違うんです。その中でも環境を治すことがいちばん難しいかもしれませんね。たとえば分娩後の牛は成人病に似た状態になるんです。乳量が出るようにたくさんエサを与えるんですが、うまくコントロールしてあげないと病気になってしまいます。エサの与え方を改善することが大事になってくるんですが、改善の提案を受け入れてくれるかどうかは酪農家との信頼関係にもよるんです。ですから信頼関係を築くのが大切なんですよね。
——牛も人間も生活環境が健康に影響を及ぼすんですね。ではやりがいを感じるときってどんなときですか?
佐藤さん:病気になった牛を救うことができて、酪農家の役に立てたときですね。あと牛の改善をしたことで、酪農家の経済状態が良くなってきたときはうれしいです。酪農家って働く時間が長くて休みが少ないんですよ。その上収入も少なきゃ農業人口は減っていく一方ですよね。働いただけの収入はちゃんともらうべきだと思うし、酪農家の人たちにはいい車に乗ってほしいと思ってます(笑)。そのためにも酪農家に寄り添った診療をしていきたいと思ってます。
——常に酪農家のことを考えているわけですね。では最後に、これからやってみたいことってありますか?
佐藤さん:もっと牛に関する検査の業務を増やして、健康状態がチェックできるようにしていきたいですね。それも含めて牛の健康に関わるサービスをトータルで酪農家に提案していきたいと思っています。
常に牛の健康や酪農家の経済のことを考え、科学的な改善方法を提案している「TAROファームケアクリニック」の佐藤先生。お話をしていても、どっしりした安心感と頼もしい雰囲気があって、牛からも人からも信頼される人柄を感じました。これからも酪農家の方々が豊かになるよう、たくさんの牛を助けてあげてください。
株式会社TAROファームケアクリニック
〒955-0082 新潟県三条市西裏館2-11-32
0256-36-2928
9:00-18:00
日曜祝日休