年を跨いでも一向に収束する気配のない新型コロナウイルスの感染拡大は、特に人が「会う」「集まる」機会や場を提供する業界に大きな影響を与えました。この年末年始も、本来であれば会えたはずの人に会えなかった方も多いのではないでしょうか。その影響は、飲食業や観光業のみならず、人間にとって一生に一度のお別れの機会を提供している葬祭業も例外ではありません。コロナ禍を受け、お葬式の現場ではいま何が起こっているのか。県北で地域に密着した葬祭業を長年営んでいる「会津屋」の社長・舩山さんにお話を伺ってきました。
会津屋
舩山 博貴 Hiroki Funayama
1979年村上市生まれ。株式会社会津屋代表取締役社長。1935年に創業し、県北の村上・胎内地域で総合葬祭業を営む同社の4代目。会社では現在、大小5つの式場、2つの仏壇・仏具販売店を運営。また2009年の社長就任以来、社員が産休や育休、介護休などを取得しやすく、復帰もスムーズにできる職場体制の整備にも取り組み、昨年、厚労省から子育てサポートの水準が高い企業に与えられる「くるみん」の認定も受けた。自身も3児のパパ。
――早速ですが、葬儀の世界でも新型コロナウイルスの影響はやはり大きいのでしょうか。
舩山さん:とても大きいですね。まず、遠方からの参列が難しくなったことに伴い、参列者の数が顕著に減っています。また、お斎、会食も感染予防のため取り止めたりテイクアウトに代えたりする場合が増えています。もちろん式場での感染防止対策は徹底していますが、ひとつの場所に人が集まることを前提としていたお葬式本来のあり方が、岐路に立たされているといえるのかもしれません。
――ちなみに、売上でいうとどのくらいの損失となったのでしょうか。
舩山さん:ざっくりとした計算ですが、率直に言えば、式からお斎がなくなれば弊社の規模で年間だいたい1億円くらいの機会損失になっていました。実際はテイクアウトに切り替えていただくなどして当初懸念していたほどの損失にはなっていません。ただそもそも、式の小規模化という流れそのものはコロナ以前から進んでいたことではあります。
――そういえば、コロナ以前から「家族葬」という言葉もよく聞かれていましたね。
舩山さん:その家族葬という表現に象徴されるように、お葬式は以前から少人数化・簡素化のニーズが高まっていて、弊社も数年前から家族葬向けの式場を運営しています。また近年は、個別化という流れもあります。つまりただ形に当てはめたような式でなく、「その人らしさ」を大切にした式ですね。そもそもお葬式は本来、そういう個別具体的なものであるべきで、弊社では以前から、ご家族とのご相談を大切にしながら、その人らしい式となるよう取り組んできています。100人いれば100通りの式があります。それはコロナ禍があろうとなかろうと変わらないことです。
――具体的にはどういったことでしょう?
舩山さん:最も重要なのは、どんな規模・スタイルであれ、故人とご家族、ご親類、生前ご縁のあった方とがじっくりと最後のお別れをしてもらうことです。弊社では儀式の中に必ず、故人の思い出を偲ぶお別れの時間を設けています。ご家族にとっては儀式や参列者への対応をつつがなく執り行うことももちろん大切ですが、それらにばかり時間や気をとられ、肝心の故人と向き合う余裕がなくなってしまっては元も子もありません。そのような時間は、このコロナ禍で病院や施設では面会制限などもあり生前なかなか会えなくなっている現在だからこそ、なおさら大切にしてもらいたいと思っています。
――確かにそうですね。
舩山さん:私を含め弊社のスタッフが肝に銘じているのは、「儀式のプロ」よりも「お別れのプロ」であれ、ということです。中には、通夜よりも前に火葬してしまう場合もあると聞きます。それではさすがに故人としっかりとした最後のお別れができません。「コロナだから」とか、誰かに言われた「そういうものだから」に流されるよりもまず、故人を大切に思う気持ちを優先してほしいです。
――とはいえ身内の葬儀というのは一生に数えるほどしかないことで、しかも最近はコロナ禍という不確定要素も加わり、実際に家族が亡くなった場合、どうすればいいのか混乱する人も少なくないと思います。
舩山さん:そうですね。だからこそ、ぜひ事前相談をしてもらいたいと思っています。以前は「亡くなる前に相談なんて縁起でもない」なんて言われたりもしましたが、現在では「終活」や「エンディングノート」といった概念も広まってきています。弊社でもご家族からの相談のほか、数はまだそれほど多くありませんがご自分の葬儀について相談に来られる方もいらっしゃいます。弊社のアンケートでは、事前に相談したうえで式をした遺族の方のほぼ全員が「事前に相談していてよかった」と答えています。不安をなくし、心を落ち着かせて悔いの残らない式にしてもらうためにも、事前にじっくり話を聞かせていただきたいです。
――本人が相談することもあるんですか。
舩山さん:「家族に面倒をかけたくない」という方が多いですね。式の段取りや誰を呼ぶかを決めるほか、ご自身で遺影の写真を選ばれたり、当日配布する文書を自作したり、中にはムービーを撮られる方もいらっしゃいますよ。
――今後の展望はいかがですか。
舩山さん:コロナ禍によるダメージは確かに受けましたし、お花や引き物、食事などお取引先への発注が減っていることも心苦しいのですが、コロナ禍に関係なく以前から取り組んできたことが結果的に対コロナとして活かせていて、蓋を開けてみたら意外と何とかやっていけているな、というのが正直な感触です。
――なるほど。
舩山さん:その具体例をもうひとつ挙げるとすれば、弊社では以前からご要望に応じて故人の生前を振り返るムービーを作成し、式で放映したりしていましたが、それをコロナ禍で式に参列できなかった遠方の方に送ると、大変感謝していただけます。繰り返しになりますが、お葬式で最も大切なのは故人の生き方を偲び、故人とじっくり向き合い、しっかりと最後のお別れをすることです。それがリアルで難しいのであれば、オンラインでもまた別の方法でも何とかして叶えるのが私たちの務めだと思っています。
――考えてみれば、葬儀はみんな一生に1回だけですが、必ずあるものですものね。
舩山さん:コロナだからといって無闇に略したり本来やりたかったことを諦めたりすれば、後々ずっと悔やむことにもつながりかねません。まずは事前に相談していただければありがたいです。プロとして、その人らしい式となるよう、様々なご提案をさせてもらえばと思います。
――本日はありがとうございました。