「ミシュランガイド新潟2020」でミシュランプレートに掲載された「Brasserie L’orange(ブラッスリー・ロランジュ)」。オーナーシェフの安孫子さんはフランス料理の名店「ブラッスリー・ポール・ボキューズ」の六本木店と銀座店で修行し、銀座店では副料理長を務めたほどの経歴の持ち主です。フランス料理の魅力やこだわりについて、いろいろお話を聞いてきました。
Brasserie L’orange
安孫子 英和 Hidekazu Abiko
1975年新潟市西区生まれ。フランスのリヨンで半年間生活した後、帰国して調理師専門学校で学ぶ。新潟市のフレンチレストランで5年間修行してから、上京して「ブラッスリー・ポール・ボキューズ」六本木店で勤務。銀座店に移ってからは副料理長に昇格。独立を決意し新潟に戻り、2018年7月に「Brasserie L’orange」をオープン。
——まずは安孫子さんが料理人になろうと思ったきっかけから教えてください。
安孫子さん:最初は料理をやろうなんて少しも考えてなかったです(笑)。サッカーが大好きで、フランス人サッカー選手のミシェル・プラティニに憧れていたので、とにかくフランスに住みたいと思っていたんです。それで24歳のときにお金を貯めてフランスに行ったんですよ。
——それは何を目的に? サッカーをしに行ったわけではないですよね?
安孫子さん:とりあえずフランスで暮らしてみたかったんです。それでリヨンのアパートに住んで、フランス語の学校に通っていました。そのアパートで知り合った日本人の女性がいて、その人と食事をしたいがために、共同キッチンで一緒に料理をするようになったんですよ。それが料理を好きになったきっかけですね。こんな理由ですみません(笑)。でもその人には本当にいつか僕の作ったフランス料理を食べてほしいと思っているんです。
——じゃあ、その人のおかげで料理の道に進むことになったんですね。
安孫子さん:はい。その後、向こうで知り合った台湾出身の友人から、フランスで一緒に和食店をやろうって誘われたんです。そこで和食を学ぶために日本に帰国して調理師専門学校に入学したんです。でも和食を学ぶために入ったものの、今までフランスで暮らしていたせいか洋食の方が頭に入りやすくて、いつの間にか洋食を作る方が楽しくなっちゃったんです。卒業した後はホテルとレストランで迷いましたけど、フレンチレストランで5年間修行しました。
——レストランを選んだのは?
安孫子さん:ホテルのレストランはスタッフが多くて分業制で、ひとつの料理には完成まで関われないイメージがあったんです。僕は最初から最後まで料理に関わりたいっていう気持が強かったので、レストランを選びました。その後は31歳で上京して「ブラッスリー・ポール・ボキューズ」の六本木店に勤めたんです。
——「ポール・ボキューズ」って……なんか聞いたことがある名前ですね。
安孫子さん:「フランス料理界の巨匠」といわれている料理人です。そのポール・ボキューズのレストランが日本には5ヵ所あって、そのひとつが六本木店なんです。フランスや東京の名店から来た錚々たる調理スタッフが20人もいて、誰もが上に行こうと必死だから競争の激しさがハンパなかったですね。上下関係も厳しかったです。
——想像したくないくらい、大変そうですね……。
安孫子さん:当時は厳しかったですね。手が飛んでくることも多かったです(笑)。もちろん今はそんなことありませんけどね。そんな中で、とにかく周囲についていこうと必死で頑張りました。そのときから僕の座右の銘は「雑草魂」なんです。僕が特に頑張ったのは「まかない」だったんです。まかない料理は自由に作らせてもらえるんですけど、不味ければゴミ箱に捨てられるし、美味ければ認めてもらえる。美味いまかないを作り続ければ、それが評価に直結するんですよ。だから使える食材を最大限に生かして、美味しい料理を作るように頑張っていましたね。
——結果はどうだったんでしょうか?
安孫子さん:料理の味見って、上から順番に求められるものなんです。料理長が副料理長に、それから各部署のチーフ、最後の最後に我々下っ端が食べさせてもらえるんですよ。3年目のある日、料理長から直接味見を求められて驚きました。いつも叱られていた人に認めてもらったことがうれしくって、感動しましたね。辞めないで頑張ってよかったと思いました。その後、銀座店に移って副料理長になることができました。
——安孫子さんが認められた瞬間ですね。本当に頑張ってよかったですね。
安孫子さん:修行を通して得られたのは、料理の知識や技術はもちろんなんですが、それ以上に「雑草魂」でしたね。日が当たらなくても、踏みにじられても、じっと耐えて踏ん張り続ける。それがあるから、自分でお店を始めてから大変なことがあっても、踏ん張ることができるんです。
——新潟でお店を始めることになったのはどうしてなんですか?
安孫子さん:「いつかは自分でお店をやりたい」と思うようになっていたので、子どもが生まれたタイミングで新潟に戻ってきたんですよ。結婚式場で働きながら開店準備をして、2018年に「Brasserie L’orange」をオープンしました。
——どんなことにこだわって料理を作っていますか?
安孫子さん:伝統的でクラシックなフランス料理の要素は、必ず守りながら料理を作るようにしています。そこを外してしまうと、フランス料理とは違うものになってしまうと思うんです。
——具体的にはどんな部分なのでしょうか。
安孫子さん:例えばソースはフランス料理の製法をしっかり守って作っていますし、あと火入れにはこだわっているんです。機械は使わずに、自分の経験や勘を頼りに火加減の調節をしたいんですよ。だから低温調理は一切やりません。あと仕込みはあまりやらずに、オーダーをいただいてから野菜や肉をカットするようにしています。カットしてしまうと、食材が持つうま味が逃げてしまうんですよ。その分お時間をいただくことになりますけど、そこはこだわっているところです。
——そんなこだわりの詰まったおすすめ料理を教えてください。
安孫子さん:「黒トリュフのスープ」ですね。これはポール・ボキューズの店で修行して、担当したことがある人間しか作れない料理なんです。鶏ブイヨンと牛ほほ肉、香味野菜を一緒に煮込んで、そこにフォアグラのテリーヌ、黒トリュフ、牛ほほ肉などを入れ、味付けしてパイで包み焼きした料理です。
——すごくいい香りがして美味しそうですね。安孫子さんはフランス料理の魅力ってどんなところだと思いますか?
安孫子さん:フランス料理の持つクラシカルな部分に、作るシェフのオリジナリティがうまく噛み合ったときに、感動的な美味しさが生まれるんですよ。私も作ったものを味見してみて、それが思っていた以上に美味いとひとりでニヤニヤしてしまいます。そういうときは、それを食べるお客様の反応がとても気になりますね。
——最後に、これからどんなふうに料理を作っていきたいと思っていますか?
安孫子さん:「新潟の人たちに本格的なフランス料理を食べてほしい」という思いで店をやってきましたが、もっといい食材を使って、時間をかけた料理を作っていけたらいいなと思っています。これからも「雑草魂」を座右の銘にして店を続けていきたいと思いますね。
競争の激しい職場で毎日を過ごし、厳しい修業時代を経験した安孫子さん。そのとき必死に耐えて頑張ったおかげで、名店の副料理長を務めるまでになりました。そんな安孫子さんが伝統的な製法にこだわって作る「Brasserie L’orange」のフランス料理、ぜひ皆さんも味わってみてください。本当のフランス料理の美味しさを感じることができると思いますよ。
Brasserie L’orange
新潟県新潟市東区牡丹山5-14-11
025-278-7910
11:30-14:00/17:30-20:30
木曜第2火曜休