新潟の仏壇文化の初期から歴史を刻んできた老舗、西区内野町の「小林佛檀店」。店主の小林さんは、仏壇づくりに欠かせない5つの技のうちのひとつ、漆塗りを担当する職人「塗師屋」でもあります。その技術を生かして、「塗師屋kiyo」としても活動中。kiyoさん(小林さん)が手がける漆器カップは、全国各地からオーダーが絶えないのだそうです。今の業界の変化をどう感じているのか、思い出に残っている仕事についてなど、いろいろとお話を聞いてきました。
小林佛檀店
小林 清則 Kiyonori Kobayashi
1968年新潟市生まれ。小林佛檀店4代目。高校在学中から、家業に入る。仏壇づくりの技術を生かし、10年ほど前から「塗師屋kiyo」としてアーティスト活動をスタート。趣味は釣り。釣った魚を日本酒とともに嗜む。
――小林さんは、漆器アーティストとして活動されていますよね。今日はそのことと、「小林佛檀店」さんのこともお聞きしたいと思っています。まず「小林佛檀店」さんは、お仏壇の販売や修理のお店と思っていいんでしょうか?
小林さん:わかりやすく言うと、お仏壇の「製造元」です。当店は1900年に創業し、業界の中でもかなりの歴史があります。お仏壇は、5つの職人技からできていて、うちはその職人さんたちを束ねる「大工の棟梁」みたいな位置づけです。
――その5つの技とは?
小林さん:仏壇の土台を木材で作る「木地師」、内部の図柄を彫って描く「彫師」、タガネを使って飾り金具を打つ「金具師」、漆でさまざまな模様を描く「蒔絵師」、仏具に漆を塗る「塗師」。「小林佛檀店」の初代は塗師でしたが、2代目が仏壇づくりを学び、仏壇の「製造元」となりました。
――「小林佛檀店」さんのようなお店と大手メーカーとでは、どんな違いがあるのですか?
小林さん:私たちが昔から製造している仏壇は、それぞれの職人みんなの力で作り上げるもの。そういう意味では、国産、それも「純・新潟産」と表現してもおかしくないと思います。いちばんの違いは、そこですね。
――ひとつ作るのにどれくらいの時間がかかるものですか?
小林さん:一般的なお仏壇は、2ヶ月~2ヶ月半。お店の奥に置いてあるお仏壇はだいぶ手が込んでいて、完成まで3年かかりました。値段も一般的なものの10倍です。
――小林さんは、高校在学中に家業に入られたそうですね。家業に入るのは自然な流れでしたか?
小林さん:もう、定めですよね(笑)。あの頃、仏壇はブランド品でした。うちの品物は、今でも知る人ぞ知る名品だと思っています。「内野の小林」と言われるほどの仏壇ではないかと思います。
――40年近くお仕事をされていると思います。どんなところに業界の変化を感じますか?
小林さん:まず頭に浮かんだのは、住宅の仕様が変わってきたことですね。畳、床の間があるお家は少なくなってきました。フローリングにお仏壇は、やっぱりちょっと似合いません。不思議に思うのは、そういうお家では、お中元、お歳暮、お供物などにどうやって敬意を表するのだろうってこと。床の間がないのに、頂き物をどこに置くのだろうと疑問に思うんです。
――作り手さんは、ご両親と小林さんですか?
小林さん:両親はもう引退して、今は私ひとり。倅が「一緒に働きたい」と言うので、7年間仕事を共にしたんですけどね。私は自分でなんとかやっていくとして、倅の代ではきっと仕事がなくなるだろうと思いまして。別の仕事に就かせました。
――今後を見据えて、塗師屋の技術を生かした活動を新たにスタートされたんでしょうか?
小林さん:それもありますね。そもそも、仏壇店の仕事には「洗濯」もあるんです。お仏壇の金具をすべて外して、ザブザブとお湯で洗って、漆を塗り替えて、新たに金箔を施して。要するに、古くなったものの修繕ですね。仏壇の「製造元」なのに、そういう仕事が増えてきて。需要が減っていると感じていたんです。でもやっぱり漆を塗りたい。漆からは離れたくない気持ちがあって、10年ほど前から漆器のカップを手がけるようになりました。8年くらい前にテレビに取り上げてもらって、私が漆を塗っていることが広まったかなと思います。
――小林さんの年齢で、これほどキャリアがある方は珍しいのでは?
小林さん:先般の能登の震災では、歴史のある寺院にも多大な被害がありました。向こうの業者さんから「小林さん、まだ仕事していた?」と連絡が来て。私は「続けていますけど、化石のような仏壇屋なので、いまだに昔のことしかできません」と冗談で返したんです。そしたら「それそれ、それができる人を探している」と。漆塗りをする人間なんて、もうほとんどいませんから、声をかけてもらえたんですね。実際に寺院の再建が開始するまではまだまだ時間がかかるでしょうけど、依頼がきた場合には、おじいちゃんになっていても作業に加わりたいと思っています。
――壮大なお話です。
小林さん:新潟市の、とある神社の神輿を修復する仕事も任せてもらったんですよ。250年以上の歴史があって、これまで何回も修理の手が加わっていて。神輿をばらすと、修理を担当した人の名前が書いてあるんです。1番修理は誰、2番修理は誰って。私たちは5番修理。しっかり名前を記してきました(笑)。どうも前回の修理から80年ほど経っている様子でしたね。こんな仕事、立候補してもなかなかできるものじゃありません。人生のラッキーカードを引かせてもらったと思っています。
小林佛檀店/塗師屋 kiyo
新潟市西区内野町999
025-262-2312