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穏やかな気持ちで食卓を囲むお手伝いがしたい。「アトリエ妃roko」の器。

  • ものづくり | 2023.05.01

阿賀町を拠点に「アトリエ妃roko」という名前で活動する陶芸作家の清野妃呂子さん。淡く優しい色合いで、食卓でのちょっとした悩みを解決してくれるような、こだわりの詰まった器を作っています。今日は清野さんが陶芸教室を行っているという「古民家うさがくら」にお邪魔して、陶芸に興味をもったきっかけや、器作りへのこだわりについて聞いてきました。

 

 

 

アトリエ妃roko

清野 妃呂子 Hiroko Seino

阿賀町生まれ。東北芸術工科大学で陶芸を学ぶ。卒業後は宮城県の県立高校にて講師を勤め、陶芸の指導も行う。その後は陶芸材料を扱うお店で販売事務の仕事を経験。2018年夏から制作拠点を新潟に移し、阿賀町で制作活動や陶芸教室を行う。

 

人との縁でこれまで続けられてきた、陶芸。

——まず、清野さんが陶芸に興味を持ったきっかけを教えてください。

清野さん:小さい頃から絵を描くのが好きで、「絵上手だね」って言われて嬉しかった記憶がありますね。そこから「美術って楽しいな」と思うようになりました。高校卒業後は立体造形、なかでも金属工芸を勉強したいなと思って、山形の芸工大に進学しました。

 

——じゃあ陶芸を勉強するつもりで大学に進んだわけじゃなかったんですね。

清野さん:その大学では1年生のときに金属工芸、テキスタイル、漆、陶芸の4つをやってみて、それから専攻に分かれるカリキュラムだったんです。だけど金属工芸の素材に触れたときに、私には合わないなと感じて。それよりも陶芸の柔らかい造形ができるところが、自分に合っているなって気づいたんです。本当に劇的な出来事があったわけではなくて、素材に触れていて心地いいと思ったのが粘土の方だったんですよ。それで2年生からは陶芸専門で勉強しました。

 

 

——大学卒業後は陶芸に関わる仕事に就くつもりで?

清野さん:父が教員だったこともあって、新潟に戻って学校関係のお仕事をやろうと思っていたんですけど、陶芸の先生から「東京の工房で働く人を募集しているんだけど」って誘っていただいたんです。ちょうどそのタイミングで大学の教職の先生からも連絡があって「仙台で教員を探している学校があるんだけど」って言われて……。

 

——引っ張りだこじゃないですか。それでどちらの道を選んだんでしょう?

清野さん:陶芸作家の道に進むか迷っていたんですけど、なぜか教員の話をいただいたときに「行きます」って即答したんですね。教員の仕事なので陶芸は一回辞めなきゃいけないなって思っていたんですけど、そこは美術の学科がある特別な学校で、大きな陶芸窯があったんです。「土日は学校の工芸室を自由に使っていいから」と言ってもらえて、朝から学校が閉まるまで作品を作って、生徒の作品と一緒に焼いていました。その学校には7年いましたね。

 

 

——教員として働くようになっても、陶芸を続けることができたんですね。

清野さん:本当に人のご縁で陶芸ができているなって思います。その後生徒たちが作品作りをしているのを見て、自分も作家としてもっと活動したくなってきて、学校を辞めることにしました。「さてどうしようかな」と思っていたときに、勤めていた学校の校長先生から「申し訳ないんだけど、非常勤で1年だけ他の学校に行ってくれないか」って言われたので、勤務することにしたんですよ。そしたらそこにも大きな電気窯があって(笑)

 

——またまたラッキーでしたね(笑)

清野さん:そこの先生も「好きに窯を使っていいから」と。1年の勤務が終わってからも「また焼きに来ていいよ」と言ってくれたんです。その後も陶芸の材料屋さんから「事務員を探しているから来てくれないか」って、ちょうどいいタイミングで声を掛けてもらって。そこでも本当によくしてもらいましたね。そうやって周りの皆さんのおかげで、陶芸から離れることなくここまで来ることができました。

 

——新潟に戻って来られたのは?

清野さん:2018年の夏に、夫の意向で私の実家のある阿賀町に来ることになって。今日来てもらったこの「古民家うさがくら」はもともと父の生家で、今は母が運営しているスペースなんです。戻って来たタイミングで、この場所を使って陶芸体験をはじめることにしました。

 

楽しく食卓を囲める、おおらかで優しい器。

——これまで陶芸を続けてきて、作風は変化してきているんでしょうか。

清野さん:確実に変わってきていますね。学生の頃から新しいことをするのが好きで、何か自分らしいものができないかなとはずっと考えていたんですよ。それがやっと新潟に来てから確立されたように思います。

 

——清野さんが思う「自分らしい」作品っていうのは?

清野さん:私は優しい感じが好きなので、淡い色を組み合わせて、料理の邪魔をしない器を作っています。色合いは風の中にある音とか、風と一緒に流れて来る色味とか、そういう目に見えないものをイメージしています。

 

 

——かたちについてもこだわりはありますか?

清野さん:かたちは丸いものの方がおおらかな気持ちになれて好きなんです。今日持ってきているものは四角いものが多いんですけど(笑)。あと、ご飯茶碗はいろんなサイズのものを作るようにしています。

 

——それはどうして?

清野さん:ご飯を食べる量って皆さん違いますからね。大きいご飯茶碗の場合、少しだけ盛ると寂しい感じになっちゃったり、ちょうどよく盛ろうとすると盛りすぎちゃったり。他にも、ご飯茶碗にも使えるし煮物も入れられる器や、コップとして使えるしヨーグルトも入れられるものなど、いくつもの使い方を考えられるようなものも好きで作っています。それがちょっとこだわりですね。

 

 

——作った器をどんなふうに使って欲しいですか?

清野さん:実は、買って来たお惣菜とかを乗せる器に使ってもらいたいと思っていて。食べるものは同じでも、パックのまま食卓に出すのとはぜんぜん違う空間になるんですよ。だから、旦那さんと楽しく食卓を囲めるけど、自分はすごく楽ができるっていう。そのお手伝いをしたいと思っています。

 

——確かに、素敵なお皿だと何を乗せても特別感が出ますよね。

清野さん:お皿の大きさとお料理の量って本当に大事なんです。器の底面を小さくしているので、少しの量を盛るだけでも質素に見えないですし、ごろごろっと多めに盛り付けてもいいですし。楽をしてワンランク上の時間を過ごせるというか。穏やかな気持ちで食卓に座ってもらいたいと思っています。

 

——器を作るときも、そういう優しい気持ちを大事にしているんでしょうか。

清野さん:すっごく大事にしていて。自分がもやもやしているときに作ると、完成品にそのもやもやが乗るんですよ。かたちや色に迷いが出ていて、愛情を注げないっていうんですかね。気に入ったものができると「大好き!」って思うんですけど(笑)。だから「今じゃないな」って思ったら工房のお掃除とかをして、気持ちを整えてから向き合うようにしています。

 

難しさも面白さも表裏一体。

——清野さんが思う陶芸の面白さってどんなところですか?

清野さん:面白さと難しさが表裏一体だなとは思うんですけど……。陶芸って窯で焼成しないといけないので、焼き上がりまで自分の手が行き届かないんですよね。窯の中でどんなふうに変化するか、開けるまで分からないんですよ。未だに「嘘でしょ~」っていう出来になることもありますし、反対に、思ったような色が出たときはすごく嬉しいですし。陶芸ならではの面白さはそこですかね。

 

——今後はどんなふうに活動を続ける予定なんでしょうか。

清野さん:実は今後、拠点を青森に移すので、「古民家うさがくら」の営業は続くのですが、陶芸体験は6月で終了するんです。ただ移転先で作業場が大きくなるので、次はその場所で陶芸教室をやっていきたいなって思っています。作品の販売については東北6県と新潟、長野とか、できるだけ広範囲でイベントに参加して活動していきたいなって思っています。

 

 

 

アトリエ妃roko

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