
ホテルオークラ新潟の3階にオープンした「中国菜 龘 SANLONG(サンロン)」。ランチタイムは手軽な中国料理、ディナーは本格的なコース料理とワインのペアリングが楽しめます。母体は「レストラン三宝」「さんぽう亭」などでお馴染みの「株式会社三宝」。気軽な中華で県民に愛されている同社がなぜホテル内にお店を出したのか、金子社長にお話を聞きました。実は「三宝」さんとホテルのレストラン、創業者のお父様の代からご縁があったようです。

中国菜 龘 SANLONG
金子 博信 Hironobu Kaneko
1968年新潟市生まれ。1987年、19歳のときに父親が創業した「株式会社三宝」に入社。当時業績が伸び悩んでいた青山店のV字回復に携わった後に、吉田店(現:レストラン三宝 吉田店)の開店に力を尽くし、10か月連続で来客数2万人を達成する。2002年に代表取締役社長に就任。
——ホテルオークラ新潟内に新店舗をオープンした経緯について、教えてください。
金子さん:実は、ホテルオークラさんとは創業者である父の代から不思議なご縁があるんですよ。父の最初の勤め先は東京の有名ホテルで、西洋料理のコックとして働いていました。その後、東京のホテルオークラさんへの転職が決まりかけていたそうなんですが、ちょうどその頃、新潟市内で新しいホテルが開業することになったんです。そこの料理長に就任したのが父の先輩で、「金子、ぜひうちに来てくれ」と何度も声をかけてくれたそうで。それが、父が新潟に移り住んだきっかけです。それからシェフとして5年半経験を積んで、29歳のときに独立し、「三宝」を創業しました。
——お父さんは、西洋料理のシェフでいらしたんですね。
金子さん:もうひとつ、縁深いエピソードがありましてね。父の後輩が一流店舗で中華料理の勉強をした後に、東京から新潟へやってきました。その方が新潟へ来た理由は、新潟にもオークラホテル(現ホテルオークラ新潟)ができるから。でもホテルはまだ建設中だったので、その間、父を頼って一緒に働くことになりました。その後もそのまま当社を支えてくれて。後に料理長や役員も務めたその方がいてくれたから、父の「町中華」に本格的な中華料理のエッセンスが加わることになったんです。

——不思議なご縁ですね。
金子さん:そうでしょう(笑)。これまで二度、ホテルオークラさんと縁が結ばれそうで結ばれずにいましたが、この度はようやくご縁をいただきました。でも正直なところ、出店のお誘いをいただいたときは迷いました。スタッフの手配をどうするかという点や、ホテル内の店舗ですから、従来の『三宝』と同じ料理というわけにもいかないだろうという思いもありました。
——どういう結論を出されたんでしょうか?
金子さん:「SANLONG」の料理人は3名、いずれも「三宝グループ」の料理長経験者です。しかも食器洗い含めて、そのメンバーしか関わらない。そういう条件を出しました。
——料理長クラスの方が、すべての作業をなさっているなんて。
金子さん:セントラルキッチンで仕込んだ食材を一切使用しないというルールにしています。すべて「SANLONG」で仕込み、食材選びも独自で行うようにお願いしています。
——それには、どんな狙いがあるんですか?
金子さん:「三宝グループ」は、ずっと「大衆中華」にこだわってきました。多くの方に日常的に利用していただける飲食店であることが、いちばんの地域貢献であると思っているからです。一方で今回の「SANLONG」は、「ホテルで提供するレベルの料理を作るスタッフが、当社にはいるんですよ」とお伝えできる、いいチャンスになりそうだなとも思いました。もともと父は一流ホテルのシェフです。3年前に他界しましたが、もしかしたらホテルへの出店を喜ぶかもしれないなと、頭をよぎったんです。

——「SANLONG」には、これまでとは違う展開を視野に入れられたのではないかと思うんです。
金子さん:最近は、機械化、自動化の進化に伴い、料理人が料理の基本をしっかりと体得できる場面が減っていると感じています。「料理人として鍛錬する場」として、当グループの人材育成に「SANLONG」が一役買ってくれるだろうと期待している面もあります。
——料理人さんは経験豊富なベテラン揃いだと思います。メニューを決めるとき、どんな雰囲気になるのか気になります。
金子さん:コース料理の構成を決めるのは、特に大変ですね(笑)。みんなで意見を出し合って、試行錯誤と微調整を繰り返します。皆さん、十分な料理経験をお持ちです。でもどうしたって「大衆中華」のキャリアが長いわけですよね。そこでポイントになるのは、食材の選び方だと私は思っています。「SANLONG」の価格でお客さまに感動していただくためには、「普通食材の最高ランクを見定めるといいよ」とアドバイスしています。魚を選ぶにしても、どこで水揚げされたものがより良い味なのか、しっかり見極めないといけません。ちなみに今は、冬に向けて薬膳火鍋を試作しています。美味しくて身体にも優しい一品です。

——今まで「三宝」さんが大事にしていたことを残しつつですか?
金子さん:むしろ「レストラン三宝」をさらにブラッシュアップしたいと思って、「SANLONG」のオープンを決めたという方がしっくりきますね。「レストラン三宝」のメニューをより専門店化し、「楼蘭」「三宝茶楼」が誕生しました。さらに本格的なメニューを提供できるのが「SANLONG」です。
——他に、今までのお店との違いはありますか?
金子さん:「SANLONG」では、中国料理とワインの相性を楽しめます。個人的にも中国料理とワインの組み合わせが大好き。皆さんにとっても特別な時間になるといいなという気持ちがあったので、この度、専任のソムリエを新たに迎えました。
——金子社長は、きっとワインがお好きなんですね。
金子さん:胸を張って「ワイン好きです」と言えるほどではないんですけれども、一時期はハマっていました。カウンターにグラスが置いてありますよね。あれは今から20年以上前、パリの蚤の市で見つけたバカラのアンティークです。ずっと自宅に保管していて、誰が見ることもなかったものがついに日の目を見ました(笑)

——ところで、リーズナブルなメニューがあるかどうかも知りたいんですけども……。
金子さん:ランチの軽めなコースはいかがですか? 他にもランチタイムには、メインが選べるセットメニューやアラカルトもありますよ。

――県民に愛される味の秘密は?
金子さん:つまらない、ありきたりの話なんですけれどもね。先代からは「料理は美味しくなくてはだめだ」と教わりました。お客さまが「美味しい」と思うから、スタッフ含め、みんながハッピーになります。それは大前提として、極力、料理の技術も磨き続けたいと思っています。業界はどんどん工業製品化しているわけですし、当社にもセントラルキッチンはあります。でもやっぱり「チェーン店」と言われてしまうのは、無念です。私が入社した頃は、3年経たないと鍋を振らせてもらえませんでした。今はもちろんそういう時代ではないんですが、でもやっぱり「料理人の技量」は、三宝グループの基本だと思っています。
――最後の質問です。お客さんには「SANLONG」でどんな体験をしたもらいたいですか?
金子さん:う~ん、難しい質問ですね(笑)。このお店でしかできない体験を提供できるかどうか、今はまだ手探り状態です。なぜって、これまでの「三宝」とは、まったく違うお店だから。それに「こういうことを感じてくださいね」とお伝えするなんて、どうもおこがましいです。私がスタッフによく話すことなんですけどね、お客さまの「美味しかった」というお声に惑わされず、「感動があるかどうか」を大切にしたいですね。

中国菜 龘 SANLONG
新潟市中央区川端町6丁目53 ホテルオークラ新潟3階
025-211-3830
ランチタイム:11:30~15:00(LO14:00)
ディナー:18:00~
※ディナーは全席予約制:前日までに予約が必要です。
定休日:日曜日、月曜日
※ホームページより予約受付中です。