2011年の東日本大震災から今月で11年が経ちました。災害の教訓をいかし、新潟の会社で開発されたインスタント雑炊が、昨年の「災害食大賞2021」で最優秀賞を受賞し注目を集めています。今回はその雑炊を開発した「まつや株式会社」の代表・松野さんに、会社の歴史や製品への思いを聞いてきました。
まつや株式会社
松野 陽一 Youichi Matsuno
1965年東京都生まれ。東京の商社でベビー用品を担当し、社内でもトップクラスの売上成績を誇る。26歳で新潟に戻って「まつや株式会社」を継ぎ代表取締役社長となり、高アルファー化うるち米粉「ライスミール」を応用した様々な食品を開発している。趣味はテニスで、以前はサークル活動にも積極的に参加していた。
——いろいろな商品が並んでいますね。これ全部「まつや株式会社」さんの商品なんですか?
松野さん:はい。うちはお米を使った商品の開発、製造、販売をおこなっている会社なんですよ。
——いつ頃から続いている会社なんですか?
松野さん:明治40年に東京の神田で創業しました。もともと和菓子の原料になる、もち米粉を作ってきた会社なんです。昭和31年に米どころの新潟に工場を作って、昭和43年には会社ごと新潟へ移転したんです。
——創業は東京だったんですね。松野さんは大学を出てすぐにご実家のこちらの会社を継がれたんですか?
松野さん:いえ、私が16歳のときに父が亡くなったもんですから、大学へは行かずに東京の商社で働いていました。
——あれ? 「まつや株式会社」は継がなかったんですか?
松野さん:その頃は和菓子の需要もどんどん減ってきていて、母親が従業員の女性ふたりと細々やっているような状態でしたから……。
——それで東京の商社に。
松野さん:はい。私はそこで、大手スーパーをはじめ、コンビニやドラッグストアに卸すベビー用品を担当していたんです。とにかく忙しかったので毎日7時から終電ギリギリまで働いていて、ときには会社の机の上で寝るような生活でした(笑)
——寝ている以外は仕事をしているって感じですね。
松野さん:なかでも大手スーパーの仕事はキツかったですね。繁忙期には、電話中、目の前に、私あてにかかってきている保留中の電話機が4つも並んだりしてました(笑)。それがみんな取引先の偉い人たちなので、プレッシャーはハンパなかったですね。社内の売上げベスト3にランクインしていましたが、当時はあまりの激務に鬱病寸前でした。
——メンタルをやられそうですよね……。
松野さん:そんなときに、1年ぶりで新潟の母親に電話してみたんです。電話で母親の声を聞いているうちに、新潟に戻って「まつや株式会社」を継いでみようという気持ちになって。どうせ頑張るんだったら、人の庭より自分の庭で頑張りたいと思いはじめたんです。
——なるほど。それで「まつや株式会社」を継いだんですね。
松野さん:そうです。ただ継いでからすぐ、いろいろと大変な状況に直面しましたね。工場は築70年も経っている建物だったので、柱はシロアリに喰われていて斜めに傾いていたし、お米の乳酸菌が床のコンクリートを溶かして水溜まりができていたし。老朽化した機械もあちこち壊れていたんですけど、経営が厳しくて修繕もままならず、なんとか工夫して使っている状況だったんです。
——それがどうして、今のような会社に発展したんでしょうか?
松野さん:私はずっと商社で働いてきたので、お米に対しての知識がまったくなかったんです。だからまず、加茂にある「食品研究センター」というところでお米についての勉強をはじめました。教えてくれた先生は、板餅や米粉を開発した米加工のスペシャリストだったんです。先生はちょうどいろいろなお米を詳しく分析をしている時期だったので、勉強するにはうってつけのタイミングでしたね。
——けっこうすごい方に教わったということですね。
松野さん:そうなんですよ。その先生のところに、外務省からの依頼があったんです。「赤道を越えてコンテナ船で輸送するような、過酷な環境でも変質することのない、エチオピアへの援助物資を開発してほしい」というものでした。先生は「糊状にアルファ化したうるち米の米粉があれば可能」と判断して、その開発を私に依頼してくれたんです。
——おお、いきなり国家プロジェクトじゃないですか!
松野さん:この仕事が「まつや株式会社」のターニングポイントになりましたね。開発に1年、製造に半年かかって、なんとか「ライスミール」という米粉の開発に成功したんです。あいにく、この事業は他のところに流れてしまったんですけど、開発した「ライスミール」を応用した様々な商品を作りだすことはできました。
——「ライスミール」って、どんな米粉なんですか?
松野さん:糊状にしたうるち米の米粉で、劣悪な環境下でも長期間保存することができて、少量の水があれば食べることのできる食品なんです。インスタント食品をはじめ、いろいろな食品に応用することができます。「ライスミール」を使って、離乳食品、介護食品、災害備蓄用食品、健康食品と様々なジャンルに展開していくことができました。
——へ〜、いろんな商品が生まれたんですね。
松野さん:でも、最初はなかなか取り扱いをしてくれるお店も少なかったんですよ。状況が一変したのは「ぞうすい」シリーズの中の「たいぞうすい」が「災害食大賞2021」で最優秀賞を受賞してからですね。2011年に起こった東日本大震災をきっかけに考え出した、お湯を入れるだけで簡単に作れる災害備蓄用食品なんですが、地元の「割烹 大倉屋」さんに監修をお願いして、料亭の味が楽しめるものになっているんです。
——簡単に作れるのに料亭の味が楽しめるってすごいですよね。
松野さん:受賞してからはいろいろなお店からご注文をいただけるようになって、本当にありがたく思っています。「無印良品」さんでもたくさんの商品をお取り扱いいただけることになりました。そういえば「しまむら」さんで商品を扱っていただくことになったとき、間に入った商社が、私の若い頃に勤めていた東京の商社だったんです(笑)。なんだか嬉しかったですね。
——一緒にビジネスをする企業に成長したということですもんね。これから、どのような思いで営業していこうと思っていますか?
松野さん:エチオピアに送るための援助物資を開発したのをスタートラインに商品展開をしてきたので、これからも多くの人たちの役に立つような商品を開発していきたいですね。アフリカにはまだまだ食料に困っている子どもたちも多いので、そうした小さな命を守るためにも弊社の製品を全世界にお届けしたいと思っています。
まつや株式会社
新潟市北区葛塚3497-2
025-387-3325
8:30-17:30
土日祝休