築50年以上経つビル長屋が立ち並ぶ「駅前楽天地」。突き当たりの角に「居酒屋ナカマチ」はあります。居酒屋でありながら本格的なラーメンが食べられるというこのお店。ラーメンを始めることになった経緯やお店のこだわりについて店長の徳永さんに聞いてきました。
居酒屋ナカマチ
徳永 真 Makoto Tokunaga
1978年新潟市生まれ。10代の頃から居酒屋、ビストロ、カフェなどさまざまな飲食店で経験を積み、24歳のときに独立。西堀で「雑多居酒屋 しののめ」を始める。その後も食堂などさまざまな飲食店を経営し、9年前に「居酒屋ナカマチ」をオープン。
——まずはこのお店を始めることになった経緯を教えてください。
徳永さん:24歳のとき、西堀で今も続いている「しののめ」っていう居酒屋をはじめたんです。しばらくしてその店は他の人に譲ることにして、今度は違う場所で食堂をやっていました。だけど思うようにいかなくて、「飲食の仕事やめちゃおうかな」って思っていたんです。そんなときに、以前一緒に働いていて、そのとき独立して上越で同じ「しののめ」の名前で居酒屋をやっていた方が、「一緒に店をやらないか」と誘ってくれたんです。それで「居酒屋ナカマチ」を始めたんですよ。
——最初に「しののめ」で独立されたときは、まだ24歳だったんですね。
徳永さん:駅南にある「ビストロ・DE・またのり」さんが、以前古町で「鯨の胃袋」っていうお店をやっていたんです。そこがすごい好きで、「こういうお店ができたらいいな」と思って、自分の店を始めました。あとまあ、従業員をやって人から怒られるのが嫌だったんですよね。子どもっぽいかもですけど(笑)。自分でも考えが甘かったなと思うんですけど、そのときは「できるだろう」と思ってたんです。実際そのときに始めた「しののめ」は、他の人に譲った今も続いているので、後悔はしていないです。
——居酒屋をやることにしたのは?
徳永さん:そもそも居酒屋で飲むのが好きだったんです。出てくる酒の肴とかで季節を感じられたり、お酒と料理の組み合わせを楽しめたり。そういうお店を自分でやれたらいいな、っていう思いがあったんでしょうね。今思い返せばですけど(笑)
——「ナカマチ」の話に戻しますね。居酒屋で本格的なラーメンが食べられるって珍しいですよね。
徳永さん:この店を始めるにあたって、最初は「しののめ」でやってたメニューをそのまま持ってきたらいいだろうって思ってたんです。でもなかなか難しくて。そこで引きの強いメニューをやろうと思って、ラーメンを始めました。何ラーメンにしようって考えたときに、新潟でやるなら消去法で豚骨かなと思ったんです。あと麺の茹で時間が圧倒的に短いので、居酒屋で提供するなら長浜風豚骨ラーメンしかないなと。おかげさまで好評をいただいています。
——ラーメンを始めたことで、お店に何か変化はありましたか?
徳永さん:だんだん店がラーメン屋さんのほうに寄っていっちゃったっていうのはあります。メニューも、店を始めた当初とぜんぜん違うんですよ。揚げ物もたくさんありましたし、お刺身もやってました。だけど、ひとりで厨房をまわしているもんですから、ラーメンをやっているとできないんですよね。だから簡単なおつまみとかがメニューに増えました。それからラーメンだけ注文するお客さんが増えるにつれて、生ビールが全然出なくなったので、思い切ってやめました。店をまわすためにはラーメン中心に考えたほうがいいなと思ったんです。
——餃子も「焼き餃子」「水餃子」「蒸し餃子」と、種類が充実していますね。
徳永さん:餃子は自家製で、皮から作っています。前に中華居酒屋をやっていたとき、料理を担当してもらっていた方の餃子がすごくおいしかったんです。そのレシピをベースに、いろいろやりやすいように変えて作っています。なるべく化学調味料を使わずに「うまみ」を出すにはどうしたらいいんだろうって考えた結果、オイスターソースを多めに入れています。分かりやすくおいしくなりますよ。ご家庭で作るときにも入れてみるといいと思います。
——へ~知らなかったです!やってみようと思います。それにしても、ナカマチさんの餃子は特徴的な形をしていますね。
徳永さん:よくある感じに包むのって難しいんですよ。包み方は何回も変わってるんですけど、ひだを作らない包み方を調べていたときに、「じゃあ潰しちゃえ」って思いつきました。まず口をつぶして、中心に寄せてくると……この形になるんですよ。誰でもできて、他にはなくて、「焼き」「蒸し」「水」に対応できる包み方を探していたらこうなりましたね。
——最近新しく始めたメニューはありますか?
徳永さん:新メニューはしばらく作ってないですね。けどこの前、添え物でグリーンピースのお浸しを作ったら、すごく好評でした。サイゼリヤの「青豆の温サラダ」からヒントをもらったんです。独特の臭みが和らいで味が入るので、酒のつまみになるんですよ。常連さんは一味をかけたり、ラー油をかけたりして自分なりにアレンジしてくれています。居酒屋とかでメインじゃない添え物がおいしいと、すごく得した気持ちになるんですよね。そういう料理を沢山作れるといいなと思います。
——気になっていたんですが、お店のいたるところにホッピーのケースが積みあげられていますね。
徳永さん:私はホッピーがすごい好きなんですよ。新潟では珍しいかたちで提供しているんです。
——どんな提供の仕方ですか?
徳永さん:一般的には、焼酎と氷の入ったジョッキに自分好みでホッピーを入れて、割って飲みます。焼酎は「中(なか)」、ホッピーは「外(そと)」とか呼ばれていますね。うちの場合は違って、「二凍一冷スタイル」というやり方です。ジョッキとキンミヤ焼酎を冷凍庫で凍らせておいて、そこにホッピーを注いで、一杯飲み切りっていうかたちで提供しています。
——初めて聞きました。何かを参考にされたんですか?
徳永さん:これは東京の銀座にある「bar kamo(バーカモ)」っていうお店の出し方を参考にしました。SNSの動画で見たときに「これはうまそうだな」って思って。何とか真似できないかなと思ってやってみたのが始まりです。そしたらたまたま東京でシェフをやっている友人が知り合いだったので、そのつてで「bar kamo」の方にホッピーを入れている動画を見てもらったんですよ。そしたら「ほぼオッケー」って言われたので、公認です(笑)。すごく味が変わるんですよ。
——ちなみに、どういうふうに変わるんでしょうか?
徳永さん:切れ味が増して雑味が消えるんです。温度を低くすることは味を消すことにもつながりかねないんですけど、うまみはそれほど消えないです。うちのホッピーを飲んで、「他の店のホッピーとは全然別物だね」っておっしゃってくださる方は多いです。他ではなるべくやって欲しくない飲み方ですね(笑)
——お店をやっていて嬉しいのはどんなことですか?
徳永さん:面白い人と会えるっていうのが、居酒屋をやってていいことですかね。普通は絶対に会えないような、いろんな仕事をしている方が来るので、そのなかで気の合う方に何人か出会えましたし、そういうのは嬉しいですよね。財産になるというか。
——お客さんとの思い出深いエピソードってありますか?
徳永さん:お客さんとホッピーの歌を作りました(笑)。私が作詞作曲、そこに常連さんが歌と演奏をつけて。その方はもう県外に行ってしまったんですけど、今でもメロディと歌詞を送ると曲にしてくれます。これまでに8曲くらい作りましたね。ポテサラの歌とかもあります。前まではお店で流したり、CDを作ってお客さんに配ったりもしていました(笑)
——(聴いて)懐かしさを感じる素敵な曲ですね。最後に、徳永さんのこれからの夢を教えてください。
徳永さん:現場に立たないってことですかね(笑)。他の人にお店をやってもらって、私はアドバイスをするっていう。そういうお店を何店舗も持ちたいです。あともうひとつあるとすれば、ものすごいシンプルな飲食店をやりたいなと思います。「ホッピーと長浜ラーメンだけ」とか。しかも立ち食いで。新潟だと立ち食い、立ち飲みの文化がなかなか育たないので、やってみたいなと思います。
徳永さんのお話を聞いていると、ひとつひとつのメニューに込められている工夫とストーリーを感じられて、とてもワクワクしました。「居酒屋ナカマチ」は昼と夜、それぞれ違った楽しみ方できるお店です。駅前に行った際には、ふらっと立ち寄ってみてください。もしかしたらホッピーの歌が聞けるかもしれません。
居酒屋ナカマチ
新潟県新潟市中央区弁天3丁目2-16
025-250-5085
12:00-14:00/18:00-24:00