五泉を拠点として、自家焙煎したコーヒーのネット販売や卸販売を中心に活動しているコーヒー屋さん「ensui」。今年6月、五泉の複合施設「LOOP&LOOP」内で実店舗をはじめたんだとか。コーヒーや空間作りに独自の考えを持って活動されている細貝さんにお話を聞いてきました。
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細貝 太伊朗 Tairo Hosokai
1991年小千谷市生まれ。東京の大学を卒業後、広告会社に2年間勤める。新潟に戻りコーヒー店で3年ほど働いたのち、2020年に「ensui」の名前で、焙煎したコーヒーのネット販売、卸販売をはじめる。今年6月に五泉の複合施設「LOOP&LOOP」内で実店舗をオープン。バードウォッチングが趣味で、時間があれば鳥の観察を楽しんでいる。
――まず、細貝さんが「ensui」としての活動をはじめるまでの経緯を教えてください。
細貝さん:出身は小千谷なんですけど大学進学で東京に出て、在学中にスタバで2年くらいバイトをしていました。求人に応募したとき、僕はコーヒーがまったく飲めなかったんですけどね(笑)。それでも飲まされていると飲めるようになるもので、それから都内のカフェや喫茶店をまわるようになって、そこから焙煎にも興味を持ちはじめました。大学を卒業してからは広告の仕事をしていたんですけど、続けていくうちに「自分は何が好きだったのかな」って分からなくなる感じがして、2年働いて辞めたんです。
――それは、「今度は自分の好きなコーヒーの仕事をしよう」と思ってお仕事を辞めたんですか?
細貝さん:ぜんぜん思っていませんでしたよ(笑)。何のあてもないまま新潟に帰って来ました。そんなときに、たまたま交流のあったコーヒーのお店から「一緒に働かない?」って誘っていただいて、そこで3年弱働いて、結婚と子どもが生まれたタイミングで退職しました。いずれはひとりでやろうと思っていたので焙煎機を買って、「ensui」をはじめたのが2020年の1月ですね。そのときに、それまで住んでいた燕市から妻の実家がある五泉市に引っ越しました。
――2020年の1月っていうと、ちょうど新型コロナが流行りはじめた時期ですね。
細貝さん:そうです。「今できることってなんだろう」って考えて、自分で焙煎して作った商品のネット販売と、卸で置いてもらえるところを探す活動をはじめました。
――それからの2年間は店舗を持たずに活動をされてきて、今年の6月にこちらで実店舗をオープンさせたわけですね。
細貝さん:だけど「絶対に店舗をオープンしたい」っていう気持ちがあったわけじゃないし、今でも「店舗は絶対にあるべきだ」とは思っていないんです。お店を持つって大変なことじゃないですか。「絶対に店舗で稼がないといけない」っていう状況にはしたくなかったんです。しんどくなっちゃうから。お店を持っている方は本当に尊敬しますよ。すごいことをやっているなって。
――実店舗にこだわっていなかったのに、今回お店をはじめられたのはどんな理由で?
細貝さん:ウェブサイトとか卸の販売である程度地盤ができている上で、「ensui」のブランドイメージを補完する意味での店舗を持つのはありかなって思っていたんですよ。ウェブサイトで商品を見るよりも、お店に来てもらえれば僕の好きなことが一目瞭然じゃないですか。売上を立てるとかじゃなくて、そういう意味合いで店舗を持っているんですよね。
――細貝さんが、ブランドイメージや自身の好きなものを伝えることにこだわったのには、何か理由があるんでしょうか。
細貝さん:カフェやコーヒー屋、それぞれのお店が目指している方向性っていうのはいろいろありますけど、コーヒーだけの違いってそこまでなくって。どう注いだって黒い液体だし、苦いとか酸っぱいとかいろいろあるかもしれないけど、盛り付けや味の違いがはっきりしているラーメンみたいなレンジはないんですよ。すごく狭い間で違いを出そうと勝負しているものなんですよね。だけど「レンジが狭い」っていうのはポジティブな意味合いもあると思っていて……。
――ポジティブな意味合いというのは?
細貝さん:コーヒー単体だと狭い範囲でしか表現できないんだけど、それ以外の要素が加わることで、飲む人の想像力でいかようにも解釈してもらえる飲み物だと思っています。
――先ほどのラーメンとの違いでいうと、どういうことでしょうか?
細貝さん:例えばすごく美味しいラーメンの名店であれば、お店が汚れていようが行列ができるし、逆にすごく綺麗で接客が良くてもラーメンが美味しくなければお客さんは入らないですよね。そういう意味で違っていて、コーヒーは、コーヒーの味そのものにコーヒー以外の要素がものすごく影響し得る飲み物だと思うんです。「美味しいコーヒーを出したい」っていう気持ちはもちろんあるんですけど、それ以外にもコーヒーの味に影響し得る、例えば店内のBGM、暗さ明るさ、僕の接客態度や話し方、あとはその人が誰といつ飲むか、そういう要素がすべて関わってくるんですよね。
――ブランドイメージや、細貝さんの好きなものを伝えることも、コーヒーの味に影響を与える要素になるってことですね。
細貝さん:「こういうものに興味がある僕が作っているコーヒー」っていう。それで美味しく感じるのって錯覚かもしれないですけど、錯覚って大事なんですよね。その人が美味しく感じられればいいんですよ。僕もコンビニコーヒーだって美味しいと思うし、朝イチに自分で淹れるコーヒーとか、外で淹れたコーヒーが美味しく感じるっていうのは、救いというか、コーヒーの面白いところだなって思います。
――じゃあ、お店に並んでいる本や置物は細貝さんの私物ですか?
細貝さん:テーブルとソファはこの施設のものなんですけど、他には買い足したものってほとんどなくて、自分が持っていたモノを配置して空間を作りました。今までは自分の部屋にあったモノを「お店」っていう場所に置くことによって誰かの目に留まって、興味を持ってもらえるのはモノとしても本望だろうな、嬉しいだろうなって思います。
――それはなんだか細貝さんのお部屋にお客さんを呼んでいるみたいですね。
細貝さん:そういう感覚のお客さんもいると思います。そのお客さんが何に興味を持っているかっていうのを僕も知りたいんですよね。「私もこの本好きです」っていう話から僕もその方の興味関心が分かるから。ただ純粋にコーヒーを飲みに来る方ももちろんたくさんいるし、それも嬉しいんですけど、100人にひとりでも自分が「いいな」って思うモノに共感してくれる人をずっと待っている感じですよ。「深くつながれる人と出会いたいから」っていうのも、こういう場を作っている理由のひとつでもありますね。
――ニッチな趣味で通じ合える人と出会えると、すごく嬉しいですよね。
細貝さん:僕が「自分だったらこういう場所が欲しいな」って思うことをやっているっていう。それ以外はないです。商品作りもそうですね。「自分だったら欲しいか」って。それだけを北極星のように指針にして進んでいます。
――コーヒーの仕事を続ける中で、細貝さんが心掛けていることはありますか?
細貝さん:コーヒーだけに関心がある「コーヒーオタク」になっちゃダメだと思っていて。コーヒーを極めてトップを目指す人ももちろんいますよ。けど僕はそれとは関係なくコーヒー以外のいろんなことに興味を持って、お店やブランドにアウトプットしていって、コーヒーをより豊かに感じてもらえるような工夫をしていきたいです。だから僕がつまらなくなったら終わりですね(笑)。今は「ブランド=僕」だと思っているので。ここをいつ来ても新鮮に感じてもらえるような場にしたいです。
――最後になっちゃいましたが、「ensui」で飲めるコーヒーについても教えてください。
細貝さん:深煎り寄りで、そんなに豆の個性で勝負していないっていうのが特徴かな。飲み飽きない感じです。日常的に飲めるっていうのがコーヒーのいいところだと思うので、あまり強すぎる個性は持たせないようにしています。日本人にとっての味噌汁とか、白米とか、そういうものに近いコーヒーが作れたらいいですね。
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新潟県五泉市吉沢 1-1-10 LOOP & LOOP 内
営業時間:10:00 – 16:00
定休日:火・水