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魅力あるガラス工芸品を作り続ける「秋葉硝子」。

かつてはガラスの里として栄えた新潟市秋葉区。

石油の里として知られる新潟市秋葉区が、以前はガラスの里としても栄えていたことをご存知でしょうか?この地域で石油とともに産出されていた天然ガスが、ガラス産業を発展させて来たのだそうです。そんな秋葉区のガラス産業も、時代の流れと共に衰退してきてしまいました。そんな秋葉区のガラス作りを絶やさないため、ガラス製品作りを続けている「秋葉硝子(あきはがらす)」という工房があります。今回はご夫婦でガラス作家をされている照井さん夫妻と、スタッフの野瀬さんにお話を聞いてきました。

 

 

秋葉硝子

照井 康一 Kouichi Terui

1951年新潟市生まれ。「秋葉硝子」代表。1971年より多摩美術大学プロダクトデザイン科で学んだ後、群馬県の「上越クリスタル硝子」や新潟市秋葉区のガラス工場を経て、1989年「吹き硝子三春」で独立。その後「和光硝子」で専務を務め、2014年に「秋葉硝子」を立ち上げる。

 

アトリエ三春

照井 清子 Seiko Terui

1955年函館市生まれ。「アトリエ三春」代表。山脇美術専門学校卒業後、「上越クリスタル硝子」デザイン室勤務。夫の康一さんと共に「吹き硝子三春」を立ち上げ、吹きガラス、キルンワークの制作を始める。2009年「アトリエ三春」設立。

 

秋葉硝子

野瀬 吉彦 Yoshihiko Nose

1951年新潟市生まれ。建設業兼プラントメンテナンスの会社を定年退職後、中学の同級生だった康一さんの誘いで「秋葉硝子」入社。パソコンや電子機器のサポートや広報的な活動を担当している。

 

倒産した工場の設備を引き継ぎ、ガラス工房をスタート。

——今日はよろしくお願いします。「秋葉硝子」さんってとっても大きな工場なんですね。

康一さん:ここは元々「和光硝子」というガラス工場があったんですよ。50年にわたり業務用のガラス製品を大量生産していた工場です。残念ながら倒産してしまい、私が設備を受け継いで2014年に「秋葉硝子」を立ち上げました。この秋葉区は古くからガラスの町として栄えていたんです。最盛期には十数軒のガラス工場があったんだけど、今では「秋葉硝子」1軒になってしまったんです。

 

——じゃあ「和光硝子」さんの業務も引き継いだんですか?

康一さん:いえ。取引先は離れてしまってましたからねぇ。下請けの仕事は減って業績は上がりませんでした。それでとうとう休業に追い込まれてしまったんです。従業員も雇えないので、残ったのは私一人になってしまいました。

 

——それは大変でしたね。それからどのように立て直したんですか?

康一さん:自分にできることを考え直しました。それで、業務用製品の下請けはやめて小売用のガラス工芸品を作っていくことにしたんです。形態を変えて再スタートするために、環境を整理することにし、必要なスタッフを集めました。

 

野瀬さん:私もそのときに誘われたんです。ちょうど前の職場を定年退職したタイミングでした。照井さんとは中学校の同級生だった頃からの付き合いなんですよ。彼はパソコンや電子機器が苦手なので、私はそっちの方をサポートしています。あと,広報的なこともやってます。

 

——方向転換を図ったんですね。奥さんもガラス工芸の作家さんなんですよね?

清子さん:はい。「秋葉硝子」の中で「アトリエ三春」という工房をやっていて、おもに色ガラスをカットして組み合わせていく手法の作品を作っています。カラフルなものや、デザイン性のある作品が多いですね。

 

黄金色がかった温かみある風合いの「淡黄金(あわこがね)」。

——「秋葉硝子」さんではどんな製品を作っているんですか?

康一さん:ひとことでいえばガラス工芸品が中心。グラス、器、オーナメント、アクセサリー、箸置き、風鈴…。私の作品の中では「淡黄金」シリーズというのがあります。黄金色がかった風合いの温かみあるガラス製品で人気があるんです。作った作品は工房に併設したショップで販売してますので、ぜひご覧いただきたいですね。

 

——そういったガラス製品を作るときに気をつけていることはありますか?

清子さん:作りたいものによって狙いが変わって来るので、気をつけるところも変わっていきます。たとえば、ガラスの中に気泡が入るのは基本的にNGですけど、作品によってはわざと気泡を入れて、作品に生かす場合もあるんですよね。

 

 

康一さん:一点ものの作品として作る場合は、ある程度自由に作りますが、同じ種類をいくつも作る場合は規格を揃えなければなりません。手作りですので同じものが作れるわけではないんだけど、形や雰囲気は揃える必要がありますね。

 

——作る製品でいろいろ気をつけるところも変わって来るわけですね。では、どんな風に製品を作っているんですか?

康一さん:大きく分けて2種類の手法があります。ひとつは「吹きガラス」。1300度の高熱で溶かしたガラスを吹き竿の先につけ、息を吹き込んでふくらませ、形を作っていく手法です。もうひとつは「キルンワーク」。冷えたガラスを組み合わせ、電子炉の中で加熱して変形や癒着させる手法です。それぞれ作りたい作品のイメージで使い分けをしています。場合によっては、両方組み合わせて作る製品もあるんですよ。

 

——作品にまつわるエピソードがあったら教えてください。

野瀬さん:新潟県がロシアで開催した、新潟県産品をアピールするイベントがあったんです。寿司職人が現地に行って握った寿司を食べてもらい、ロシアの人たちに寿司や日本酒のレクチャーをするっていうイベントでした。そのときの寿司を盛るガラス皿に「秋葉硝子」の皿が採用されたことがありました。また、ロシアの行政関係者やウラジオストック日本総領事館の人々へのプレゼントに清子さんの作品が贈られたりもしました。

 

「秋葉硝子」を立ち上げたガラス作り一筋の作家・照井康一さん。

——康一さんはずっとガラス作りをしてきたんですか?

康一さん:そうですね。多摩美術大学でプロダクトデザインを学んだあと、昭和40年に群馬県の「上越クリスタル硝子」に入社して、5年ほどガラス製品づくりの修行をしました。その後、地元の新津に帰ってガラス工場に勤めていましたが、下請けの製品作りじゃなく、作家としてガラス作品を作りたい気持ちがあったんです。それで平成元年ころ、結婚も機に工場を退社して新発田市(旧豊浦町)に「吹き硝子三春(みはる)」を立ち上げ、ガラス作家として工芸品作りを始めたんです。

 

——個人工房をやられていたんですね。それが、どんないきさつで「秋葉硝子」を始めることになったんですか?

康一さん:平成23年ころ「和光硝子」から声をかけられたんです。そのころは海外から安いガラスが輸入されたり、ガラスの原料が高騰したりして、ガラス産業が次々にダメになっていったんですよね。それで、「和光硝子」から呼ばれて会社を立て直すお手伝いをしたんだけど、結局倒産しちゃったんです。それで「和光硝子」の建物や機械を受け継いで「秋葉硝子」を立ち上げました。

 

秋葉区のガラス作りの魅力を伝え続けていきたい。

——工場の中に大きな窯がありますね。あれも使っているんですか?

野瀬さん:あれは現在は使っていません。でも「秋葉硝子」のシンボルとして残してあるんです。窯のまわりを業界では「舞台」って呼んでいたことから、窯のまわりをステージに見立てて、ときどき「Factory Live(ファクトリーライブ)」というライブステージを開催しているんです。工場が広いので音響もいいんですよ。

 

康一さん:私は音楽が好きで、その中でもとくにジャズが大好きなんです。ですから、知り合いのジャズミュージシャンに声をかけて始めたのがきっかけです。現代舞踊をやったこともあります。そういうイベントをやっているのは、ここに人が集まるきっかけになってくれたらという気持ちもあります。

 

——人が集まるようにするために、今後やっていきたいことってあるんでしょうか?

康一さん:途絶えつつあるガラス作りを次世代に伝えていきたいと思っています。あと、秋葉区にあったガラスの里の歴史を残したいという気持ちもあるんです。ですから、観光スポットとして「秋葉硝子」に足を運んでもらって、秋葉区やガラスの魅力を知ってほしいし、伝えていきたいと思っています。

 

清子さん:お子さんからお年寄りまで幅広い方々にガラス作りを体験していただきたくて、予約制でガラス作り体験を受け付けています。とにかくガラス作りに興味を持ってほしいですね。

 

——最後に、作家さんにとってのガラスの魅力を教えてください。

康一さん:ガラスって地球上の物質の中では特殊なものですよね。透明で物質の向こうが透けて見えるっていう。いってみれば「固まった液体」ですよ。私の中では宇宙をイメージすることができる素材なんです。

 

清子さん:自然の物質を使った素材としては、色の種類も豊富で多様なんです。作品作りの素材としては、これほど面白いものはないんじゃないでしょうか。

 

 

以前はガラスの里として栄えていた新潟市秋葉区で、ガラス製品の魅力やガラス作りの楽しさを伝えている「秋葉硝子」のみなさん。吹きガラスや組みガラスで作られた、魅力的なガラス製品の販売はもちろん、ライブイベントの開催や、ガラス作り体験なども積極的におこなっています。みなさんも「秋葉硝子」で透明で神秘的なガラスの魅力に触れてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

秋葉硝子

〒956-0833 新潟県新潟市秋葉区草水町2-12-32

0250-47-8402

10:00-16:00

日曜休

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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