部屋とは、そこで暮らす人の暮らしぶりや趣味嗜好、人柄までもが現れる唯一無二の場所。似ている部屋はあっても、おそらくこの世に全く同じ部屋はひとつも存在しません。「この人ってどんな人なんだろう、どんなものが好きなんだろう」。その答えがきっと部屋にはあります。シリーズ『部屋と人。』では、私たちと同じ新潟に暮らす人たちの、こだわりの詰まった「自分の部屋」をご紹介します。
第8回は、『服と人。』にも出演してくれた、「J.interior shop」のオーナー上村望さんのご自宅です。南魚沼でショップを運営しながら、建築士やインテリアコーディネーターとしてのお仕事もしている上村さん。今回お邪魔したご自宅は、一昨年に上村さんがイチから設計したこだわり溢れる空間なんだとか。いったいどんなこだわりが詰まっているのでしょうか。インテリアに興味を持ったきっかけから、設計をするときに意識したこと、今後の展望までいろいろと聞いてきました。
企画/プロデュース・北澤凌|Ryo Kitazawa
イラスト・桐生桃子|Momoko Kiryu
――「服と人。」の取材ぶりですね。以前お会いしたときに、これからお家が建つという話があったのを覚えています。今日は楽しみにしてきました!
「お久しぶりです(笑)。今日は玄関と1階のフロアについて話そうかなと思っているので取材よろしくお願いします」
――それではまず、上村さんがインテリアに興味を持ったきっかけから教えてください。
「もともと父親と祖父が建築の仕事をしていて、祖母が家のなかの掃除や飾り付けを欠かさずに行ったりする人だったので、小さい頃から『インテリアはこだわるもの』という意識がありました」
――当時から将来は建築やインテリアに携わる仕事に就きたいと考えていたんですか?
「高校卒業の進路を考えたときはファッションデザイナーになりたいと思っていたんですよ。だけど厳しい世界だということはわかっていたし、両親に反対されたこともあって諦めることにしたんです。それからしばらく他の職業でデザインに関われる仕事を調べていたんですけど、なかでもとくに惹かれたのがインテリアデザインという分野でした」
――ファッションデザイナーのなかには建築を専攻していた人もいるくらいなので、建築とファッションは通ずるところがあったのかもしれませんね。建築の専門学校へ進んで、いまのお仕事につながっていくわけですね。
「そうですね。はじめは漠然としていたんですけど、入学してから学んでいくうちにこの業界にどハマりしてしまって(笑)。とくに修学旅行で行ったローマでの経験は、街の歴史から住んでいる人たちの考え方まで、なにもかもが人生観を変えてくれるほど刺激的でした。卒業後は建築会社や工務店に勤務しながら現場のノウハウと実践的なスキルを吸収して、一昨年に『J.interior shop』というインテリアショップをスタートしました」
――聞いたところによると、こちらのお家は上村さんがイチから設計して建てたんですよね。なにかテーマやコンセプトはあったんでしょうか?
「具体的なテーマとかはないんですけど、美術館みたいに置いてあるもので部屋の印象がガラッと変わるような家を作りたいと思ったんですよね。そのために内装は無機質な色で統一しつつ、暖かい雰囲気も出したかったので差し色にラタンを入れました。建築作業は知り合いの大工さんに協力してもらいながら、私もタイル貼りや壁塗りをしたんですけど、よく見るとムラがあったりするんですよね(笑)。でも見るたびに建てたときのことを思い出せるので、消さずに残してしておこうと思っています」
――理想のお家が完成したわけですが、今回紹介してもらう玄関と1階のフロアにはどんなこだわりがあるんでしょうか? 玄関から順に教えてください。
「南魚沼はとくに雪が降る地域なので、子供が雪遊びをしたときにも気にせず玄関に入って来られるように広く設計をしました。それとただ広くするだけじゃなくて、スペースを活かしたインテリアの見せ方もしたいと思って、長い棚のうえに植物やそのとき自分が気に入っているものを置けるようにしてあります」
――設計するにあたって重視したことってありますか?
「家族との暮らしを考えたとき、デザインと実用性を両立させることがとても重要でした。家のなかにはいくつかの収納スペースが設けてあって、この玄関の棚には靴以外に、私生活で必要となるバスタオルや着替えまで、それぞれ区分けして入れてあるんです」
――ちなみに棚の上に並べられているもののなかで、いま特に気に入っているものはなんですか?
「最近は『Aesop』のブラスオイルバーナーとオイルです。もともと嗅覚が敏感な方だったので、好きな匂いが限られていて、匂いによっては頭が痛くなることもあったんです。いま使っているオイルはニューヨークへ行ったときに見つけたもので、このオーガニック系の匂いに出会って以来ずっとリピートしています。好きな匂いがあるだけで、日々のテンションが全然違うんですよね」
――1階のフロアにはどんなこだわりがあるんでしょうか?
「ここは家族みんなでご飯を食べたり、ゆっくりと過ごしたりすることが多い場所なので、スペースを広く取れるような間取りにしてあります。あとキッチンはオーダーメイドなんですけど、対面式じゃなくてあえて壁付けの形を選びました。私にとって料理をすることは、ストレス発散になるだけじゃなくて、自分だけの世界に没入できる大切な時間なんですよね。キッチンの色合いは、調味料のケースが差し色になるようにベースを1色で統一しました」
――はじめて見る調味料が多いんですけど、海外から取り寄せたものですか?
「そう!やっぱり日本では入手しづらい調味料が沢山あって、いま使っているシーズニングはニューヨークとか、スペインとかから取り寄せたものですね。向こうの建築やインテリアをちゃんと理解するには、現地の食事やファッションに触れることも欠かせないと思うんです。そこで感じたことが結果的にお店の方にも反映されますしね。だからまずは興味のあるものから私生活に取り入れるようにしています」
――「住」だけじゃなくて、現地の人たちがどんな「衣、食」に触れながら暮らしているのか、実際に自分でも触れるようにしているんですね。
「お店で取り扱うものは、自分が『これを持ち帰りたい!』と思ったかどうかを大切にしています。スケジュールの都合でどうしても現地へ行けないときは、信頼のおけるバイヤーと密に連絡を取り合って、お互いの感覚の擦り合わせだったり、どんなプロダクトなのかを徹底的に確認したりもしています」
――ところで、お家に関して旦那さんからはどんなリクエストがあったんですか?
「天井の高さと寝室について少しあったくらいで、あとは『ずっと憧れてきたことなんだから全部好きにやりな!』って言ってくれて…。私もしばらく家づくりに携わってきましたけど、そんなふうに言ってくれる旦那さんって会ったことがなかったんですよね。好きに設計させてもらえた嬉しさもありますけど、それ以上に感謝の気持ちでいっぱいです」
――上村さん自身、お家ができてからなにか心境の変化はありましたか?
「毎日が最高です!アパートで暮らしていたときはスペースが限られていたので、部屋に置ける家具も少なかったし、賃貸だったから飾り付けしようにもできなかったんですよ。でも、いまは自分の理想が詰まった場所で好きな人やものに囲まれているから、なにをするにもモチベーションが高いんですよね。子供ものびのびと遊べているみたいで、あの子が楽しそうにしているところを見ると『建てて良かったな』と思えます」
――最後にお家や仕事の展望についてなにかあれば教えてください。
「欲しい家具がいっぱいあるので、お金をちゃんと貯めて少しずつレベルアップしていきたいですね。仕事に関しては、実はいまロサンゼルスの学校にオンラインで通っていて、日本でどうやったら『建築士』と『インテリアコーディネーター』、ふたつの資格を活かした仕事につなげられるかを勉強しています。アメリカでは『インテリアデザイナー』というひとつの職業にどちらの仕事も含まれているらしいんですけど、日本ではまだ分業制が当たり前なので、向こうのやり方を学びつつ、もっと仕事を広げていきたいですね」
僕はこれまでの取材を経て、インテリアとは「決められた間取りやレイアウトのなかでいかに工夫やアイディアを施すか」だと思っていました。しかしそれだけじゃなく、設計者が意図して用意する「実用性」や「機能面」についてしっかりと考えることで、より一層インテリアを楽しむことができるようになると知りました。これからも取材を通して新たな視点を得つつ、いろんな角度からインテリアに触れていきたいと思います。(byキタザワリョウ)