摂田屋・宮内地区のまちづくり企業
「ミライ発酵本舗」
カルチャー
2025.12.26
醸造文化が息づく長岡市・摂田屋と宮内地区。このエリアで独自のまちづくりを進めているのが、「ミライ発酵本舗株式会社」です。キックオフメンバーのひとりである斎藤さんは、音楽の先生やレストランの支配人といった経歴の持ち主。人と人をつなぐまちづくりに共感し、「ミライ発酵本舗株式会社」で働くことを決めたのだそう。これまでのことやまちづくりに込めた思いについて、お話を聞きました。
斎藤 篤
Atsushi Saito(ミライ発酵本舗)
1975年長岡市生まれ。音大を卒業後、地元の専門学校の音楽教員を務める。その後社会福祉法人へ転職し、同法人が運営する「和島トゥー・ル・モンド」の立ち上げに関わる。2019年に設立されたまちづくり企業「ミライ発酵本舗株式会社」のキックオフメンバーであり、取締役統括マネージャー。
音楽、福祉、新規事業の立ち上げ、
そしてまちづくりへ。
――まずは斎藤さんのこれまでのキャリアについて、教えてください。
斎藤さん:音大でピアノを専攻していたんですが、当時は就職氷河期。どこかの企業に就職する気はありませんでした。というより、「就職できないだろう」という気でいて。お世話になったピアノの先生からの勧めで、卒業後は地元の専門学校で音楽教師として8年間働きました。そして、音楽療法に興味があったので社会福祉法人に転職して、2年ほどは論文を書くなどしていたんですが、あるとき法人本部の新規事業を立ち上げるミッションを課されまして。それが旧和島村にある、廃校を活用した複合施設「和島トゥー・ル・モンド」だったんです。施設内の「レストランBague」の支配人も務めました。
――新規事業やマネジメントには、関心があったんですか?
斎藤さん:興味を「持たざるを得なかった」という感じですよね(笑)。「ミライ発酵本舗株式会社」でもそうなんですけどね、どういうわけか私の周りには才能を持っている人たちが集まってくるんです。たくさんのプレイヤーがいるから、私がボーッとしていてもいつの間にか評判になっている。ほんとうに、そうなんです。
――大事なお役目を任されたと思います。どういう方針で進む考えだったんでしょう?
斎藤さん:コンセプト、フィロソフィーを明瞭にする。そうすると、大概のことは運用可能になります。
――なぜはじめての取り組みでそれができたのかと気になります。
斎藤さん:学生時代から好きだった、イギリスのエドマンド・バークやフランスのアレクシ・ド・トクヴィルの思想が影響していると思います。彼らはいずれも、困ったときには歴史、文化、伝統から学ぶことを提唱しています。組織の中でその考えを応用すると、自然とコンセプトの策定に行き着きます。
――「ミライ発酵本舗」さんには創業のタイミングから関わられたそうですね。
斎藤さん:お世話になっている方から、「今度、長岡市の摂田屋と宮内地区のまちづくり会社ができる」と聞いていました。「まちづくり」「人と人をつなぐ」というキーワードは、まさに私がこれまで取り組んできたこと。今までのキャリアを生かせる場を求めて、「ミライ発酵本舗」の一員となることを決めました。

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「RE」の発想で、
発酵のまちを甦らせる。
――「ミライ発酵本舗」さんは非営利団体などではなく、株式会社として、まちづくりに取り組んでいます。どういう経緯で法人が立ち上がったんでしょう?
斎藤さん:そもそものはじまりは、摂田屋地区のランドマークであり、サフラン酒で財を成した吉澤仁太郎氏の邸宅でもあった「機那サフラン酒本舗」を存続させようとする、市民ボランティアの活動でした。それが2019年、長岡市による「旧機那サフラン酒製造本舗」の取得を契機に設立された会社です。
――具体的な事業内容は?
斎藤さん:摂田屋と宮内地区のエリアマネジメント、「旧機那サフラン酒製造本舗」と敷地内の「摂田屋6番街発酵ミュージアム・米蔵」、「秋山孝ポスター美術館 長岡」の指定管理を行っています。それだけではなく、自社のまちづくりコンテンツも必要だろうと、2025年に宮内地区に日本茶カフェ「chahho。」をオープンしました。
※chahho。の記事は、12月28日に掲載予定です。
――近年、摂田屋周辺がとても盛り上がっていると感じています。「ミライ発酵本舗」さんが、その立役者だったんですね。
斎藤さん:6年前は、ほとんどの方が「摂田屋」をご存知なかったかもしれませんね。盛り上がっていると感じてもらえているなんて、とても嬉しいです。でも私たちは、特別な取り組みをしてきたわけではないんですよ。もちろん思いつきではないんだけど、当時の高田社長(現会長)が示されたフィロソフィーのもと、ひとつひとつに向き合ってきたんです。
――例えばどんな?
斎藤さん:人と人をつなぐ人材、つまり、まちづくりの実践メンバーの参画を促しています。まちづくりは全国各地で行われていますが、中には構成メンバーが計画者ばかりで物事が進まないケースもあります。私たちはそうではなく、直接的にまちづくりに関わるプレイヤーを増やしたいと思っています。
――摂田屋だけでなく、宮内地区もまちづくりの対象エリアなんですね。
斎藤さん:歴史を紐解くと、宮内は商人のまち、摂田屋は旦那さまのまちと分かれていました。かつての宮内地区には、交通の要だった宮内駅と100を超える商店街があってとても賑わっていたんですね。でも今は、シャッターだらけ。私たちはこの地域に根付いている醸造文化を軸に、今まであったものをリボーンもしくはリノベーションする「RE」の考え方でまちづくりに取り組んでいます。まちが元気になると、子どもたちがこの地域を誇れるようになります。これらが「ミライ発酵本舗」の提案です。
――その取り組みには、大勢のプレイヤーさんが必要ということですね。
斎藤さん:トップダウンでまちづくりに取り組むと、住民の皆さんとの間でハレーションが起こります。一方、私たちは歴史、伝統、文化をひたすら大事にする「地域の共同体を守る」という考えを軸に、住民の皆さんを巻き込み、プレイヤーになってもらうことを大切にしています。私たちが抱えている課題、人口減や空き家の増加、子どもたちがまちを誇れているのかどうかを明瞭にして、どう解決するかを地域の皆さんに投げかけます。「ミライ発酵本舗」の創業から数年経った2022年には「宮内摂田屋メソッド」の立ち上げに至りました。これは地域のステイクホルダーに集まってもらって、このまちを具体的に前に進めていくための事業体です。

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ゴールのないまちづくり、
その指標。
――「江口だんご」さんや「LIS」さんも摂田屋にお店を出されています。「ミライ発酵本舗」以外の会社さんも関わり出すようになったということですか?
斎藤さん:発酵、醸造の文化を軸にまちづくりを進めていくというフィロソフィーに賛同した方々がたくさんいたということですね。
――最終的には、どんなゴールを目指しているんでしょうか?
斎藤さん:まちづくりにゴールはあるんだろうか……。ないかもしれないですね。でもヒントになるのは、子どもたちだと思います。子どもたちがこのまちを誇れるかどうか、自慢できるまちであるかどうかは成功のひとつの指標になるでしょうね。
――発足からの6年間で、どんな変化を感じたか教えてください。
斎藤さん:プレイヤーが増えた手応えがあります。飲食店などの直接的なプレイヤー、そして子どもたち、長老(斎藤さんは尊敬を込めてご年配の方を長老と呼びます)がプレイヤーとして関わってくれているからこそ、まちに一体感が生まれたと思っています。ひとつのエピソードとしてご紹介したいのは、昨年、私と吉乃川さん、江口だんごさんとで「これからのまちづくり」についてお話したときのこと。定員15名に対して50名ほどが来てくださいました。そこで「昔の宮内はすごかったんだぞ」という話が長老からポンポンと出てきて。商店街には100店舗が軒を連ねていた、と。それをもとに、当時を再現したマップを作成しました。今度はそのマップをもとに地元の小学3年生に未来予想図を作ってもらったところ、「祖父母が営んでいた旅館をもう一度甦らせたい」という発想が出てきて。もう、びっくりしましたね。長老が当時の姿を示し、子どもたちが未来を考える。この発表会には、100人の方が来てくださいました。「この取り組みを続ければいいんだ」という風潮が高まった瞬間だと思っています。
――「ミライ発酵本舗」さんと他のまちづくりに取り組む団体とは、どういったところに違いがあると思いますか?
斎藤さん:構成メンバーでしょうね。まちづくり団体に限らず、組織にはプレイヤーをとにかくたくさん集めることが肝心だと思います。計画者はひとりかふたりでいいんです。

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