新潟の銭湯をイラストとコラムで紹介した冊子「新潟銭湯ずかん」。銭湯というと近所のお年寄りが入りに行くイメージがありますが、この「新潟銭湯ずかん」を編集したのは、大学を卒業したばかりの若い女性なんです。作者のナナオさんのお気に入り銭湯のひとつ「千鳥湯(ちどりゆ)」さんにお邪魔して、銭湯への思いを語っていただきました。
新潟銭湯ずかん
ナナオ Nanao
2000年見附市生まれ。2023年に長岡造形大学建築環境デザイン学科卒業。同時期に「新潟銭湯ずかん」を編集、発行する。今後は長岡市の広告代理店に就職予定。登山や町歩きが趣味。
——ナナオさんが編集した「新潟銭湯ずかん」というのは、どういったものなんでしょう?
ナナオさん:新潟市内の銭湯を取材して、解説付きのイラストとコラムで紹介しているものなんです。特に私の大好きな「タイル」にスポットを当てながら紹介しています。
——へぇ〜、それは斬新な切り口ですね。いつ頃からタイルに興味を持ったんですか?
ナナオさん:高校時代に入っていた美術部で、まちづくりワークショップに取り組んだことがあったんです。そのとき街にある古い建造物や空間に興味を持つようになって、長岡造形大学では歴史的建造物の保存活用を学びました。古い建造物にはタイルが使われているものも多いので、それからだんだんタイルに興味を持つようになっていったんです。
——タイルのどんなところに?
ナナオさん:とても新鮮に映ったんです。カラフルで小さなものが集まっているビジュアルにも、ビーズやネイルアートに通じるような、女子心をくすぐるものがありましたね。
——そう言われてみると、そういった魅力も感じますね。
ナナオさん:あんまり好きすぎて、愛知や岐阜にあるタイルの産地まで足を運んだほどです(笑)。街のいたるところにタイルが使われていてテンションが上がりました。でも、新潟ではなかなかタイルに出会う機会がなかったんですよね。
——確かに新潟にはそういう場所がありませんね。
ナナオさん:ある日、友人がリノベーションのコンペに挑戦するために、銭湯で使われているケロリン桶のミュージアムをデザインすることになったんです。私もそれに参加することになって、実物のケロリン桶を見るために銭湯へ足を運んでみたら、そこはタイルがたくさん使われている空間だったんですよ(笑)。それからはタイルを見るために、いろいろな銭湯に足を運ぶようになりました。
——「新潟銭湯ずかん」は、どういったいきさつで誕生したんでしょう?
ナナオさん:銭湯ごとに建物やタイルの使い方に個性があるので、資料として残したいと思うようになったんです。でも裸の方がいらっしゃる浴場で写真を撮影するわけにはいかないので、メモ帳にスケッチをするようになりました。最初はそれをSNSに投稿して紹介していたんですけど、以前から本の編集にも興味があったので「新潟銭湯ずかん」として編集することにしたんです。
——編集するときにこだわったことはありますか?
ナナオさん:限られた紙面に収めるために、自分の紹介したい部分だけをディフォルメしてイラストにしています。最初はデジタルでイラストを作成していたんですけど、タイルの魅力でもある「整い過ぎていない不揃いさ」がなくなってしまうので、すべてを手描きすることにしました。
——発行しようと決心したのはどうして?
ナナオさん:銭湯への取材を重ねるなかで、銭湯が抱える経営の厳しさを聞く機会が多かったんです。自分の好きな空間をなんとか長く残すことができないか、大学で学んできた建物の保存活用の知識を生かすことはできないか、それを考えているうちに「新潟銭湯ずかん」を発行することで、少しでも多くの人に銭湯の魅力を知ってもらって、集客のお手伝いができればいいなと考えました。
——「新潟銭湯ずかん」は、どこで手に入れることができるんですか?
ナナオさん:ネットショップでの通販をはじめ「ブック・オーレ」さん、「北書店」さん、「ぽんしゅ館クラフトマンシップ新潟本コーナー」さん、「古本もやい」さん、「hickory03travelers」さん、「SANJO PUBLISHING」さん、銭湯では「みどり湯」さん、「朝日湯」さん、「小松湯」さんに置いていただいています。
——発行してみて、反響はいかがですか?
ナナオさん:SNSを通して「どこに売っているのか」というお問い合わせをいただいたので、販売していただいている銭湯を紹介したんです。そうしたら「新潟銭湯ずかん」を買うために初めて銭湯を利用したという方もいたので、少しは銭湯に足を運ぶきっかけを作れたのかなと思って嬉しかったですね。
——ここで、ナナオさんお気に入りの銭湯をいくつか紹介してください。
ナナオさん:まずは東区にある「秋葉湯(あきはゆ)」さんですね。ここはタイルの使い方が可愛くて気に入っています。昼間に行くと窓から差し込む光がミントグリーンの壁色を白いタイルに反射して、浴場全体が淡いグリーンに包まれてとっても幻想的なんです。
——へぇ〜、外観からは想像もつかない浴場なんですね。
ナナオさん:そういう銭湯は多いですね(笑)。次に中央区の「朝日湯(あさひゆ)」さんです。ここの注目ポイントはなんといっても、新潟ではなかなか見ることのできない富士山のペンキ絵です。タイルを使ったモザイク画は多いんですけど、絵師が不足している今、ペンキ絵を見ることができる銭湯って少ないんですよ。
——時代の流れを感じますねぇ……。今回撮影に協力していただいた「千鳥湯」さんは、どんなところが魅力なんでしょうか?
ナナオさん:浴場にふたつのタイル画があるのは珍しいと思います。しかも、男湯と女湯のどちらにも富士山のタイル画があって、それぞれ静岡側と山梨側の富士山が描かれているんです。浴槽内の照明が赤く光って、幻想的なムードを味わうこともできます。店主の熊谷さんは新しいもの好きな方なので、新潟県内の銭湯では唯一「PayPay」が使えるんです(笑)。私は最近、こちらが張り替えるタイルの相談に乗らせていただいているんですよ。
——「千鳥湯」さんは新しくてきれいな印象ですけど、なかには古い銭湯もたくさんあるんでしょうね。
ナナオさん:経営者の負担も大きいですし、後継者がいないことから休業してしまう銭湯も多いですね。古き良き銭湯が失われてしまうのはとても残念に感じます。頑張って営業を続けてほしいんですけど、老朽化した建物が新しくリニューアルされることは、レトロな建物が好きな者にとっては寂しさも感じてしまうんです。
——なかなか複雑な心境なんですね。「新潟銭湯ずかん」では新潟市内の銭湯に絞って紹介していますけど、新潟市以外の銭湯を紹介する予定はあるんでしょうか?
ナナオさん:実は第1弾には載せきれなかった、三条、燕、新発田、村上、佐渡の銭湯を紹介する第2弾の発行を考えているところなんです。ただ資金がないのでスポンサーを集めて広告を掲載することで、資金不足を補えたらと考えています。
新潟銭湯ずかん