日本人にとって馴染み深い、緑茶やほうじ茶といった「日本茶」。当たり前のように日々飲んでいるものだからこそ、知っているようで知らないことも多いのではないでしょうか。新潟市江南区でお茶の卸売業者として続いてきた「有限会社向井園」は、お茶の面白さや美味しさをもっと伝えようと「日本茶専門店 うずまき屋」を立ち上げました。オンラインショップでオリジナルのブレンド茶を販売したり、イベントへ出店して試飲の機会を作ったりと、本業の傍ら積極的に活動しています。「うずまき屋」をはじめた向井康太郎さんと拓郎さん兄弟に、お話を聞いてきました。
日本茶専門店 うずまき屋
向井 康太郎 Kotaro Mukai
1992年新潟市生まれ。大学卒業後、家業の「有限会社向井園」へ入社。2018年に、弟の拓郎さんとともに「日本茶専門店 うずまき屋」を立ち上げる。ビーチテニスが趣味で、日本選手権の出場経験も。
日本茶専門店 うずまき屋
向井 拓郎 Takuro Mukai
1993年新潟市生まれ。大学卒業後、家業の「有限会社向井園」へ入社。2018年に、兄の康太郎さんとともに「日本茶専門店 うずまき屋」を立ち上げる。長年テニスをやっていたが今はインドアな趣味が多い。
――お先に、「向井園」さんがどういう会社なのか教えてください。
康太郎さん:創業37年の、もとは祖父と祖母がはじめた会社で、日本茶の茶葉を中心にお茶の専門店向けに卸をしています。僕らで3代目になるんですけど、今は父が社長で、あとは母と祖母の5人で構成された会社です。
――お茶の問屋さんの仕事って想像がつかなくて……。おふたりは今、どういうお仕事をされているんですか?
康太郎さん:基本的には茶葉のブレンドの構成を考えたり、弟は焙煎をしたり、加工の中心に関わるところをやっています。新茶のシーズンが4月の終わり頃から5月の半ばくらいまでなので、その期間にお茶を選んだり、どういう加工をするか考えたりすることが仕事の中心ですかね。
――ここでお茶の加工をして、それからお茶屋さんへ卸すと。
康太郎さん:そうですね。お茶屋さんにもそれぞれ好みがありまして、その好みに合わせて、お店の色を出せるように茶葉をブレンドしています。新茶のシーズンから1年間、同じ味わいのお茶をずっと供給し続けられるようにするんです。お茶は農産物なので、毎年味が変わるんですよ。なので過去の味をインプットした上で、その年に届いたお茶で同じ味になるように作っていきます。
――えっ。じゃあ毎年違う茶葉を組み合わせて、去年までと同じ味になるように調節しているってことですか? 職人技ですね。
康太郎さん:仕事の内容は職人っぽいですね(笑)。分量とか品種とか、あとは焙煎とか乾燥具合とかでも味や香りが変わってくるので、そういうところでも調節しています。
――おふたりは「うずまき屋」としてもオンラインショップを展開したりイベントへ出店したりと、いろいろ活動されていますよね。活動をはじめたのはいつからですか?
康太郎さん:2018年からです。それまでは卸売ばかりで、個人の方に販売することがあまりなかったんですよ。そのことになんとなく危機感があって。お茶屋さんだけに卸売販売をしてきたけど、自分たちは消費者の方が何を求めているのか、何が好まれるのか本当に理解できているか、自分たちが発信したり販売することで、コミュニケーションを取りながらお茶の魅力を伝えることができるのではないかと考えました。そうしなければ、人口減少と同時にお茶の業界は先細りしていってしまうと。日本全体でも、ローカルな範囲でも同じことが言えると思うので、最終的に、商店街などにいらっしゃるローカルなお茶屋さんへ足を運ぶ人が増えれば最高です。それが、「うずまき屋」をはじめた理由のひとつですね。
――小売をするときの、お店としての名前が「うずまき屋」なわけですね。
拓郎さん:それに卸売って、自分たちのお茶を作るっていうよりは、他の人のお茶を作る仕事なんですよね。小売なら自分たちのお茶が作れるので、そこにチャレンジして世に発信していくこともひとつの目的でした。
康太郎さん:最初はオンラインショップだけでやっていこうと思っていたんです。でも、最初の年は注文が年間で1件しかなかったんですよ。
――それはなかなか厳しいスタートですね……。
拓郎さん:その1件の方もどうやって見つけたんだろうって(笑)。ノウハウもないままはじめてしまいました。
康太郎さん:2年目は5件ぐらいでしたね。そんなペースだったんですけど、「潟マルシェ」とか、直接お客さんの目に触れてもらう機会が増えてきてからは、ちょっとずつ「うずまき屋」っていう名前を知ってもらえるようになりました。
――やっぱりお茶って、一度飲んでみないと何も分からないですよね。
拓郎さん:そうなんです。とりあえず一度口に入れてみないことには判断しにくいと思いますし、お茶は特にわかりにくいんですよね。
康太郎さん:だから試飲販売をするしかないっていう思いと同時に、世間が急須でお茶を淹れる文化から離れてきているのもなんとなく感じていて。普及活動も含めて、マルシェとか直接販売できる場面にも積極的に出るようになりました。
――「うずまき屋」さんで扱っているお茶は、発見があるようなラインナップが多いんでしょうか?
康太郎さん:そうですね。オーソドックスなものから変わったものまで、いろんな趣味嗜好を捉えられるようなものを作っては販売しています。
――お茶の定期便もやっているそうですね。
康太郎さん:ひと月に1回、毎月テーマを設けて、そのテーマに合わせたブレンドを作っています。8月は御中元の時期だったので、御中元でもらったら嬉しいお菓子ってなんだろうってところから、水ようかんに合わせたお茶を作りました。前は柿の種に合わせたお茶を作ったこともあります。
――それはぜひ柿の種と合わせてみたいですね……。
拓郎さん:もちろん王道もやりますけどね。6月の定期便は、ふたりでそれぞれ作ったんですよ。
康太郎さん:いつも商品は僕が考案しているんですけど、年に1回は僕が作ったものと弟が作ったものを定期便に入れているんです。お客さんに投票してもらって、どっちが好みだったか聞いたりして。
拓郎さん:それで勝った方を通常商品にしようって言ってね。ちなみに引き分けでした(笑)
――おふたりが思う、お茶が持ついちばんの魅力ってどんなところですか?
康太郎さん:すごく調整が効くところかなって思います。道具とか温度とか茶葉の量で味が変わるし、簡単に調整できて自分の好みを探って楽しめる、面白い飲み物なのかなと。あまりに日本人に馴染みすぎて特別感のないものになっていますけど、まだまだ深掘れるものなんじゃないかなと思います。
――拓郎さんはいかがでしょう?
拓郎さん:兄が言ったこともそうですし、あとは目の前の人とコミュニケーションを取りやすいところかなと思います。今、水出しで入れたものを飲んでいただいていますけど、もしこれがお口に合わなかったときに、反応を見ながら、ある程度柔軟に対応ができるんです。暑そうにしていたら入れ方を変えたり、お菓子があればそれに合わせたり。コミュニケーションを円滑にするための小道具としての適性が高い飲み物だと思います。
――やっぱりお茶屋さんとしては、急須でお茶を淹れる習慣を持ってもらいたいっていう思いがあるんでしょうか。
康太郎さん:もちろんありますね。でも、美味しくお茶を飲んでもらえたら僕らはそれでいいのかなって。それはもともと卸売が中心で、お客さんに美味しいものを提供して喜んでもらっていた経験が根底にあるからなのかなと思います。美味しいものが世の中に広まって、みなさんが楽しんでくれればいいですね。
拓郎さん:自分たちのお茶でなくても、楽しんでくれる人が増えればいいですね。それが急須であってもペットボトルであってもティーバッグであっても、お茶を消費している仲間ですから。
――純粋に、お茶を楽しむ仲間が増えていってほしいと。
拓郎さん:お茶の好みってやっぱり人それぞれで。お茶屋さんが減れば、自分の好みを発信する人の量が減ってしまうので、それは嗜好品としてあんまり面白くないですよね。1軒が独占するようでもいけないし、みんながみんな「自分のお茶がいちばん美味しい」と思っている状態が理想的だと思っています。
――先ほどもおっしゃっていましたけど、自分の好みを知るためにも「まずは飲んでみてほしい」っていうところですね。
康太郎さん:「潟マルシェ」では試飲販売をしているので、ぜひ来てもらいたいです。たくさん種類を用意しているので、その中から好きなものを見つけてもらう楽しさがあるのかなと思います。いろいろリクエストしながら試飲してもらいたいですね。
――それは「このお茶をもうちょっと濃いめで淹れてほしい」とか?
拓郎さん:そうです、そうです。「もっとこういうお茶ないの?」って言われたら、できるだけお好みに合うものを出せるようにしています。もしも僕らではお客さんのお好みに近づけなかったとしても、他のお茶屋さんでの好みの探し方が分かるようになったらいいなと。
康太郎さん:もしお茶に興味を持ったときに「こういうお茶もあるのかな」「このお茶だったらこの入れ方がいいな」って、自分で探れるようなお手伝いができればいいなと思います。試飲を断られるとけっこうショックなんですよ(笑)。気軽に飲んでいってほしいですね。
日本茶専門店 うずまき屋
新潟市江南区曙町3-2-17