世界を旅して言葉や写真を綴る
編集者&カメラマン「松岡宏大」

カルチャー

2026.06.23

text by Kazuaki Yamazaki

3月に刊行された「地球の歩き方 新潟」は大変な反響で、すでに品切れしている書店もあるそうです。その制作に携わったのが、新潟出身の編集者・カメラマンの松岡宏大さん。「地球の歩き方」で長年インド編を担当してきたこともあり、今回の新潟編制作で白羽の矢が立ったのだとか。インドにまつわる旅行本も書かれている松岡さんに、インドや旅、そして本についてのお話を聞いてきました。

Interview

松岡 宏大

Kodai Matsuoka(KAILAS)

1970年新潟市西区生まれ。編集者・カメラマン。大学時代に海外を旅してインドと出会う。編集プロダクションを経てフリーとなり「地球の歩き方」をはじめ、旅行ガイドブックの取材、編集に携わる。2016年に「KAILAS(カイラス)」を立ち上げ「持ち帰りたいインド」を刊行。「タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる」「ひとりみんぱく」なども刊行し話題となる。

散々な目にあったインドが気になって
旅を重ねるうちに魅了される。

――松岡さんはアジアやアフリカのガイドブックに携わってきて、インドへは30年以上訪れていますよね。

松岡さん:子どもの頃は海外で暮らしたいと思っていたんですけど、大人になってからは旅をしながら生きていきたいと思うようになったんです。。

 

――最初に旅した場所を覚えていますか?

松岡さん:高校生の夏休みに北海道を巡りました。西区の自宅からママチャリをこいで東区にある新日本海フェリー乗り場まで行って、フェリーで北海道に渡って旅したんですけど、新潟へ帰ってきたらママチャリに蔦が絡まっていました(笑)

 

――まるで「千と千尋の神隠し」のラストシーンじゃないですか(笑)。それ以来、いろんな場所を旅してきたんですね。

松岡さん:海外に関わる勉強をしたかったので「国際関係学科」のある大学へ進学して、在学中も旅を続けていたんです。卒業後はアルバイトでお金を貯めて旅に出るという、バックパッカー生活をしていました。

 

――ヒッチハイクなんかもしていたんでしょうか?

松岡さん:もちろんです。アイルランドのB&Bでヒッチハイクのコツを教えてもらったおかげで、成功率がほぼ100パーセントになったんです(笑)。荷物もできるだけ持たず、ガイドブックも持っていかないルールを自分に課していました。

 

――それで国外へ行くのは不安じゃないですか?

松岡さん:非日常の不安な状況に身を置くことで、冒険気分を味わうことができるんです。わからないことは地元の人に聞くから、そこでコミュニケーションも生まれます。まあ、当時は若かったから、怖いもの知らずだったのかもしれないですね(笑)

 

――な、なるほど……。では、インドに興味を持つようになったいきさつを教えてください。

松岡さん:ロンドンによく行っていたんですけど、直行便ではなくデリーを経由するエア・インディアなどの便を使っていました。学生だったので少しでも旅費を節約したかったんですよね。あるとき、ロンドン帰りに経由地のデリーで降りてみようと思いついたんです。時間もあったし途中で降りてもタダでしたから。

 

――それでインドの魅力にハマったんですね。

松岡さん:ところがコテンパンにやられまして……。みんなが僕のことを騙そうとしてくるし、よくわかんないとこに連れて行かれそうになるし、おまけに現地人と同じように飲食していたら帰国後に肝炎で緊急入院することになるし……。

 

――散々じゃないですか。

松岡さん:でも「あの国はなんなんだ」と、インドのことが頭から離れなくなりました。それからリベンジのようにインドへ通うようになり、慣れてくるにつれて魅力がわかってきたんです。底知れないインドの魅力に気づいたことで、これはもっと気合を入れて旅しなくてはと思い、大学を一年間休学してインドを巡りました。

 

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旅を楽しむバックパッカーから
取材で旅をする編集者へ。

――どうして編集の仕事に携わるようになったんでしょう?

松岡さん:バックパッカーとして暮らしていたものの、そろそろちゃんと仕事しないとヤバいんじゃないかと不安になったんです。そこで職探しをはじめたんですけど、なかなか採用されなかったので、朝から晩まで図書館で本を読んで、疲れたら隣の動物園でクジャクに餌をやって過ごしていました。結果的に当時の読書が今の仕事に役立つことになったんです。

 

――それで、仕事は見つかったんでしょうか?

松岡さん:何度か不採用を経験するうちに、履歴書に問題があると気づきました。履歴書のマナーを知らなかったから、よれよれのTシャツを着た写真を貼っていたんですよ。そこで、襟のついたシャツを着た写真を貼ったら採用されました。そこが旅行ガイドブックの編集プロダクションだったんです。

 

――そこで編集を学んだんですね。

松岡さん:学んだなんてもんじゃないですよ(笑)。未経験だったのに、いきなり一冊まるごと任されたんですから。でも有名作家でもあった社長が、こんなど素人の原稿にすべて目を通して添削してくれたおかげで、台割りからデザインまで編集に関わるすべてを身につけることができました。

 

――プロダクションで働いた後はフリーに?

松岡さん:インドのガイドブックをつくらせてほしいと頼み続けていたんだけど、なかなか聞き入れてもらえなかったので、しびれを切らして退社したんです。今考えると若気の至りだったと思いますね。ただ、それまで仕事で関わってきた方々から依頼をいただけたので、そのままフリーランスとして仕事をしていくことができたんです。

 

――フリーランスになって、どんな仕事をされてきたんでしょう?

松岡さん:ライター、フォトグラファー、編集……できることはなんでもやりました。ただ、旅をしながら仕事をする信念は曲げませんでしたね。先輩から仕事を絞ったほうがいいとアドバイスを受けましたが、絞ることができなかったんです。結果的にはそのおかげで生き残ってこられたんじゃないかなと思っています。

 

――具体的にはどんな仕事に携わったんですか?

松岡さん:「地球の歩き方」の「aruco(アルコ)」という女性向けシリーズで、インド編をやってみないかと声をかけてもらったんです。今までのシリーズには最新のインドが反映されていない不満があったので引き受けましたが、ひとりでやるのは厳しかったので、一緒に仕事をやってくれる相棒を探しました。そのときに知り合った女性編集者と、後に「KAILAS」を立ち上げることになるんです。

 

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「KAILAS」を立ち上げ
インドの旅をテーマにした本を刊行。

――「KAILAS」を立ち上げることになったいきさつを教えてください。

松岡さん「地球の歩き方 aruco インド」の取材をした際に、収まりきらないネタがたくさんあったんです。あまりにもったいなかったので、そのネタを使った「持ち帰りたいインド」という本を刊行することにしました。その際に「KAILAS」というユニット名をつけたんです。

 

――「KAILAS」には、どんな意味があるんでしょう?

松岡さん:チベット奥地にある山の名前なんです。チベット仏教、ヒンドゥー教、ボン教の聖地になっていることから、足を踏み入れることができない聖なる山とされています。僕は以前から屋号をつけるならこの名前を使いたいと考えていたので、相棒と散々話し合いをした後に「じつは前から決めていた名前があって……」と切り出したら「今までの時間はなんだったん」と呆れられました(笑)

 

――そうでしょうね(笑)。「持ち帰りたいインド」はどんな本なんですか?

松岡さん:人の手でつくり出された雑貨をはじめ、暮らしのなかで使い続けてきたモノたちを紹介しながら旅する内容になっています。インド通の人でも知らないような情報が載っていて、反響が大きかったのは嬉しかったですね。

 

――インド通でも知らない情報というのはすごいですね。

松岡さん:他にも「タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる」という本も刊行しています。これは南インドにある「タラブックス」という出版社で生み出される「世界でいちばん美しい本」を紹介したものなんです。手漉きした紙に手刷りのシルクスクリーン印刷を施し、製本作業まで人の手でおこなっている本で世界中の本好きを魅了しています。

 

――そこまでいくと、もはや工芸品ですね。

松岡さん:「タラブックス」の本づくりには、後に刊行する「ひとりみんぱく」という本で影響を受けているんですよ。

 

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内容はもちろん、装丁にもこだわった
「ひとりみんぱく」。

――「ひとりみんぱく」というのはどういう本なんですか?

松岡さん僕が世界を旅して見つけてきたコレクションを紹介しながら、エッセイを交えた内容になっています。個人的な民族博物館という意味を込めて「ひとりみんぱく」と名付けました。

 

――ずいぶん綺麗な本ですね。

松岡さん:今までとは違ったアプローチでつくりたいと考えていたので、ずっとお願いしたかったデザイナーに装丁をお任せしたんです。製本にもとことんこだわって、何度も打ち合わせを重ねました。表紙に使うクロスを決めるだけでも5回くらい集まったんじゃないかな。オンラインを利用すれば人に会わず本がつくれる時代に、がっつりフィジカルなつくり方をしました(笑)

 

――他には、どんなところにこだわりました?

松岡さん:どこからでも自由に読んでほしかったから、この本には目次がないんです。とはいっても、ページ立てはとことん考えてつくってあるんですけどね。あと写真のキャプションはページの外側に入れることが一般的なんですけど、この本では綴じ代のある内側に入れて見づらくしてあります。どうしてかというと、キャプションより先に写真を見てほしいから。先入観なく写真を見てもらいたいんです。

 

――大変なこだわりようですね。

松岡さん:自分の思うままにつくらせてもらいました。そのおかげで満足のいく本ができましたし、いろいろな方から高い評価をいただきました。増刷の際に表紙の色を5種類つくらせてもらうことができて、日本書籍出版協会の「第58回造本装丁コンクール」で理事長賞をいただきました。

 

――それはすごいですね。これからはどんな本をつくってみたいですか?

松岡さん:「ひとりみんぱく」の続編として、石をテーマにした本を刊行する予定なんです。つくってみたかった本のなかでも最後に出そうと考えていたテーマなんですけど、出せるうちに出そうと思って予定を前倒ししました。僕は石にも興味があって、「地球の歩き方 新潟」に関わったときは、「糸魚川の海岸へヒスイを探しに」という特集ページをつくったほどなんです(笑)

 

――民芸品の次は石なんですね。

松岡さん:テーマが変わっても自分にとっては、旅の本をつくっていることに変わりはありません。これからも旅をしながら仕事を続けていきたいですね。

 

松岡 宏大

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