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住宅地の路地裏にある小さな洋菓子店「Alley Birthday」。

新潟市東区に「Alley Birthday(アリー・バースデー)」というお菓子屋さんがオープンしたということで取材にお邪魔すると、住宅街の細い路地裏にお店がありました。どうしてこの場所でお店をはじめたのか、柳通恵介さん、英里子さんご夫婦にお話を聞いてきました。

 

 

Alley Birthday

柳通 恵介 Keisuke Yanadori

1979年新潟市北区生まれ。東京の専門学校でイラストを学んだ後、新潟に戻って「JOHAN(ジョアン)」「anaクラウンプラザホテル新潟」でパティシエとしての経験を積む。2023年に妻の英里子さんと「Alley Birthday」をオープン。パンクロックが好きで「THE POGUES(ザ・ポーグス)」を聞きながら仕込みをすることも多い。

 

Alley Birthday

柳通 英里子 Eriko Yanadori

1979年新潟市東区生まれ。短大で栄養士の資格を取得し、老人福祉施設や給食受託会社、障がい者支援施設で働く。2023年に夫の恵介さんと「Alley Birthday」をオープン。図鑑や動画でサメを眺めることが好きで、ご贔屓はホホジロザメ。

 

路地裏でお店をはじめてみて思うこと。

——ずいぶん奥まった路地裏でお店をオープンされたんですね。隠れ家感がすごいんですけど……。

恵介さん:自宅の横にあった空きスペースでオープンしたんです。周りの人たちからは「そんな場所でお店をやっても人が来ないんじゃないか」って心配されましたね。お世話になっている洋菓子店の社長からも「なんでそんな場所でお店をはじめるの?」って不思議がられてしまいました(笑)

 

英里子さん:表通りにあるドラッグストアやコンビニの駐車場をお借りしたり、インスタグラムを利用したりして、いろいろ工夫することで場所のデメリットを解消しながら、なんとか営業しています。

 

——クチコミでの拡散が必要不可欠ですよね。なかには道に迷ってしまうお客さんもいるんじゃ……。

恵介さん:いらっしゃいますね。セブンイレブンさん側から入っていただくとわかりやすいんですけど、派出所側から入るとわからなくなっちゃうんです。お問い合わせのお電話をいただくことも多いんですよ。なかには探すのを断念して帰ってしまうお客様もいます。

 

英里子さん:その一方で、「Alley Birthday」で買い物してくださったお客様が、店名入りの紙袋を持って路地から出てくるのを見て「こんな路地裏に何があるんだろう」と不思議に思って探しに来てくださる方もいらっしゃいます(笑)。最初はグレーの外壁も考えたんですけど、周りの住宅街から浮き過ぎないように気をつけました。明るく清潔なイメージで、ケーキ屋さんだとわかりやすいように白を選んだんです。

 

恵介さん:屋根も白にしたのは、日光を反射してできるだけ店内に熱が篭らないようにしたかったからなんですよ。あと、小さなお店なので、入口で待つお客様に雨雪や日光が当たらないよう、庇を前へ出すようにしてあります。

 

 

——外装にはいろいろな配慮をされているんですね。では、内装のこだわりもお聞きしたいと思います。

恵介さん:僕がやりたかったのは、アメリカの田舎にあるような小さなお菓子屋さんなので、そんなアメリカンカントリーなイメージの内装にしました。できるだけクラシカルなムードにしたかったので、棚やフレームには古材を使ってもらっています。看板もビンテージ風に作っていただきました。協力してくださった方々のおかげで、こだわりを通すことができましたね。

 

英里子さん:お店のイメージは、ケーキよりこだわっているかもしれません(笑)。電気のスイッチひとつにしても、三条にあるアメリカンビンテージの店まで買いにいきました。壁塗りやタイル貼りといった作業は、できるだけ家族みんなで楽しみながらやったんです。

 

——内装にもこだわったんですね。ところで、住宅地で営業をしていると、近所の方々には気を使うんじゃないですか?

英里子さん:もちろんそれはありますけど、近所の方々は皆さん親切で、いろいろ助けてくださるんです。風でのぼり旗が倒れていれば起こしてくれるし、のぼり旗を立てるポールスタンドの水が減っていれば足してくれます。お客様の道案内までしてきてくださるんですよ(笑)。本当に周りの方々に助けられながら営業していますね。

 

パティシエの夫と、栄養士の妻。

——お店ではどんな分担になっているんですか?

恵介さん:お菓子作りは僕がメイン、お客様への接客は奥さんがメインですが、ふたりで一緒にやっているイメージです。

 

——恵介さんは昔からパティシエを目指していたんでしょうか。

恵介さん:実はイラストレーターになりたくて、東京の専門学校でイラストの勉強をしたんですよ。新潟に帰ってからも公募に応募していたんですけど、それだけでは食べていけないのでインストアベーカリーの「JOHAN」で働きはじめたんです。

 

——最初はパンを作っていたんですか。

恵介さん:クロワッサンを作っていたんですけど、ケーキ部門に欠員が出たので僕が補充に回ったんです。分量がシビアなので最初は失敗も多かったんですけど、練習を重ねるうちにいろいろ上手にできるようになって、周りから褒められたんですよ。そうなると「できるじゃん、俺」って楽しくなっていきました(笑)

 

 

——恵介さんは褒められて伸びるタイプなんですね(笑)

英里子さん:すごーくよく言ってもらえれば、そうですね(笑)

 

恵介さん:調子に乗った僕は本格的にケーキ作りの修業をしたくなって、ホテル新潟……今のANAクラウンプラザホテルでパティシエとして働きました。ここではデザートのケーキをはじめ、ウエディングケーキ、クリスマスケーキを作ったり、料理教室までやりました。特にクリスマスケーキ作りは、泊まり込みするほどハードな仕事でしたね。

 

——英里子さんは、今までどんな仕事をされてきたんでしょうか?

英里子さん:栄養士として老人福祉施設や給食受託会社で食事を作ったり、献立を考えたりしてきました。

 

——栄養士になろうと思ったきっかけってあったんですか?

英里子さん:私はおばあちゃんっ子だったんです。おばあちゃんは私が小学生の頃に亡くなってしまったんですけど、人工透析をしていて食事制限のために好きなものも食べられない姿を見続けてきたので、栄養士になってそんなお年寄りの力になりたいと思ったんです。

 

やりたかったのは、地元に根ざしたお菓子屋さん。

——お菓子作りのこだわりを教えてください。

英里子さん:とにかく、人の口に入るものを作っていることを意識しています。そのために衛生と食材には特にこだわっているんです。

 

恵介さん:衛生面では、作り置きをせずに当日製造、当日消費を徹底するようにしています。品切れでご迷惑をおかけすることもありますが、ご理解いただけるとありがたいです。

 

——食材はどんなふうにこだわっているんでしょう?

恵介さん:国産の、できるだけ美味しい材料を使っています。小麦やバターは北海道産を使っていますし、ベーキングパウダーもかなり上質なものを使っているんですよ。お菓子に使うチョコレートは、いろいろなサンプルを家族みんなで試食して、いちばん人気があったものを使っています(笑)

 

——ご家族お墨付きのチョコレートを使っているわけですね。他にもこだわりはありますか?

恵介さん:僕は見た目が華やかなものよりも、シンプルで素朴なお菓子が好きなんですよ。だから昔ながらのクラシカルなデザインのものが多いんです。でもいちばんのこだわりは、夫婦ふたりで楽しみながら作っていることかもしれないですね。ホテルに勤めていた頃は忙しくてピリピリしていて、お菓子を作っていても全然楽しくなかったんです(笑)

 

英里子さん:そういう雰囲気で作っているとお菓子にも反映されて、お客様にも伝わるんじゃないかと思っています。

 

 

——お菓子作りのこだわりをいろいろお聞きしましたけど、お客さんへの対応で気をつけていることはありますか?

英里子さん:小さなお店ですのでお客様とはできるだけお話をさせていただいて、アットホームな対応を心がけるようにしています。

 

恵介さん:接客を見ていると、奥さんは本当にお客様への対応が上手いなと思いますね。奥さんと話したくてご来店くださるリピーターも多いんですよ。

 

——ファンがいるわけですね(笑)。これから、どんなお店に育てていきたいですか?

恵介さん:お菓子のバリエーションを増やして、お客様に選ぶ楽しみをもっと提供できるようにしたいです。

 

英里子さん:私も自分のスキルを生かして、こども食堂やお母さんのための料理教室もやってみたいですね。そして地元に根ざしたお店にしていきたいと思います。

 

——「地元に根ざしたお店」を目指す上で、住宅街のなかに店舗があるのは正解かもしれませんね。

恵介さん:近所の小学生がひとりで、おこづかいを握りしめてシュークリームをひとつ買いに来てくれるんです。それが本当に嬉しいんですよ。僕らがやりたかったのは、アメリカの田舎にある小さなお菓子屋さんみたいに、地域に根ざしたアットホームなお店なので、その理想が実現できている手応えを感じはじめています。

 

 

 

Alley Birthday

新潟市東区秋葉通3-13-26

070-2293-1366

11:00-17:30

水木曜他休

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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